「よい農産物」とはどんな農産物か?

硝酸態窒素が増える問題の本質

さて、硝酸態窒素が人体の中でどのように亜硝酸に変化するのかがわかってきたのは、ここ20年ほどのことのようである。硝酸態窒素は問題であるとして取り上げられるようになった1940年代には、はっきりとわかっていなかったらしい。 硝酸態窒素の危険性についての学界の評価  この最近の研究成果や硝酸態窒素の危険性について詳細に書かれている書籍があるので、興味のある方は読んでいただきたい。 ※「硝酸塩は本当に危 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

化学肥料を使う農産物の安全性

次に化学肥料について、農産物に与える影響について書いてみよう。 化学肥料を使っても植物が吸収するものは同じ  まず、第一に押さえておきたいのは、化学肥料を使用したからといって、農産物が人体に危険を及ぼすようになるような心配は全くないということだ。土壌中にある栄養分が天然由来や堆肥等であろうと、化学肥料であろうと、植物がある成分を吸収した場合、植物の体に入る成分は同じものであるということだ。  先に […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

「天然物なら安全」と考えるのは誤り

さて、木酢液の使用や流通は、上記のように条件付きながら法令上は問題ないのだとして、では、これを現実の安全性で考えた場合はどうなのだろうか。 登録農薬よりも安全とは考えられない  筆者の考えとしては、木酢液を食用・食品原料となる農産物に使用することには疑問がある。少なくとも、収穫物に直接散布するようなことは、避けたほうがよいと考えている。  木酢液は天然物由来ではあっても、その製造過程で各種の有機化 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

特定農薬に指定されていない木酢液

リスクの考え方、農薬の一般的な説明と現在の日本の農産物の残留農薬の状況について説明してきたが、これらを危険・安全どちらと考えるか、仕事や生活に受け容れるかどうかの判断は、新幹線を利用するか利用しないかを考えるのと同じように(第2回参照)読者一人ひとりに委ねられている。 “農薬ならぬ農薬”木酢液をどう考えるか  ところで、ここで“農薬ならぬ農薬”についてお話しておきたい。すなわち、天然物由来の各種資 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

市販農産物による健康被害の可能性は低い

また、残留農薬の基準を超えていると聞くと、あたかも農薬がベットリと付着しているイメージを抱くかもしれないが、そのイメージは修正する必要があるだろう。ポジティブリストに入っていない農薬の残留基準は一律に0.01ppmである。1ppmというのは100万分の1ということだから、0.01ppmとは1億分の1ということだ。  100gの農産物から100万分の1gの農薬が検出されると、残留農薬の基準を超えてい […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

「240万件のうち65件に残留」をどう評価するか

現在日本で市販されている農薬は、使用量、使用回数、使用方法、収穫までの日数による制限など、使用に際してのさまざまな事柄が細かく定められている。1作の中で定められた使用回数を超えて使用してはならないし、収穫日に近い日に使用する場合も、収穫までの日数によって使用できるか、できないかの制限がある。これら使用基準を守っていれば、残留基準を超えないという基準である。 農薬の残留基準は個別に厳密に定められてい […]
理想的な灌水量を求める試験風景
土を知る、土を使う

世界の土 vi/中国東北部(2)

北京郊外から東北部に分布するオリーブ色の土は、日本の土壌に慣れた人にとっては、営農上、非常に扱いにくいものです。粒子が細かく、しかも粒径がそろっているために、この土は非常に固く締まります。このため、耕す作業にも苦労しますし、根が張りにくく、また灌漑の方法に注意しなければ根が窒息することも考えられます。 栄養面での心配は少ない土壌  しかし、現実にはトウモロコシや小麦などの作物が大面積で栽培されてい […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

絶対的な評価を下したい心を警戒する

ところが、人はわかりやすい一般的な解決策を求めたがるものだし、どこかに何にでも効く万能薬があると信じたがる傾向がある。それで、栽培の勉強会で最も多く質問されるのがこの質問である――「何かよい肥料/農薬はないですか?」  この質問の意味は、「効果が高く、安くて、副作用がない肥料/農薬はないか」ということだ。  筆者はこの質問が出たとき、必ず反対に質問することにしている――「石灰はいい資材だと思います […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

