2016年食の10大ニュース[7]

農業関連の話題をまとめました。

  1. TPP迷走の中で日本の立場鮮明に
  2. 北海道の台風で需要者サイドに混乱
  3. 原料原産地名表示という消費者庁の変節
  4. 地理的表示登録数が24に
  5. 輸入米価格偽装が白日の下に
  6. 築地市場の豊洲移転問題で市場会社悲鳴
  7. 鳥インフルエンザの猛威
  8. 日本の農業人口が200万人割れ
  9. バターに関する「ガイアの夜明け」のインタビューで炎上
  10. 小泉進次郎v.s.農協

1. TPP迷走の中で日本の立場鮮明に

 2月に日本やアメリカなど12カ国が署名。離脱を表明しているドナルド・トランプが11月に大統領選に勝利。12月に衆議院で可決、承認。TPPの成否は不透明だが、日本の生産と貿易に対する態度は鮮明にできたと言える。

2. 北海道の台風で需要者サイドに混乱

 8月に北海道に3つの台風が相次いで上陸した後、8月30日に岩手県から日本海へ抜けた台風10号によって北海道各地で浸水等の被害が発生。直後から外食等の需要者方面にすべての農産物が全滅したかのようなパニックが走り、消費地では農産物の高騰が見られたが、その後それぞれの実際の状況がわかるにつれて沈静化した。

 なお、生産にもまして物流インフラの被害が目立った。とくに鉄道は各地で寸断し、トラック輸送に切り替えのため、今度はトラックが逼迫。インフラを守る体制に根本的な問題があると言える。付け加えて言えば、3月に北海道新幹線が開業したが直後から客不足が問題化している、さらにはそれが貨物列車を通すために新幹線が減速せねばならないためであるなどと説明しているというのは、今日の北海道の鉄道なかんずく青函トンネルの主要な役割を無視しているか忘れていることを象徴する愚である。

 また、これまででは考えられなかったような激甚な気象状況の発生とそれによる被害というのは、地球の気候変動により今後も繰り返し起こってくる可能性が高いと公的な機関も指摘している中なので、物流インフラを社会全体で考え直すようにする必要がある。当然、鉄道会社の経営やガバナンスにもメスを入れる必要がある。

3. 原料原産地名表示という消費者庁の変節

 消費者庁が原料原産地名表示という非科学的・非現実的な取り組みに入れ揚げ、生活者のための組織から国内第一次産業生産者のための組織への変節すなわち“農林水産省化”を始めた。

 かつて、石油はスタンダードを定めることによって利用と流通が進んだ。近代製造業、あるいは近代医学は、すべてこの標準化を重要な基盤として発達してきている。鉄と言えば完全無欠な鉄を、炭素と言えば完全無欠な炭素を、ナイロンと言えば完全無欠なナイロンを志向して準備される。

 薬剤師が薬剤を希釈するときに「日本薬局方精製水はやはり福岡産に限るな」などということがないように、「コーラに使う炭酸ガスは川崎産がイチバン」などということがあってはならないのが、この世界である。同様に、性状による分類や等級分けはあったとしても、小麦粉は小麦粉であり、大豆は大豆であり、りんご果汁はりんご果汁である、べきものとして準備されている。言語に文法があるように、スポーツにルールがあるように、食品の原材料はある。

 プロダクトの個性は、それらを組み合わせる設計と手順による。製品によっては個性のある原材料も使うことがあるが、それは建築で言えば一般の部材に用いる木材とは別の、床の間などに使う銘木に似たもので、別な管理をすべきものだ(事項参照)。

 しかるに、今消費者庁が進めようとしている「国内で製造し、又は加工した全ての加工食品」について「重量割合上位1位の原材料」の原産地名を表示させようというのは、産業界が可能な限り個性(品質のばらつき)を抑え込もうと知恵とコストを費やしていることをすべて無に帰すものと言える。これは近代製造業の否定であり、JASやJISあるいはISOのコンセプトにも反するし、コーデックス委員会の設置目的の一つ「食品の公正な貿易の確保」にも反する。しかも、生活者の食品選択の基準と食品に対する興味をフェティシズム的な不健康な方向へ誘導する歪んだ企てだと言わざるを得ない。

 何より悪いことは、これによって一般の食品の価格が上昇することが容易に予測されることである。

4. 地理的表示登録数が24に

 地理的表示法に基づき昨年からスタートした登録制度で、2016年は新しく17件が登録され、合計24件となった。イグサや生糸等を除くと食品で20件となる。

 地理的表示(GI)保護制度は、原料原産地名表示とは違って理がある。それは、「地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物食品のうち、品質等の特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称(地理的表示)が付されているもの」を知的財産として保護するというものだからだ。

