はじめに(3)/産業は“つながり合う輪”として成り立っている

企業内・企業間であるべき連鎖・連携について考え直す連載。第3回は、チェーンストアのみならず、産業はチェーンとして成り立っていることを確認する。

カ) すなわち、スーパーマーケットをはじめとする“販売のサプライチェーン”や自動車産業における“製造のサプライチェーン”には、困難に対処した実績があり、なおそれを超える事態が発生することに対する恐れがある。

 この点、何の根拠もなく“安全神話”を流布し、それを“真実”とするためにマニュアルの整備と改訂を軽視し、災害発生前後の“想定内の”実践訓練すら怠った電力業界、原子力村とは格が違うのである。

 想定を超えることを想定することはまた、新しい価値を生み出す原動力となるはずのものだ。電力業界と原子力村が、もしも原子力事故の災害現場に対応できるロボットの開発を中断させることなく開発を進めていたならば、ロボット工学・産業の分野の国際競争力も大きく伸ばしていたに違いない。

 しかし、実際にはその発展を阻害し、今回の自然災害後に自らの失態によって招来した最悪の事態に、情けなくも外国のロボットに頼らざるを得なかったのである。

キ) しかし、そんな自動車産業にとっても、今回の東日本大震災の“想定外”は大きかった。とくに、地震の大きさ、被災地の広域性、津波、火災、原発問題等、複合的な要因が重なったため、影響は複雑で大規模だった。

 しかも、問題を複雑化、大規模化させたものには、震災から起こった事態とは別の事情もある。

 1995年の阪神・淡路大震災以後、この15年間に自動車産業における電子制御部品の高機能化、多様化、多機能化・複雑化が飛躍的に進んでいた。

 また、自動車産業のサプライチェーンのグローバル化も、90年代とは比較にならないレベルにまで進んでいる。今では日本企業の海外生産工場はもちろん、海外の自動車メーカーや部品メーカーとも連携した国際間のサプライチェーンを構成するに至っている。

 そして、今回の東日本大震災の被害は極めて広域に渡ったため、トヨタ自動車も、この震災の影響を受けた関係部品工場の数が3次以下の下請け企業を含めると何社あったのか、震災発生直後の時点では正確にはつかみ切れず、「100社以上」という表現でしか公表できなかった。

 しかも、今回の地震で大きな被害を受けた数社の部品メーカーが、たまたま国際市場でもシェアの高い企業であったため、大きな問題としてジャーナリズムの取り上げるところとなった。その詳細は本稿の目的から離れるので深くは説明しないが、いずれにせよ、自動車という製品のIT化とサプライチェーンのグローバル化といった状況を背景として、東日本大震災で自動車産業が見舞われた事態、IT系関連産業との相互の影響には大きなものがあるとして、報道がクローズアップした。

ク) とくに高機能で複雑化した電子制御系の部品が、ルネサス エレクトロニクス那珂工場(茨城県ひたちなか市)に集中していたことが大きな問題となった。同工場では、自動車関連のマイコンの世界生産の40%を占めているほか、他の多くの電子部品を世界のIT関連産業にも供給しており、全体としてもこの分野で世界シェアの約30%を占めている。

 加えて、その多くのマイコンは、各顧客企業ごとに互換性のない専用仕様になっていた。しかも、それぞれが重要基幹部品であったため、製品仕様や生産工程がオープンになっていなかった。そのため、他の汎用品等では置き換えることができなかった。つまり、業界のルネサス エレクトロニクス那珂工場への依存度が極めて高かった。

 したがって、震災発生時のサプライチェーンのシステムの下では、ルネサス エレクトロニクス那珂工場を復旧させるしか手がなかったのである。

 そして震災直後には、この工場の復旧には「1年は必要」と見込まれたため、日本のみならず海外の自動車産業における自動車生産もこの影響を受けると考えられ、長期にわたる大幅な減産が懸念されたのである。サプライチェーン上の“弱い輪”が露呈し、その弱さが顕在化したということだ。

ケ) しかし、災害発生後の対処については度々実践を重ねてきたトヨタ自動車であり、また自動車産業であった。全自動車メーカーが、ルネサス エレクトロニクス那珂工場の復旧再開に多くの人員を送り込み、しかも今回は自動車メーカーだけではなく、他の多くの半導体メーカーも協力して復旧支援のための体制づくりに尽力した。

 その結果、トヨタ自動車さえ当初「100社以上」としか言えなかった状況把握もおぼつかない状態から、震災後2週間後には関連部品生産企業のほとんどが生産を復旧し、2月カ後の5月中旬には数社を残してすべて生産再開にこぎつけたと言われている。完全な復旧には1年はかかると言われていたルネサス エレクトロニクス那珂工場も、多くの協力を得て復旧までの工程が大幅に短縮され、5月末の時点で「震災後3カ月以内には生産の復旧ができそうだ」との目途を立てることができるまでになっている。

 これはいわば、日本の産業界の“オールジャパン的な協力”の成果であり、この迅速な復旧が日本の生産現場の力の強さを社会に示してくれたのだと言える。

 一方、自動車産業の中の“サプライチェーンの弱い輪”の状態は、他の部品分野でも表面化した。たとえば、タイヤ、ブレーキ用のゴム製品、添加剤、コンデンサ用の電解液などの特殊な技術を要する部品などだ。これらは、発注企業から数次先では特定の1社に集中しているという“サプライチェーンのダイヤモンド構造”となっていることが表面化した。

 そのように新たに表面化した問題を抱えながらも、日本の“製造のサプライチェーン”は、実際にしっかりと回復し、その学習から今後の災害に対する対応力をさらに高めたと言える。

コ) このように、“販売のサプライチェーン”“製造のサプライチェーン”とも、東日本大震災に対して見事に機能し、また機能を回復できたのである。

 要は、流通産業も製造産業も、共に一企業単体で成り立っているのではなく、社会の中でつながるサプライチェーンとして、“つながり合う輪”として成り立っているということだ。産業を構成する各社が互いに結び付き、互いに“大切な社会のライフライン”として機能し、期待されている。

 東日本大震災によって、そのこと自体が浮き彫りとなり、その重要性が認識され、さらにその“輪”を作り保つ力が、日本は大変に強かったということが証明されたのである。

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アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/