農産物を評価するには実態を知る必要がある

かつてないほど、農産物の安全性が注目されるようになってきた。口にする食品であるから安全性が大事であるのは当然のことだが、農産物ほどさまざまな観点から安全性が注目されているものはないだろう。

需要の現場に生産の現場の情報が不足している

 現在の日本では、食品が安全であるというのは大前提で、食中毒はおろか表示ミスがあったというだけでニュースになるほどだが、実際には、世界的に見ても日本は食に関して最も安全な国の一つであるのは間違いないはずだ。

 それにもかかわらず農産物の安全性に関心が持たれ、問題があるように語る人も多いのはなぜだろうか?

 筆者自身は、2つの理由があると考えている。

 1つは、農産物の生産現場の実際の状況が、消費者に全く知られていないためだ。どこでどのように作られているかがわからない。見たことがなく、正確なイメージも持てない。そこは、生産工程が管理され記録もある工場とは違う。だから、農産物は「なんとなく不安」と思われてしまう。

 もう1つは、農薬、化学肥料、あるいは遺伝子組換え作物など科学的な資材・手法を用いる農業に対する過剰なほどの不信感ではないだろうか。これらについての消費者向けの情報は、健康不安、環境汚染、危険性に関するものに偏り、あふれているようだ。

 あらゆるものにはリスクがある。だからその危険因子を取り上げて危険性を煽るのは簡単だ。本当はそのようにではなく、何がどの程度危険でどの程度安全なのか、という点に関して慎重に検証・検討し公平な情報を共有すべきだ。

 ところが、冷静な議論にならないことも多い。感情的、情緒的な議論になることが往々にしてあるのだ。消費者の不安をなくしていくには、農産物の生産のしくみと安全性について、実態を知ってもらう必要があると思う。

“安全”を公平・科学的に考える

 とくに農産物の安全性の問題については、生産者や販売者が説明しても、「当事者に言われても」と今ひとつ信用されないこともあるだろう。また、学者が語る学術的に正しい事柄というものは、一般人には理解しにくい部分があるし、ビジネスにはうまく役立たないこともある。

 筆者は農業の世界に飛び込んで約30年、コンサルタントとして独立してから17年を経ている。基本的には栽培技術指導をメインに国内外を飛び回っているので、さまざまな栽培現場の状況を知っている。一方、農業法人、農業資材メーカー、食品加工業、食品流通業など、農業に関連するあらゆる分野のコンサルティングも行なっているから、栽培現場の真実をいかに消費者に伝えるかについて考える場面も多い。

 したがって、筆者は、立ち位置としては生産者側にあるかもしれないが、特定の栽培技術、農産物、企業を擁護する立場にあるわけではなく、比較的公平に現場を見ることが可能な立場にあると考えている。

 そこでこの連載では、農産物の安全性、おいしさ、栄養価、最新技術の動向などについて、公平で科学的にうなずける内容を、消費者の方にわかるようになるべく専門用語を使わずに書いていきたい。

 このことが農業生産者だけでなく、消費者との接点を持つ流通、小売、外食等の仕事にも役立つことを願っている。

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About 岡本信一 41 Articles
農業コンサルタント おかもと・しんいち 1961年生まれ。日本大学文理学部心理学科卒業後、埼玉県、北海道の農家にて研修。派米農業研修生として2年間アメリカにて農業研修。種苗メーカー勤務後、1995年農業コンサルタントとして独立。1998年有限会社アグセスを設立し、代表取締役に就任。農業法人、農業関連メーカー、農産物流通業、商社などのコンサルティングを国内外で行っている。「農業経営者」(農業技術通信社)で「科学する農業」を連載中。ブログ:【あなたも農業コンサルタントになれるわけではない】