 産地や名前が他と異なるだけでなく、実際に品質等の特性に個性があることが前提だ。

 原料原産地名表示を認めることは、こうした他の制度との齟齬も問題になってくるだろう。

5. 輸入米価格偽装が白日の下に

 ミニマムアクセス米の大半が工業製品に使われていることは常識であった。ミニマムアクセス米のうちSBS(売買同時契約)で入る米は多くが飯米だと言うが、これも外食など産業向けが主体と考えてよい。これら産業で用いられる米というのは、価格の安さを重要な決め手として選ばれているということも、一般的な常識である。

 きょうび国産をうたえないのに価格が高い米を企業がわざわざ選ぶことはない。輸入米を産業で使っているというのは、安いからに違いないということは誰にもわかることだ。ただ、役所も農家も、気にしないことにしていただけだ。のみならず、誰もが気にしないで済む仕組みも作っていた。

 その実態をきちんと調べて、おかしいことをおかしいと指摘した毎日新聞の報道は、模範的で基本的で重要な報道だと言える。

 惜しむらくは、もっと前であったらということだが。

 もう一つ付け加えると、こういう米を使っていた外食企業は少なくともCSR上改善すべき問題がある。

輸入米価格偽装(毎日新聞)
http://mainichi.jp/ch160934131i/%E8%BC%B8%E5%85%A5%E7%B1%B3%E4%BE%A1%E6%A0%BC%E5%81%BD%E8%A3%85

6. 築地市場の豊洲移転問題で市場会社悲鳴

 築地市場と言うと水産の印象が強いが、青果も扱う東京都中央卸売市場の一つである。これの豊洲移転が停止されていることは、当然青果部にも影響を及ぼしている。いつまでにどうするということも定まらないようでは、損切りも出来ず二重投資が続き、経営的な損害は甚大なものとなっていくだろう。

 一方で、これからの卸売りの機能はいかに行政と手を切っていくか、そこを真剣に考えるべき時代になっているとも考えさせられる。

7. 鳥インフルエンザの猛威

 今年だけの話題ではないものの、青森、新潟、北海道、宮崎、熊本の各地の家禽で被害が大きくなっている。

 蛇足ながら、この時代にウインドウレス鶏舎以外の飼育方法を採る生産者の冒険的意欲の壮大さというのは想像を超えるものだ。

8. 日本の農業人口が200万人割れ

 日本の農業の就業人口が初めて200万人を割り込んだ。統計的に予想されていたことなので驚くには当たらないが、社会科の試験問題で2016年という年号を問われるようになるかも知れない。

 就農人口を増やすように税金を使うのでなく、少ない人によって儲かる農業を創っていくように社会全体が動くようにしていきたいものだ。

9. バターに関する「ガイアの夜明け」のインタビューで炎上

「日経スペシャル ガイアの夜明け」(テレビ東京)の11月22放送「巨大“規制”に挑む!〜明かされる『バター不足』の闇〜」の中で、ホクレン職員がインタビューに応え、バターの供給を意図的に制限していたというような説明をしたことがSNS等で炎上することとなった。

 番組は生活者が漠然と抱いていた「おかしい」という感覚に応えたという意味では評価したいが、エンターテインメントとして扱うには重い話題であり、また、とくにホクレンだけに非があるのではなく、制度に問題があることであり、報道番組で正面から扱ってほしいと感じた。

10.小泉進次郎v.s.農協

 昨年に引き続き、小泉進次郎と系統サイドのバトルが見られたが、個人的には、両者の盛り上がりに比べて現場方面ではしらけがあると感じた。

 小泉進次郎は「農政改革3つの公約」として、「補助金漬け農政と決別」「農協改革の手綱を緩めない」「生産者起点から消費者起点へ」といったことを挙げている。ただ、産業としてどう盛り上げるかよりも、ブレーンの影響なのかもしれないが旧制度批判と“農協憎し”のノリが出過ぎてしまっている印象がある。

 古い体制を新しい時代に合わせて打破することも必要だが、それが過去どのような役割を果たしたのかを評価した上で取り組むことが、創造的破壊を迅速かつ効果的にするだろう。これは上記バターの一件にも通ずる。

齋藤訓之
About 齋藤訓之 289 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。「FoodScience」(日経BP社)では「食の損得感情」を連載。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ → ※齋藤訓之のブログ →