東電社長会見に学ぶことと東日本大震災の対策の提案

東日本大震災の後、気付いたこと、考えたことをいくつか書いてきた。その後、復興について各界からさまざまな提案がなされているが、今回は私なりに考えたことをお伝えしたい。また、先頃行われた東京電力社長の記者会見から学ぶことをお伝えする。

東電社長の発言の特徴

 復興への提案の前に、本論とは別な話題として、先頃行われた東京電力清水正孝社長の記者会見について、問題点を指摘しておきたい。企業の広報活動の参考になるからだ。

※原文はasahi.com 2011年4月14日の記事から引用した。

「衷心よりお見舞いを申し上げます」「大変なご迷惑とご心配をおかけした」「心より深くおわび申し上げます」

 常套句。形式的な言葉。お詫び会見では誰でも発する言葉なので、最早これによって伝えられる独自の内容はないと心得なければならない。

「仮払いをしたい思いだ」「何とか収束していきたいという思いでいっぱいだ」「基本的な思いとして福島県に自身で伺いたいという気持ち」

「思い」「気持ち」は決断、決定できていないということだ。社長の仕事は決断であるはずなのだが、これでは責任ある行動は期待できないとしか受け取られない。

「ベストを尽くしてきた」「現在もベスト尽くしつつあると考えている」

 記者は「爆発が起きてベストなのか」と尋ねている。国民の大半は、東京電力という企業なり清水社長なりがベストを尽くしたとは考えていない。そこへ「ベストを尽くしてきた」と身勝手な判断による言葉を繰り返し発することは賢明な広報活動とは言えないだろう。

「これから国との協議にもとづき対応」「これからしっかり決めたい」「これからしっかりと対応の検証をし」「これから早く示したい」「中身についてはこれからお示し申し上げたい」「具体的日程はこれからだが」「今後考える」

「これから」という表現が多すぎ、対応が進んでいないことを印象付けてしまっている。スピード感が全く感じられない。

「私の経営責任は、現時点でコメントする状況にない」「国の評価なので、コメントは差し控えるべき」「言及できる段階ではない」「そういう段階でなければ申し上げる段階でない」「今の段階ではそれは言及できない」「現時点では言及する段階でない」

 状況、立場によって、言えないことは現実にあるだろう。しかし、これだけ言えないことが多いと、全体が把握できているのか、あるいは何か隠しているのではという疑念を惹起するばかりだ。到底、経営者としての責任感、会社としての誠意が伝わるものではない。

「そういう面もあろうかと思います」「正直言って混乱しているのも否めない」

 自社の状況について断定できないことがあるというのは、他人事(ひとごと)のように感じさせ、当事者意識の欠如、責任の自覚の欠如を印象付ける。

 総じて言い逃れ中心で、“伝えない”“伝わらない”広報の典型というのが私の評価だ。

復興への提案

 さて、復興への提案をお伝えする。

 私自身、予期せぬ突然の地震で、浦安市の自宅は傾き、事務所の地盤が緩み、大きな損失を喰うこととなってしまった。「天災は忘れた頃にやって来る」(寺田寅彦)を実感したわけだが、本稿をもって、この体験を今後の活動に生かしたいと縷々考えた中の一区切りとしたい。

【A】生活不安の払拭

 被災地で日ごと深刻化する生活不安を早期に払拭する必要がある。そのためには、少なくとも1年先までの被災地・被災者に対する具体的な緊急生活支援策を策定することだ。

 まず、地元商工業界、農業関係者、漁業関係者、自治体が、各々の分野からの要望を政府に提出することだ。これは荒削りでもいいので、生活者視点に立つ政治決断を促すべきだ。具体的な例を列挙してみる。

(1)罹災者に対する、向こう1年間の休業補償金の支払い(たとえば一人当たり向こう一年間180万円位とか)。一方、補償金受け取り人は、たとえば半年間、復興関連事業に参加する。前向きな活動に従事すること、自分の故郷を自分たちの手で復興しているのだということを実感してもらうことは、精神・肉体の両面に良好な効果ももたらすだろう。残る半年間は一年後の自分の生活再建に向けた取り組みに当ててもらう。活動内容は、各産業経済領域の復興に必要な視点を織り込めるように、産業界からの意見を入れる。

