2019年食の10大ニュース[6]

フードサービス業の視点から2019年を振り返ってみた。

  1. 働き方改革スタート
  2. キャッシュレス決済導入が加速
  3. 消費増税で国が外食産業を抑圧
  4. 飲食店の倒産件数過去最多の勢い
  5. プラスチックストロー排除
  6. 食のバリアフリーに関心
  7. サイゼリヤが禁煙前倒し
  8. タンパク質食材の多様化
  9. 国民的イベントの消費取り込みに課題
  10. 今年の味覚「麻辣」「タピオカ」「バスク風チーズケーキ」

1. 働き方改革スタート

 働き方改革関連法が4月から順次施行、残業時間の上限規制、有給休暇取得の義務化などがスタートした。経営効率の低い中小飲食店に重い課題となった。

2. キャッシュレス決済導入が加速

 経済産業省のキャッシュレス・消費者還元事業もあって、チェーンだけでなく中小・零細店でもキャッシュレス決済の導入が進んだ。設備・手数料対客数増の費用対効果の予測から導入はまだ早いと見るチェーンも。

3. 消費増税で国が外食産業を抑圧

 消費税率が10%に引き上げられた一方、外食と酒類を除く飲食料品に軽減税率が設定された。一度の消費金額にかかわらず店舗で食事をすることを一律に「贅沢」と見なす無知・不見識から飛び出した突飛なアイデアだったが、外食業界が正しい説明、理解の普及に努めなかったために本当に施行されてしまった。

4. 飲食店の倒産件数過去最多の勢い

 帝国データバンク(12月13日発表)によると、1月~11月の飲食店事業者の倒産は668件で、通年では過去最多となっている2017年(707件)を上回る勢いとなっている(通年では728件前後と予測)。

 個々の事情はさまざまだが、全国的に原材料費の高騰、家賃の高騰、人件費の高騰という「三重苦」が続いている。人件費は10月発効の最低賃金は全国平均901円、東京・神奈川で1,000円を超えた。労務については給与を高く設定しても人が集まらない人手不足が常態化している地域や業種も多い。

 そこへ追い打ちをかけるように上記1、2、3の政策が降ってきた形。非チェーンの店がポピュラープライスで事業を継続していくことが極めて難しくなった節目の年となった。チェーンなど成長戦略をとってきた外食企業にとっても厳しい。

 日本フードサービス協会(JF)は7月の参議院議員選挙で中田宏氏を公式に「応援」したが、落選した。

 生き残りのためには大規模化も必要で、大手、中小とも、M&Aなど再編の動きが見られた。

 前向きで長期的視点からの対策として各種の業務の機械化、自働化、情報化、セルフ化、キャッシュレス化や、さらにそれらを統合する仕組みを備えた店舗の研究を進めている企業もある。それを進めた上でなお、コンビニエンスストアやスーパーマーケットとは異なるフードサービスであるという新しい業態作り、消費スタイルの提案が必要になっている。

5. プラスチックストロー排除

 年の前半はヨーロッパでプラスチック製品排除の動きが出ているというニュースだったが、グローバルチェーンがこれに迅速に反応してプラスチックストロー廃止に着手し、ドメスティック企業、中小・零細にも波及した。

 プラスチックストローを提供すると問答無用で怒り出すクレーマー、いわば“プラスチック紅衛兵”も登場し、震え上がる飲食店も。

6. 食のバリアフリーに関心

 インバウンドの増加と、2020年東京オリンピックを1年後に控えるなか、多様な宗教、信条、習慣、ライフスタイル、健康上の事情等に配慮し、どのような人にも食を楽しんでもらえるようにという“食のバリアフリー”への関心が高まり、さまざまな企業、団体等がオペレーション方針や教育プログラムを提案した。

 共通する基本は、個々のお客に説明をすること、事情・希望に耳を傾けることだ。

7. サイゼリヤが禁煙前倒し

 サイゼリヤが当初9月に予定していた全店舗・全席禁煙化を6月1日に前倒しした。7月には改正健康増進法による「原則敷地内禁煙」が学校、病院、児童福祉施設等、行政機関でスタート。2020年4月には全面施行=原則屋内禁煙(飲食店やオフィス、事業所、交通機関などを含む)となる。

8. タンパク質食材の多様化

 畜産原料を使用しないフェイクミート(人造肉)、組織培養で肉を生産する培養肉などの話題は近年増えているが、今年は環境問題やアニマルウェルフェア、ヴィーガニズムやベジアリアニズムなどとからめて紹介される機会が増えた。

 また、日本は7月から商業捕鯨を再開した。また、農林水産省は近年駆除動物を「ジビエ」と称して食肉利用する施策をとっている。農水省はこれらの利用に関するコミュニケーションに注力している。

 ロッテリアは今年、フェイクミート使用商品、ジビエ使用商品の両方をそれぞれ期間限定販売した。

 外食業にとって動物性タンパク質は価値作りのための重要なアイテムだが、それに関する市場の反応、考え方が変わりつつあり、タンパク質食材が多様化し始めている。

9. 国民的イベントの消費取り込みに課題

 天皇陛下が御即位された。その御行事に伴って、4月〜5月にはこれまでにない大型連休が設定された。外食業にとっては大きな商機となったが、外食産業への効果をはっきりと実感できる統計はあまりない。旅行などで消費が全国あるいは海外に拡散したかもしれない。

 他方、9月〜11月には、ラグビーワールドカップ2019が日本で開催された。ラグビーファンのパブ利用が増え、通常では考えられない量のビールが消費されるという注意喚起もされたという。実際、英国式パブ「ハブ」では大きな売上増が見られた。

 こうした大イベントを一過性の“ボーナス”に終わらせず、新しい消費スタイルの創造のきっかけにしたいところだが、オリンピックではどのような動きが見られるだろうか。

10. 今年の味覚「麻辣」「タピオカ」「バスク風チーズケーキ」

 今年の味覚を3つ挙げてみた。

 通年で話題を維持したのはタピオカだろう。若者が主体の消費だが、うらやましがった大人が揶揄的に話題にするなど屈折した話題も。それだけ目立つ存在となった。新店も登場したが、既存チェーン等がうまく商品化したことも裾野を広げた。

 とくに前半で各社が新商品を発表したのは麻辣味の商品だった。花椒(ホアジャオ)と唐辛子を使った、辛みだけでなく舌にしびれを感じさせる味覚の商品が、レストラン、ファストフード、コンビニ等で扱われた。

 もう一つはバスク風チーズケーキ。略して「バスチー」。専門家の間では2011〜2013年頃から話題で、製菓材料の問屋のカタログでルセットが紹介されてきた(バル風チーズケーキ)。昨年あたりから東京にも専門店が登場し、今年はコンビニエンスストアが扱ったことで一気に大衆化した。ほぼまるごとクリームチーズという商品。食べ過ぎにはご用心。


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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →