お坊さんがごまを擦るわけ

ごま
ごま

ごま(胡麻)はゴマ科ゴマ属の1年草で、インドが原産地とされている。インドでは古代、サンスクリット語(梵語)でごまのことを「シャククリ」と呼び、不老長寿の薬として大切にされていたという。

ごまは擦るべし

ごま
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 これが中国に渡り漢方薬として珍重されるに至る。中国の明の時代の薬用書「本草綱目」では「気を増し、肥肉を長し、脳髄をみたし、筋骨を堅くし、耳目を明らかにして、肺気を補い、心驚を止め、大小腸を利し、久しく服すれば老いず」と記す。要するに万能の薬と考えられていたわけだ。

 私の愛読書「医の食物誌・食卓の仏教医学」(岩淵亮順著。六興出版)では、真言宗などの密教の寺で行われている「護摩焚き」(本堂の護摩壇で護摩木を燃やして僧侶が祈祷する儀式)の“護摩”はごまに通じると書いている。

 護摩のことを梵語でホーマといいますが、知恵の火で迷いの心を燃やすことで、インドの火神アグニに供養する魔をはらい、福を招く火法が仏教にとり入れられたものです。燃料は護摩木といって壇木と乳木ですが、そのとき加持物といって、護摩炉のなかに投じるものがあります。調伏によってはケシを、延命長寿にはカラスウリをというように、祈願の内容によって違うのですが、息災法(仏の力で災をとめ、無事な生活を得るように祈る)を行なうときには白ごまを用いています。これはごまの油分が光明となって暗を照らすという宗教的な意味と、ごまが無病息災の霊薬とされているからです。

「医の食物誌・食卓の仏教医学」(岩淵亮順著。六興出版)

 ごまが日本に渡ってきたのは奈良時代。大乗仏教の伝播とともにやってきた。したがって、ごまを最初に愛用したのは僧侶たちだった。食用あるいは薬用に使っていたが、それが精進料理へと受け継がれた。

 精進料理でのごまの調理法には特徴がある。“擦る”ことだ。ここに食用のみならず薬用としても、その食材を生かそうという精進料理の考え方がある。ごまはそのまま体内に摂取すると、ほとんど消化されないで排泄されてしまう。そのおいしさと薬効を享受するなら、必ず擦るべきである。

多彩な成分を含むごま

 ごまの健康的効果を科学的な視点で見てみると、さまざまな成分を含有していることがわかる。

 ごまが豊富に含む成分を挙げると、ビタミンB1・B2・Eなどのビタミン類、鉄、リン、マグネシウム、カルシウムなどのミネラル類、タンパク質と必須アミノ酸、植物性脂肪だ。

 ビタミンB1は糖質の代謝を促し、鉄は貧血の予防、カルシウムは骨の形成に不可欠で、かつ神経の高ぶりを鎮める効果がある。

 一方、ごまの植物性脂肪はリノール酸やリノレン酸などの不飽和脂肪酸で、リノール酸は血液中のコレステロールを取り除き血管をきれいにすることに役立ち、リノレン酸はビタミンEと一緒に末梢血管の流れをよくして中性脂肪を減少させる働きを持つ。なお、ビタミンEは“若返りのビタミン”と呼ばれ老化防止に役立つといわれている。

セサミンなど6種類の抗酸化物質

 ごま特有の成分「ゴマリグナン」という抗酸化物質について説明しよう。これは「セサミン」「セサミノール」「セモナール」など6種類の抗酸化物質の総称だ。

 特筆すべきはセサミン。ごまに0.5%程度含まれているリグナン化合物の一種で、さまざまな研究の結果、抗酸化作用のほかに肝臓保護、コレステロール低下、高血圧抑制、乳がん・肝臓がん発生抑制、免疫調節などの作用を持つことが報告されている。

 さらには「自律神経調節作用」があることもわかっている。自律神経の活動が乱れたり、加齢によって機能が低下してくると、さまざまな健康障害が生じる。とくに女性の場合、閉経によるホルモンバランスの乱れによって自律神経の機能が低下し、ほてりやのぼせなどの更年期障害特有の不定愁訴と呼ばれる心身の不調が起こるとされている。

 セサミンはこうした自律神経の乱れを改善する作用があるという。

ごまが髪によいと言われる理由

 ごまには黒ごまのほか、白ごま、黄ごま、金ごまがあり、白ごまは脂肪分が多いので食用油に、黄ごまや金ごまはその色合いと香りのよさが尊ばれている。しかし、健康的効果から言えば黒ごまに軍配が上がるようだ。

「黒ごまは髪によい」という説がある。以前、専門家にその理由を取材したことがある。それによると、とくに白髪の改善に効果があるという回答を得た。白髪やハゲが起こるのは頭皮細胞の栄養不足が第一の原因。白髪は髪の毛のメラニン色素が抜けてしまった状態のことをいう。これは毛根で作られるメラニン色素の合成が衰えた結果だという。また、いわゆるハゲは毛根へ栄養を運ぶ毛細血管の働きが悪くなったためだ。

 これに対して黒ごまの種皮に含まれる色素、アントシアニンがメラニン色素の形成を促すことから白髪を予防し、髪の毛に張りと艶をもたらすという。

 ただ、黒ごまのみならず、どのごまにも育毛効果があるとも言われている。先述した“若返りのビタミン”ビタミンEやナイアシンなどのビタミン類、亜鉛などのミネラル類などの栄養成分がその根拠となっているのだろう。

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ジャーナリスト あさひ・としひこ 旅行会社勤務の後、スーパーマーケット専門紙「流通ジャーナル」、海外旅行専門誌「トラベルタイムス」(オータパブリケイションズ)、同「トラベルマネジメント」(トラベルコンサルタンツ)での社員編集者勤務を経て、1996年よりフリーランス。「夕刊フジ」「サンケイスポーツ」などで健康および医療・医学分野の契約ライターを担当。その後、「週刊新潮」で連載コラム「よろず医者いらず」、夕刊フジで一般食品の健康的効能を紹介する「旭利彦の食養生訓」、飲食業界専門誌「カフェ&レストラン」で「カフェのヘルシー研究」、経済雑誌「経済界」で50代以上の男性に向けた健康コラム「経営者のための“自力”健康法」を連載。現在は食品専門誌「食品工業」(光琳)、スーパーマーケット専門誌「週刊ストアジャパン」、医療専門誌「月刊/保険診療」(医学通信社)で取材・執筆活動を行っている。主な著書に「よろず医者いらず」(新潮社)、「カフェの『健康食材』事典」(旭屋出版)など。