(2)全壊報告のあった家屋の戸数分×1.5倍の仮設住宅建築資材の確保。現在5万戸と言われいるから、まず7.5万戸だ。すでに3万戸分の資材は確保したとの発表があったが、さらに急ぐべきだ。また、建設予定地として、行政による民有地の借り上げも加速する必要がある。もちろん条件は明確にする。整地やその他の作業には、主に(1)で休業補償を受ける人から活躍してもらう。

(3)行政による移動・運送手段の確保。中古でもよいので、自動車、50ccクラス等の小型バイク、スクーター等を安く確保し、販売ないし無利子のリースを組めるようにする。個別に買いに走っている今の状況では、すでにいろいろな要因が重なり入手しにくい状況が出ている。全損台数のあらましは簡単に推計できるはずなので、自動車関連業界はトラック、商業車関係の必要台数を行政に提示し、自動車メーカーや大手中古車業者にも協力を要請する。

(4)瓦礫撤去作業に必要な建設機械等の行政による調達。

(5)大型・小型の発動発電機の行政による調達。復興までの時間に電力の供給が保障出来るようにする。必要な電源、計画を産業界から行政に上げる。

(6)漁船・農耕機等の修理・買い付け支援策を明確にする。すでに漁船の買い占めなどが横行していると聞く。漁船は、全損、要修理等を漁協が早く確実に押さえ、行政に求める援助内容を具体化し、解決策を話し合う。

(7)その他必要な物品も行政は大胆に調達する。

【B】全日本レベル、グローバルレベルでの復興計画の策定と実行

 被災地レベル、県レベル、東北レベル、東日本レベルではない復興計画が必要だ。もちろん街づくりレベルではない。閉塞感が強まっている日本を新生させ得る、むしろ気宇壮大な復興計画で、国民が財源の負担に前向きになれるものがよい。

(1)阪神・淡路大震災との量的・質的違いを理解すること。過去の諸災害とはレベルの異なる国難と言うに値する状況を前提に考える。

  • 地震の規模
  • 対象地域の広さ
  • 津波被害の深刻さ
  • 地震後のこれまでの震災とは異なる理由による大きな火災の発生
  • 瓦礫撤去の難しさ
  • 地方自治体の行政機能の喪失や執行の困難
  • 過酷無情な天候
  • 原子力発電所事故という人災が伴ったこと
  • 政界の迷走ぶり

(2)今回の震災が、震災前に策定されていた各種の基準を上回ったこと(いわゆる「想定外」)は、過去の事実としてフェアに重く受け止める。原子力分野に留まらず、あらゆる産業分野での基準の見直しが必要だ。これを全国民が認識すべき反省点として共有する。これが、震災復興財源の国民による負担を納得してもらう原点となる。

(3)復興計画実行のためには向こう3年間で50兆円程度の財源が必要となるだろう。十分な復興・復旧が実現できず、たとえば万一電気料金が莫大に値上げされるというようなことがあっては、日本全体を負のスパイラルに陥らせる。しかし、これ以上の国債の発行は世界のマネー市場において信用不安を招きかねない。より直接的な増税が必要となろう。

(4)その場合、単なる街づくり、地域の復興のレベルの発想では、日本全体の再生にはつながらないし、「東北のため」「○○県のため」では、今後必要になるはずの膨大な資金をあまねく国民に求めることは難しくなる。目標は「新生日本」とする。