50年前の考え方で今日の農薬を評価することはできない

消費者の間ではよく理解されていないが、農薬はこの50年あまりの間に大きな変化を遂げている。「沈黙の春」(レイチェル・カーソン)が発表された1960年代から「複合汚染」(有吉佐和子)が発表された1970年代の農薬と、今日の農薬とを同じように考えることには無理がある。 現在の農薬は危険性がコントロールされている  まず、これまで述べたような残留性のある化学合成農薬の大部分は、すでに淘汰され、黎明期の農 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

化学肥料の問題点は“依存”にある

先に、化学肥料を与えるだけの栽培を続けていると、農産物を生産する畑としての機能を失ってしまうと書いた。そのメカニズムをもう少し詳しく見ておく。 化学肥料自体に問題はなく化学肥料依存が問題  化学肥料というのは、植物に必要な栄養分を人工的に化合して作ったもので、たとえば窒素肥料であれば、窒素と別の物質がくっついている。窒素肥料の代表的なものに硫安があるが、これはアンモニウムイオン(NH4+)と硫酸根 […]
中国東北部の土
土を知る、土を使う

世界の土 v/中国東北部(1)

中国の土はその土色で大きく4種類に分けられます。南の赤い土、揚子江流域から山東半島の黄色い土、北京郊外から長春あたりにかけてのオリーブ色の土、そしてチチハルから内モンゴルに分布する黒い土という具合です。この分類は実はかなり古い中国の土壌研究の文献にも登場しています。 ゴビ砂漠から飛んできた微細な粒子  今回は、この中から北京郊外から東北部に分布するオリーブ色の土について話をしていきます。  この土 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

有機栽培は作物の安全・安心のためではなかった

農薬にはどのような危険があるだろうか。また、どの程度危険なものなのだろうか。これはものによって一様ではなく、時代によっても異なる。たとえば、化学合成農薬の中でも、かつて販売されていたり広範に使用されていたものには、かなり危険なものがあったが、今日流通している農薬は、それらとはまた事情が異なる。 農薬の急性毒性・残留性・催奇性  農薬の危険性として、まずいちばんわかりやすいものは、飲むと死んでしまう […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

有機農業を理解するには農薬と化学肥料を理解する必要がある

現在、安全や安心な農産物と言った場合、多くの人がイメージするのは、“科学技術に頼らない”有機栽培などの栽培方法を行なっている農産物ということになるだろう。では、有機農産物は実際に安全・安心で栄養価が高いと言えるだろうか。 化学農業時代が有機栽培を生んだ  それを考える前に、まず有機栽培とは何かということを押さえておきたい。  かつて化学肥料は“金肥”(きんぴ)などと呼ばれていた。金で買う肥料、高価 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

時代によって変わった“安全”の中身

前回の、利益(ベネフィット)と危険性(リスク)を秤にかけて考えるということは、もちろん交通機関だけの話ではない。危険性を最少にするという努力こそ、あらゆるリスク管理に通じる対応だと言うことができる。 安全でなければ危険ということではない “安全ではない”=“危険で利用できない”ということにはならないのだ。「誰も安全と言い切ってくれないから危険」ということにもならない。  裏を返せば、便利だと使われ […]
オーストラリアの茶園
土を知る、土を使う

世界の土 iv/オーストラリアでの茶栽培(2)

前回書いたように、2000年2月、筆者はオーストラリアでの茶栽培の可能性を調べる調査のため、シドニーの北に位置する地帯と、西オーストラリア南端に出向きました。  日本の茶業試験場に相談したところ、「全くダメだろう」ということでしたが、そういう回答だった理由から考えてみましょう。 オーストラリアの全土が乾燥帯なのではない  茶樹(チャノキ)という植物と、オーストラリアという立地の組み合わせを考えた場 […]