バーテンダー諸兄に贈るFOODEX JAPAN 2012洋酒レポート10(4)

The Belgian Owl
The Belgian Owl

去る3月6日~9日、幕張メッセにおいてFOODEX JAPAN 2012が開催された。参加国数72か国、約2400社の飲料・食品メーカーが一堂に集まる世界でも有数の見本市であり、今回も73000人を超す来場者で賑わった。その中でバーテンダー目線に立って見付けてきた洋酒10品を紹介していく。4回目は「ベルギーの竹鶴」の作品とドイツのフルーツブランデーだ。

【7】The Belgian Owl

The Belgian Owl
The Belgian Owl

「ベルギーの竹鶴」が作ったベルギーの国産モルトウイスキー
ベルギー・フランダース政府貿易投資局(日本未入荷) Tel.03-5210-5884(東京事務所)

「地元の素材と設備でウイスキーを作ってみたい」と一念発起したEtienne Bouillon氏――ブースで日本語読みを聞き忘れた(泣)――が造る、正真正銘のベルギー産ウイスキー。そんなところから「ベルギーの竹鶴」というキャッチフレーズが浮かんだが、ご本人の了解を取ったわけではなく、筆者が勝手に付けたあだ名なので悪しからず。

 アイリッシュ、カナディアン、バーボン、スコッチの牙城にジャパニーズが参入し、ようやく世界的にウイスキー生産国としての評価が定着するまでには半世紀以上の時間が必要だった。歴史と伝統を付加価値とするウイスキーの、新参者に対する壁はことほど左様に厚いのだが、「ベルギーの竹鶴」の思いはそんなことは意に介さないほど熱いようだ。素っ気ないほど朴訥なラベルとは裏腹に、大麦を栽培する地区の選定から始まり、蒸溜から貯蔵に至るまでベルギー国内でまかなう国産愛用の「ベルギーの竹鶴」への世界のウイスキー愛好家の評価は高く、かの有名なジム・マーレーの「ウイスキー・バイブル2012」でも金賞を受賞している。

 味は驚くほどベーシックかつトラディショナルな安定した味わいで、しかも奥深い。FOODEXに筆者が行った3月8日時点では輸入代理店が決まっていなかったが、ぜひ日本にも生真面目に作られたこのウイスキーを広めてもらいたい。(ベルギー)

【8】Wachauer Marrillenbrando 40%vol.

Wachauer Marrillenbrando 40%vol.
Wachauer Marrillenbrando 40%vol.

1948年から続く伝統的な製法で作られたアプリコットのフルーツブランデー
ドイツ連邦食糧・農業・消費者保護省(日本未入荷)

 キルシュワッサーを始め、ドイツは優秀なフルーツブランデーの産地として知られている。筆者もミラベル(黄色スモモ)のブランデーの香りに驚嘆したことがあったし、ハンガリーのパーリンカやチェコのスリボヴィツェも好きなので、今回は出品していないことを承知でセルビアのブースに行ってラキィア(プラムを主としたフルーツブランデー。ルーマニアやブルガリアでも生産している。発音は国ごとにラキヤ、ラキアと微妙に異なる)の話をうかがい、ついでに身内用に会場に持ち込んでいたセルビア産ラキィアを内緒で1杯だけ飲ませていただいた。

 FOODEXなどの展示会は、出品の有無は別として現地の酒事情などを聞くことができるのも筆者にとっては大きな魅力の一つで、彼らもこちらが真剣に質問すると答えてくれる。何年か前のFOODEXでは、ハンガリー・ブースで「パーリンカは果実をアルコール醗酵させて作るのか、原料用アルコールに果実を浸して作るのか」を尋ねたところ、果実を醗酵させている様子をブース内のパソコンで見せてくれたこともある。

 話が飛んだ。このドイツのフルーツブランデーも、日本人がイメージする「フルーティさ」とは別物だが、しっかり果物の香りがする手堅くまとめた良品だった。(ドイツ)

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About 石倉一雄 129 Articles
Absinthe 研究/洋酒ライター いしくら・かずお 1961年北海道生まれ。周囲の誰も興味を持たないものを丹念に調べる楽しさに魅入られ、学生時代はロシアの文物にのめり込む。その後、幻に包まれた戦前の洋酒文化の調査に没頭し、大正、明治、さらに江戸時代と史料をあたり、行動は図書館にバーにと神出鬼没。これまでにダイナースクラブ会員誌「Signature」、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)に誰も知らない洋酒の話を連載。研究は幻の酒アブサン(Absinthe)にも及び、「日経MJ」に寄稿したほか、J-WAVE、FM静岡にも出演。こよなく愛する酒は「Moskovskaya」。