ビブリオのリスクは上昇する

No.16(2022.08.03)

国立医薬品食品衛生研究所が集めた食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報から。欧州食品安全機関(EFSA)の研究によると、サルモネラ汚染率は検体の移動距離に比例して上昇することが示された。ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)は、病原性ビブリオ属菌に汚染された水産食品の喫食による食品由来感染症のリスクは次第に上昇すると考えており、消費者に対する注意喚起を行っている。

注目記事

【ドイツ】ビブリオによる食品汚染のリスク評価

 ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR: Bundesinstitut für Risikobewertung)は、消費者に対し、すべての水産食品を確実に十分に加熱調理するよう注意喚起している。食品を内部温度が70℃以上の状態で2分間加熱することで、食品内部のビブリオ属菌を安全に死滅させることができる。

 ビブリオ属菌は世界各地の環境中に広く存在する細菌であり、魚・魚製品などの水産食品の細菌汚染の原因となることが多い。これらの食品を生または加熱不十分な状態で喫食すると、食品中に存在するビブリオ菌によって下痢症状を呈する可能性がある。

 世界的な海水温の上昇も、ビブリオ属菌の増殖の好条件となっている。ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)は、病原性ビブリオ属菌に汚染された水産食品の喫食による食品由来感染症のリスクは次第に上昇すると考えている。

 イガイや牡蠣などの固着生物は、生育環境で海水を濾過することで餌を摂取しているため、高濃度のビブリオ菌に汚染されている可能性がある。購入可能な商業用水産製品のほとんどは、加熱処理またはその他の処理(マリネ、燻製、乾燥、塩漬けなど)のいずれかが施されているため、細菌汚染は低濃度であると考えられる。

 免疫機能が低下している人や慢性肝疾患などの既往歴がある人では、生の牡蠣の喫食は、ビブリオ属菌による食品由来感染症の健康リスクにつながる可能性がある。喫食した牡蠣が毒素産生性(trhまたはtdh遺伝子陽性)のVibrio parahaemolyticus(腸炎ビブリオ)株またはV. vulnificus株に汚染されていた場合は特にその可能性が高い。

 ドイツでは、ヒトのビブリオ属菌感染をロベルト・コッホ研究所(RKI)に報告することが2020年4月に義務化された。

【欧州】ブタ屠体のサルモネラ汚染リスク評価モデル

 欧州食品安全機関(EFSA: European Food Safety Authority)の研究。本プロジェクトの主な目的は、ブタ屠体におけるサルモネラ属菌の汚染率を特定することである。これに加え、特定の要因がサルモネラ汚染率に及ぼす影響についても評価を行い、@Risk(version8.1)ソフトウェアを使用して確率的シミュレーションモデルを作成した。

 ブタ屠体におけるサルモネラ汚染率は2.6%と推定された。検体が採取されたブタ屠体の供給元農場からと畜場までの平均距離は200.92 kmであった。また、これらのブタ屠体の平均重量は127.97 kgであった。

 平均距離より遠い農場由来の検体ではサルモネラ汚染率が1.7ポイント高く(4.3%)、平均重量より重い検体の汚染率は0.2ポイント高かった(2.8%)。確率的シミュレーションモデルにもとづくと、サルモネラ汚染率は検体の移動距離に比例して上昇すること、および汚染率が衛生基準値を超える確率は8.1%であることが示された。

 また、サルモネラ汚染率の上昇は検体の重量にも比例することが示されたが、上昇の程度は低かった。

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(微生物)No.16(2022.08.03)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2022/foodinfo202216m.pdf

今号の目次

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. 小型のカメに関連して複数州にわたり発生しているサルモネラ(Salmonella Stanley)感染アウトブレイク(2022年7月21日付初発情報)
2. Fresh Express社が製造した包装済みサラダに関連して複数州にわたり発生したリステリア(Listeria monocytogenes)感染アウトブレイク(2022年3月8日付最終更新)
3. Dole 社が製造した包装済みサラダに関連して複数州にわたり発生したリステリア
(Listeria monocytogenes)感染アウトブレイク(2022年4月4日付最終更新)

【カナダ公衆衛生局(PHAC)】
1. 国外旅行に関連していないサイクロスポラ感染を調査中(2022年7月27日、13日付更新情報)
2. 公衆衛生通知:Hankook ブランド(ブランド名はハングル表示)のキムチ「ORIGINAL
KIMCHI」に関連して発生した大腸菌 O157感染アウトブレイク(2022年3月29日付最終更新)

【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and
Feed)

【欧州食品安全機関(EFSA)】
1. ブタとたいにおけるサルモネラ属菌汚染のリスク評価モデル

【アイルランド食品安全局(FSAI)】
1. 食用卵(table egg)生産チェーンの公的管理に関する監査報告書

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. 食品由来ビブリオ属菌感染症:ビブリオ属菌(非コレラ性ビブリオ)による食品汚染の健康リスク評価
【ProMED-mail】
1. コレラ、下痢、赤痢最新情報(26)(25)