バーテンダー諸兄に贈るFOODEX JAPAN 2013洋酒レポート(5)

ハラペーニョ・マルガリータを作れる「ハラペーニョ・サングリータ」キット。
ハラペーニョ・マルガリータを作れる「ハラペーニョ・サングリータ」キット。

ブラジルのカシャーサ

カシャーサのブースにて。右の男性が熱くカシャーサを語ってくれた。
カシャーサのブースにて。右の男性が熱くカシャーサを語ってくれた。

 今回、話がいちばん面白かったのはブラジルの地酒カシャーサを出しているブースだった。筆者は以前自動車工場で働いていたことがあるのだが、食習慣がかなり違う日系の方と接して驚いたというのが、ブラジルを知るきっかけだった。酢豚など甘いおかずには「食べられない」と言って箸を置くのに、食後のコーヒーには山盛り3倍の砂糖を入れる。ご飯を炊くときニンニクを入れる……と、食べ物でもかなり日本とは違う彼らの地酒が、ピンガだった。

 ピンガはサトウキビから造る蒸留酒なのだが、彼らにブラジルのラム酒か? と聞くと、大きく首を横に振る。どうも我々日本人が「日本酒って紹興酒の日本版か?」と聞かれたときのようなニュアンスで彼らには聞こえるらしい。

 彼らの寮でカイ・ピリンニャを何杯も飲んで意識を失ったのは今から20年くらい前だが、当時彼らの一人から譲ってもらった冷蔵庫は相変わらず筆者の自宅で現役として頑張っている。自動車工場時代の話を語り出すと話が脇道にどんどん逸れていってしまうのだが、当時神奈川県の某市で感心したのは沖縄の人たち向けにオリオンビールと“島酒”(泡盛)を出し、沖縄方言の画面のカラオケがある沖縄スナックがあったことと、ブラジル人向けのレストランと雑貨屋があり、普通の酒屋にも「51」や「アルマジロ」などのピンガが置いてあることだった。

 話をブラジルの酒、カシャーサに戻そう。日本ではまだマイナーな酒だが、カシャーサを出していたブースで「カシャーサとピンガの違い」を聞いてみた。去年のレポートで触れたセルビアのラキアでもそうだが、海外での認知度が高くない自国の酒を知っている人間がブースに来ると、向こうの対応が違ってくる。今回はカシャーサがそうだった。

 いかにもブラジルと言った感じの、人がよさそうでエネルギッシュなおじさんが瓶を片手に熱弁を始める。

「ブラジルはもともとカシャーサの国で、ピンガと呼ばれているメジャーなブランドは大量生産されるが、我々のカシャーサは銅の単式蒸溜器で作るんだ。これを見てくれ。この瓶は樹皮で包んであるんだが、何の樹皮だと思う? バナナの皮なんだ。どうしてかって? 直射日光で品質が落ちるのを防ぐためさ。これは接着剤を使わず、紐だけで結んでこの形にしてるんだが、熟練の職人が作っても1日200本しか作れない。中身も外観も“特別”ってわけなんだ」――早口でまくしたてる彼を時折制しつつ苦労しながら日系ブラジル人女性が翻訳した内容に彼の話し方を加味すると、あらかたこういう内容になる。

 家に戻って改めてWebを検索しながら調べてみると、カシャーサの輝かしい歴史は18世紀に遡るという。当時ポルトガルの植民地だったブラジルで、一人の騎兵将校が独立を掲げて蜂起する。その際、独立を目指す乾杯を西洋の酒ではなく、ブラジルのカシャーサで行おう」と言ってから文字通りカシャーサはブラジルの国民酒となり、ブラジル政府が海外の賓客を招いた時も乾杯にはカシャーサが使われるという。

 少なくともカシャーサの生産側から見れば、カシャーサとピンガの違いは日本で言う焼酎の乙類と甲類の違いのような見方を持っているようだ。有名な「51」やアルマジロのマークの「タトジーニョ」、おじいさんマークの「ベーリョ・バヘイロ」あたりがメジャーなのだが、これらのメジャーなメーカーのものも改めてラベルを見ると「ピンガ」ではなく「カシャーサ」と表記されている。

テキーラ・メスカルの攻勢

メキシコ・ゾーン。半分近くをテキーラが占めていた。
メキシコ・ゾーン。半分近くをテキーラが占めていた。

 さて、最後になるがこのところ南国の酒としてばかりか、日本の洋酒界のけん引力になりつつある感さえあるメキシコ・ゾーンはやはり元気がいい。今年のFOODEXでは、メキシコ・ゾーンの半分近くをテキーラが占めるほど勢いがあることが目についた。

 とりあえずメスカル(テキーラを含むリュウゼツランから造る醸造酒の総称)のブースを見つけたので訪ねてみた。

 メスカルと言うと“テキーラのスタンダード版”という見方をされる場合が多いが、原料に使用するアガヴェ(リュウゼツラン)の種類を限定して規格を厳格にしたものはテキーラ同様にNOMコード(メキシコ政府の公式規格)があり、5種類のアガヴェが指定されているという。

メキシコのメスカルブースにて。
メキシコのメスカルブースにて。

 実際、ブラジルがメキシコシティに2010年に建設した蒸留酒の博物館は「テキーラ・メスカル博物館」と名付けられており、メスカルが日陰の存在だったのは過去の話になりつつあるようだ。試しにネットで日本でも入手可能なメスカルを探してみると、有名な虫入りの「グサノ・ロホ」以外にもいくつか入手が可能なようで、中にはオーガニックにこだわった3000円を超える銘柄もあり、これにも堂々と「Mezcal」と表記している。

