値下げするとお客が減るのはなぜか?(4)キャッシュバック、クーポン、ポイントが得意客を追い払う

前回は、自分の心から、自発的に何かをしている人に対して、他人が報酬を設定する、とくに金銭的な動機づけをすると、その人はやる気をなくすというお話をしました。このことを、店に通ってきてくれている得意客について考えてみます。

値引き・値下げは得意客の来店動機を殺ぐ

 店が値下げ・値引き的なことを行う、たとえば以下のようなことを行ったとき、お客はどう受け止め、反応するでしょうか。

1.お客が「値下げ」と受け取るような価格改定を行うこと。

2.割引券、割引券付きやキャッシュバックと書いたチラシ、金券と称するものを街頭で配ったり、住宅やオフィスのポストに投函したり(ポスティング)、新聞折り込みで配布したりすること。

3.クーポンプログラムに参加して、お客に割安な価格で商品を提供すること。

4.ポイントプログラムを導入して(顧客情報を電子的に管理するポイントカードだけでなく、昔からあるスタンプカード等を含む)、得意客に対して割引を行ったり、金券を発行すること。

5.得意客に対して、「いつもありがとうございます。感謝の印に、今日はちょっとお値引きしますね」など言って、その場で割引を行うこと。

 これらはいずれも、お客に対して外的な動機づけを行うものです。1000円のものが900円や800円になったりあるいは500円になると知った場合、「行ってみよう」「行かなくちゃ」と思う人はたしかに多いでしょう。前回のお話で、ホームレスが25セント払うと言ったときに、少年たちも最初喜んでそれを受け取ったのです。たいていの人は、目先の得に魅力を感じます。ですから、当座お客は増えるでしょう。

 とりわけ、その店を知らなかった人や、知ってはいたけれど来店したことはなかったという人、つまり知っているのは店名と店の外観だけで、その店がもともと持っている魅力は知らないという人には効果があるでしょう。

 では、もともとその店をよく利用していたという人にはどうでしょう。その人たちの中にも、それは得だからということで、いつもより安く食事をしに来る人は少なからずいるでしょう。しかし、こうしたことが、とくに得意客に与える悪い影響には注意する必要があります。

 その人たちは、もともとその店に魅力を感じていた人たちですから、内発的な来店動機を持ち続けていた人たちです。価格ではなく、何か別な、多くの場合論理的に説明はできない曖昧模糊とした、でもそれだけに強く、永く持続する来店動機を抱いていた人たちです。「うまく言えないけれど、この店が好き」「なぜかわからないけれど、あの料理を食べないと気が済まない」と思ったり、そう話したりする人たちです。

 この人たちに割引価格で商品を提供した場合、そのもともと持っていた来店動機をアンダーマイニングする危険があります。いつも不満なく1000円支払っていたものが、今日は900円とか800円とかで提供されたという場合、この人たちもその場では喜ぶかもしれません。しかし、本人も気づかない間に、そのお客の心の中にある来店動機、店に対するロイヤリティが、商品の価格といっしょにディスカウントされ、傷つけられている可能性に警戒すべきです。

 好きで、当人の自由意思でいつも利用していた店から、「あなたは100円とか200円とかを割り引かれたり、半額で提供されたりしたら、やっぱりうれしいんでしょう。だから来たんでしょう」「しょせんお金。得をしたいんでしょう」と言われたら、得意客は腹を立てるでしょう。なぜそんなことを言われるのだと泣き出す人もいるでしょう。

 もちろん、割引等をしたからといって、直接的にそう言われたと受け取る人はいないでしょうが、本人も気づかないでいる心の働きとして、そう言われたのと同じ作用が起こり得る可能性については、よくよく考えておく必要があります。

 とくに、上に掲げた値引き・値下げの例のうち、4.と5.は、非常に危険なことだと考えるべきでしょう。1.2.3.は、いわば店が勝手に値引き・値下げを行うことを意味しますが、3.4.は、得意客の愛顧・ロイヤリティというお客の自由で自発的な心と行動を、店が決めたルールに従って与える報奨に置き換えてしまうことを意味します。しかも、目に見えない・測りようがないものであったはずのお客の心、つまり無限大であったはずのお客の心を、金銭という目に見える・有限な価値に置き換えてしまうわけです。

クーポンやポイントの導入は慎重に

 以上のことは、値引き・値下げ、クーポンプログラム、ポイントプログラム等は、店にとって常に好ましくないもので導入・利用すべきではないということではありません。これらには、薬と同じように上手な使い方というものがあり、使い方を間違えれば副作用もある、毒ともなり得るということです。とりわけ、その毒とは、得意客を店から遠ざけるように働く毒であるということです。

 以降、値引き・値下げ的な方法に頼らずに繁盛を目指す話を続けていきますが、それを突然きっぱりとはやめられないという経営者の方は多いと思います。そこで、値引き・値下げ的なことを行う場合の注意点を記しておきます。

 まず常用は避け、タイミングよく使うことだけは意識するべきです。年間を通じて日々の集客が割引キャンペーンやクーポンプログラムなしには成立しないということでは、早晩クーポンプログラムに参加する資金も底を突いてしまうでしょう。

 また、ポイントプログラムは、お客を“囲い込む”ために有効な方法だと信じている人は多いのですが、お客の行動を外的動機しかも金銭的動機で縛り付ける形になれば、得意客の来店動機を殺ぐなどの弊害が目立つようになるでしょう。

 第2回で、繁盛店は「特典、お礼、おわびの品にレギュラー商品やその割引券を使わない」と指摘しました。そのことにならえば、ポイントを多くためたお客に対する優待は割引やキャッシュバックで行うのではなく、店のオリジナルの記念品や、商品としてメニュー表に載せていない特別な料理やイベント的なもので行うべきでしょう。

 私自身の経験を付記しますと、長年ファンであることを自認してきた航空会社のマイレージが、あるときから記念品との交換だけでなく、航空券の購入代金に充てられるようになった段階で気持ちが殺がれ、カードを返上してしまったということがあります。そしてそれ以降、気に入った店ではポイントカードやスタンプカードを受け取らないようにしています。

 また、繁盛店でも、割引キャンペーンを行うことは皆無というわけではありません。ただ、その際に繁盛店の経営者が気を遣っているのは、「なぜそうするのか」をはっきりさせることです。すなわち、「開店○周年記念」「○○感謝セール」など、特別なイベントであることを強調し、お客の関心が金銭的動機に向かいすぎないようにしているのです。

 たとえば、チラシを作るにしても、いちばん大きく書くことは「2割引!」「○○円OFF!」などではなく、「オープン5周年感謝デー」「地元○○チーム優勝記念!」などです。価格のインパクトでお客を引きつける形にならないように、お客と共有したい・共有し得る喜びや楽しみを強調しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →