検証・渥美俊一氏のチェーンストア理論(15)サバブは死んだ

渥美俊一氏がチェーンストアの立地戦略として打ち出したサバブ戦略は、かつては有効なものであった。しかし、少子高齢化の今日まだサバブにこだわることは自滅を意味する。さらに、店舗の適正なハードも考え直す必要がある。また、そもそもの財務戦略が今日ほとんど不可能なことではないか、見直してかからなければならない。

今日の日本のどこにサバブがあるのか

 渥美式チェーンストア理論の中で、立地戦略の中核をなすものが“サバブ戦略”です。

 多くの都市の中心にはダウンタウン(downtown)があります。これは街道筋に商店街が発達したような所です。その近くには高級住宅街であるアップタウン(uptown)があり、それらの周辺に広がる住宅密集地をアーバン(urban)と称する。

 これらの地域は人口は多いものの地価が高いのが欠点です。また、多い人口のすべてが等しく高い購買意欲を持っているとは限りません。

 一方、ルーラル(rural/郊外、田舎)では商業地としては人口が少なく、購買意欲も高いとは言えません。

 それに対して、ダウンタウンから離れた地域に新しく開発された住宅地すなわちサバブ(suburb)は、まず地価が安い。そのため、若い世代が住宅を求めて集まり、人口が右肩上がりで増加する。彼らは子育て世代であるため、購買意欲が高い。しかも早くに入れば競合店のない無風地帯である。したがって、サバブへの積極出店が、チェーンストアの成長を支える――という話です。

 2012年の今日、この説明を受けて、強く同意できるでしょうか。

 確かに、高度成長期にそういう場所はありました。東京の多摩地区などは代表的なサバブだったでしょう。

 では、今日、この説明にあるサバブに該当する地域を挙げることができるでしょうか? そんな夢のような場所はないというのが真実ではありませんか。

 これからのチェーン・ビジネスの成功、成長を考えるには、まずこの“サバブ神話”を忘れなければいけません。

 サバブは死んだのです。

 かつてのサバブは、現在は日本の少子高齢化の縮図というよりも誇張されたモデルとして台頭してきています。前回述べたように、ここに店舗を持つチェーンは、まずそのビジネスの内容を(撤退ありきではなく)考え直さなければいけません。そして、不可能なサバブ探しや若い人にサバブのよさを教えることを中止することです。

 ダウンタウン、アーバン、またアーバンとサバブの中間に位置するとされるエクサーブも含めて、あらゆる立地について、あらゆる可能性を考え、自社の可能性を選択していくことからしか、今後のビジネス展開はできない事情を直視しなければいけません。

 立地戦略は考え直す必要があります。加えて、渥美俊一氏がしばしば「国内でもできていないのに海外など考えるべきではない」と封印してきた海外戦略も、今は積極的に考えるべきでしょう。

三現主義で考えればアメリカ型店舗を使うのは誤り

 このサバブ戦略も、アメリカのチェーンストアの実績から得たものですが、アメリカのチェーンストアが使っている店舗は、日本では現実的ではないということも、そろそろ認めるべきです。

 アメリカのショッピングセンターは、通路が非常に広いものです。大型のショッピングカートを押して歩いても、すれ違うカートとぶつかることはありません。小売業のチェーンストアを展開している方々はこれにあこがれるようですが、日本がそれを目指すべきかどうかを考えてください。

 アメリカの住宅は広く、冷蔵庫も大きく、一方店舗と住宅は離れて立地する前提があります。だから、彼らは週に一度など大量に買い込んで大きな車に積んで帰るのです。

 だから駐車場も大きい。大型車が入る上に、前進・後退・停止ができれば免許をもらえると言われるように、日本人のような緻密な運転はしない人が多い国です。

 日本のチェーンストアの方は、ショッピングセンターに、やはりそれと同じ規模・形の駐車場を設置するのが理想と考えているようですが、そうでしょうか? 標準的な車の大きさ、買い物の頻度、体格、運転の癖、家の大きさ、冷蔵庫の大きさなどなど、“現地・現物・現状”の三現主義の目で見れば、過剰設備とわかるのではないでしょうか。

土地神話が崩壊し上場の是非が見直されている今日の中で考え直す

 立地戦略とからんで、財務戦略についても、2011年3月発行の「チェーンストア経営の原則と展望・全訂版」(渥美俊一著、実務教育出版/改訂第11版第2刷)には、驚くべきことが書かれています。

 チェーンストアの資金対策として、まず、何をおいても株式上場が先としています。そして、自己資本構成比率40%を保つために、以下による増資が必要としています。

1.大株主の年ごとの所得の拡大
2.第三者割当て
3.社員持株制(10%まで)
4.新しい出資者としてはファイナンス会社(ファンド)を避ける

 また、土地を購入することで法人資産価値を増やすことを勧めています。

 さらに、高収益経営を続けることで利益額を増加させることも必要としています。

 いいですか。今、多くの経営者はこれができなくなっていることで頭を痛めているのです。

 株式上場で大きな資金調達ができるとは限らない時代になっています。一方、上場企業であることで、独自の経営を展開したり大きな舵を切ることがやりづらくなることを嫌って、上場をしない企業、MBOで上場を廃止する企業も現れて久しいのです。

 そして、成長は鈍化し、利益は出にくくなり、報酬や人件費を十分に確保することが難しくなっています。その環境で大株主の所得増大や社員持株制を前提にすることは困難でしょう。

 その上で、ファンドなしに大きな資金調達を考えることは非常に難しい。

 そして、そもそも土地の所有が法人資産価値を増やすというのは過去の話であり、今日では全くの夢・幻です。

 かつての経営手法として、これを勉強しておくことはよいかもしれません。しかし、今日不可能なことを理想として掲げたままでは、それができない自分や自社の自信を喪失するばかりです。

 私が新しいチェーン・ビジネスをいっしょに考えましょうとお話しているのは、そのためなのです。

About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/