 筆者は性格上、脚光を浴びているものは「他に書く人もいることだろう」と避けて通るところがあり、今回もテキーラはそのまま通り過ぎる予定だった。筆者のFOODEX視察初日はウォッカのセミナーで会場は視察程度だったし、実質1日で大きな体育館2つ分にひしめいている66カ国2544社のブースをリキュールとよく似たオリーブ油やら、ワインの海やら、ビールの森やらの中に点在するスピリッツやリキュールだけを目を凝らして探していくわけだから、広大なメキシコ・ゾーンの半分近くを占めて試飲を待ち受けているテキーラに引っ掛かると先に進めなくなってしまう。

ハラペーニョ・マルガリータを作れる「ハラペーニョ・サングリータ」キット。
ハラペーニョ・マルガリータを作れる「ハラペーニョ・サングリータ」キット。

 ところが、ここを小走りで通り過ぎようとして、ちょっと面白そうなものが見えた。メキシコ国旗を現わす赤白緑のパッケージにサングリータ(クラシック)、テキーラ、サングリータ(ハラペーニョ)の3本が入っている。聞けば、ハラペーニョ(南米の辛い青唐辛子)の香りを生かしたサングリータ(テキーラをストレートで飲むときのチェイサー。通常はオレンジジュースやトマトジュースがベースになる)だが、これとテキーラを同量あわせたものに倍量の氷を加えることでハラペーニョ風味のフローズン・マルガリータが出来るという。

「アメリカン・バーテンダー・オブ・ザ・イヤー2011」を獲得した実績で去年の「Tokyoインターナショナル・バーショー」に招かれて実演を披露してくれた、ニューヨークのペグ・クラブのチーフバーテンダー後藤健太さんも、ハラペーニョの香りをインフュージョンでカクテルに使っていた(「Tokyoインターナショナル・バーショー」レポート(4)マスタークラスで見た最新のカクテル事情参照)。

 ハラペーニョは日本ではその辛さで有名だが、ししとうやピーマンを思わせるような爽やかさな香りがアメリカでも人気だそうで、このハラペーニョ・マルガリータも唐辛子ウォッカ「ペルツォフカ」とは別な辛さがあり、涼しげな緑の色と相まってカクテルとしては非常に面白い。

 ところが、帰宅してから会場でもらったパンフレットや名刺の束を引っ繰り返してみたものの、手掛かりが見つからない。どうやらテキーラ・フェスタの“おとも”として会場に持ち込まれたものらしい。先日のテキーラ・レポートで知り合ったテキーラ・バーの女性店長にも確認したのだが、日本に入って来ているという話は聞いたことがないという。万策尽きたかとあきらめかけたとき、写真に撮っていたことを思い出し、画像を拡大してメキシコ国旗を模したセットの文字を読み取って、ようやくこれを販売している会社のサイトにたどり着いた。テキーラが元気な昨今の日本市場でこれが輸入されれば渡りに船に違いないので、スペイン語のサイトだが下に掲げておく。興味を持たれる輸入代理店の方が出現することを期待している。

●LA Venustiana社の「ハラペーニョ・サングリータ」
http://lavenustiana.com/index.php

日本未入荷のテキーラ。左に「REVANCHA」のミニチュアが見える。
日本未入荷のテキーラ。左に「REVANCHA」のミニチュアが見える。

 このようなわけで、今回のFOODEX会場ではテキーラはほとんど口にしていないのだが、会場でもらったミニチュアボトルで自分の好みに合うレポサドのテキーラを見つけることになるとは思いもしなかった。「REVANCHA」(レバンチャ)という銘柄で、テキーラ・バーの店長が探してくれたところによると個性的なテキーラが多いバジェス地区に本拠地を置く会社とわかった。こちらにはけっこう輸入代理店の引き合いもあったようなので、日本に輸入される可能性は高そうだ。

 どううまいのかというと、香りはシャープなテキーラ香であるにもかかわらず、口当たりがあくまで優しく、のど越しも「爽快」と言っていいほどクリアなことに尽きる。

 昨年FoodWatchJapanで書いたテキーラ・レポートでも「テキーラは苦手だ」と公言してはばからない筆者だからこそ、見る目はシビアになるわけで、実際「これに近いもの」ということで3種類のレポサドをテキーラ・バーで試したが、「REVANCHA」以上に筆者の好みに合うレポサドはなかった。レバンチャが英語で言うリベンジに近く、「雪辱」とか「敗者復活」という熱い意味があることを知って、筆者の「REVANCHA」熱は上がる一方だ。

●テキーラ「La REVANCHA」
http://www.larevancha.com.mx/

About 石倉一雄 129 Articles
Absinthe 研究/洋酒ライター いしくら・かずお 1961年北海道生まれ。周囲の誰も興味を持たないものを丹念に調べる楽しさに魅入られ、学生時代はロシアの文物にのめり込む。その後、幻に包まれた戦前の洋酒文化の調査に没頭し、大正、明治、さらに江戸時代と史料をあたり、行動は図書館にバーにと神出鬼没。これまでにダイナースクラブ会員誌「Signature」、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)に誰も知らない洋酒の話を連載。研究は幻の酒アブサン(Absinthe)にも及び、「日経MJ」に寄稿したほか、J-WAVE、FM静岡にも出演。こよなく愛する酒は「Moskovskaya」。