検証・渥美俊一氏のチェーンストア理論(5)ZD運動的な教育には無理がある

渥美俊一氏が志向したチェーン教育は、いわばZD運動的な欠点を許さない、完璧な人材を求めたものと言える。しかしそこには無理があり経営上の効率も悪い。現代は、失敗も許しながら、現場からの自由な発想を取り込んでいく体制を築くことの方が重要になってきている。

ZD運動的な教育は高コストに

 渥美式チェーンストアの教育は、前回述べたZD運動のように人間に完璧を求めるものという印象があります。渥美氏が綿密に練り上げた渥美式チェーンストアの理想像を実現するための戦力として、完璧な人材集団を作ろうとしたように思われます。

 しかし、現実には“完璧な人材”を育てるということは不可能です。教育によって能力を高めることはできますが、完璧な人材にはあくまでもならない。

 そこで考え方を変えればいいのですが、「もっと教育をして完璧にしよう」と考えてしまう。しかも、現場からの学びよりも、用意した教材に従って、渥美氏が考えたことを叩き込む。その結果、それでもやはり完璧にはなりませんから、また教育をする。教育→ダメ→教育→ダメのスパイラルに入ります。

 その結果として、チェーン各社ごとに教育のために膨大なコストと時間を費やしたことは容易に想像できるのです。ペガサスクラブのセミナー受講者の延べ人数が膨大になっていったことも、これでうなずけます。

 企業にとって、効果が逓減する教育に力を入れることはコストアップに直結します。熱心な社員教育の結果、渥美氏がよく問題にした人時生産性はある程度上昇したでしょう。しかし、経常利益の改善には苦労したのではありませんか。もしそうだとすれば、教育にかけるコストの規模が適正であるのか、疑ってみるべきでしょう。

行動の制限はやる気を殺ぐ

 また、人間に完璧を求めることの問題は、コストだけのことではありません。

 人間は理性を強く働かせて、数字と理屈に沿って行動するだけの存在ではないのです。人間には同時に感情がありますし、それと密接な関係を持つ形で体調の善し悪し、健康状態が変わるということもあります。そして、個人個人が、それぞれに家族、友人、同僚などとの人間関係を持っています。

 そのような存在に、もし機械並みの精度を求めるとすれば、それは単に難しいというだけでなく、仕事も職場も、過酷なものになっていかざるを得ないでしょう。

 さらに、人間はそれぞれの経験からそれぞれに心を働かせ、それぞれにアイデアを持ちます。ところが、現場の人たちの見聞、経験、それに基づく自由で伸び伸びとした着想と臨機応変のさまざまな行動が、厳格なマニュアルによって禁じられているとどうでしょうか。

 まず、その状態でモチベーションを保つことは難しいでしょう。自分にしかできない仕事をしていると思えるチャンスが少なくなるからです。やる気の程度は賃金でしか変えられないということになるかもしれません。

現場の経験と発想を生かす時代

 渥美式チェーンストアでは、商品開発やデザインなど感性を使う業務は本部の専門家に集中するように考えられています。これはタレント・スペシャリストとして規定され、部下を持たず、自ら行動することで数値責任を果たすものということです。逆に、それ以外の人たち、とくに顧客接点である現場にいる人は、タレント(才能)を発揮すべきではないというわけです。

 私なら、これはもったいないことだと考えます。

 これまでにも説明している現地・現物・現状から発想する“三現主義”は、ビジネスをより適切な方向へ向かわせる知恵の源泉です。本部の専門家よりも、現場で発見され発想されることはより多く、しかも価値のあることのはずです。それを生かさない手はないと考えます。

 実際、昨今伸びているチェーンは、現場に大きな裁量権を与えています。とくに、パートタイマーに対する考え方が違うようです。

 かつてパートタイマーは、会社の都合でシフトを組んで人件費を変動費化するために重宝な存在という扱いだったでしょう。その時代には、誰でもすぐに戦力化できることが重視され、マニュアルもそれを想定した、考えずに働けるためのものであったでしょう。

 しかし、現在はむしろ、人々の働き方と生活の考え方が変わり、さまざまな能力や経験を持った人がパートタイマーとして働くようになっています。その人たちのやる気を引き出し、失敗も許容しながら能力と経験を発揮してもらうことは、働く人にとっても会社にとってもメリットの大きなことです。

 逆に、本部で作った枠にはめて彼らの自由を奪うことは、少なくとも今日的な経営ではないのではないでしょうか。

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アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/