【C】東京電力福島第一原子力発電所の問題の責任を明確にする

 東京電力福島第一原子力発電所事故に関しては、不可抗力と片付けるのではなく、国と東京電力の責任を問うことを忘れてはならない。その理由は以下の通りだ。

(1)想定された「基準値」は、遺憾ながら震災前に正式な手順で決定されたものであり、この点については、確かに「想定外」と言わざるを得ない。

(2)しかし、現実に深刻な事故を起こしてしまった以上、単に基準値を満たしているというだけで「絶対安全」としてきたことは大いに問題であり、重大な責任がある。

(3)しかも、「絶対安全」であるがゆえに、マニュアルはあっても、それに基づくトレーニングやドリルは不十分であった。

【D】政府への批判は建設的に

 私は現政権政党に与する者ではない。むしろ現政権に対する批判は大いに結構だ。しかし、震災の復旧を第一とすべき現在の状況下では、具体的で、前向きで、建設的な対案を前提とした批判であるべきだろう。

(1)現在、内閣支持率は多少上昇している。しかし、それも各社とも20%台のことであり、現政権の震災後の対応については、依然多くの国民が不満を持っている。とは言え、今回のような未曾有の事態に対しては、恐らく他のどのような政権でも完璧な対応はできなかっただろう。また、この非常時に政治家が政局に腐心しているようではまずい。そこは勘案しておく必要があろう。

(2)たとえば東京電力福島第一原子力発電所の事故の問題も、内閣や総理その人の問題よりも、いわゆる“原子力村”の体質とやってきたことの問題の方が大きい。

(3)もともと官僚指導ではなく「政治指導でやる」ということを掲げた政権を国民が選択したのであるから、政府と官僚との間に隙間風が吹くであろうことは、当然に予測できたことでもあった。

(4)明らかに経験の不足した議員を多数選んだのも国民である。この中から突然強いリーダーシップを持った“逸材”が現れて、この国難に対処できると期待するのには無理があろう。

(5)菅総理大臣以下各大臣たちも人の子である以上、この困難を何としても早く解決し復興させたいと考えているはずで、そこを慮ることも必要ではないか。

(6)今は政党の違いを乗り越えて震災対応に当たるべき時だと、口先で言いながら政局を当てにしているようでは、各政治家その人の資質が問われる。阪神・淡路大震災時の災害対策担当相小里貞利氏(自由民主党)は、最近の時事通信社のインタビューで「これまでの菅政権の対応をどう見るか」との記者の質問に対し、「あまり批判めいたことを言ったり、揚げ足を取るようなことは控えたい」と言っている。妥当な姿勢であろう。

(7)「言うは易し、行うは難し」。良策があれば、具体的に現政府に提言してはどうか。

(8)残念ながら、今見られる現内閣に対する批判には、具体的で、前向きで、建設的で、現状に役立つ提言は見当たらない。

【E】メディアの「ガンバレ」連呼を止めよ

(1)考えが浅薄すぎる。今、被災者に「ガンバレ」を言うのは酷である。精神的な負担を増大させないか心配である。

(2)テレビCMなどで「日本は一つ」と連呼していれば、一つになれるだろうか。財源まで含めた復興プランを共有できてはじめて“一つ”が実現するのではないか。

(3)テレビCMの人選に疑問がある。特定の年齢層にしか知られていない人たちの、上からの目線の映像には嫌悪感を感じている人も多い。どうしてもあのようなテレビCMを続ける必要があるのなら、老若男女、地域を問わず、誰が見てもすぐに誰であるかがわかる人を選ぶべきではないか。

(4)テレビの放送内容が、無用の混乱や風評被害を惹起していないか、今一度検証が必要ではないか。

  • 多様な意見があることは大切なことだが、生活や避難の基本を伝える際に、専門家ごとに、あるいは番組ごとに、意見が異なることは混乱の元となる。
  • 放送、報道によって「噂」「風評」が「確信」に変えられる危険を、メディア関係者は十分理解しているだろうか。
  • レポーターのインタビューやレポートの態度は健全だろうか。皇族方でさえひざまずいて被災者に対面していたが、そのことにくらべると居丈高な様子が目に付く場合がある。
  • 表面的であったり、ありきたりな人情に訴える内容、当該の問題の専門家ではないコメンテーターによる意味のないレスポンスが、問題の真相をぼやけさせていることがないか。
  • 一部の芸能人や企業の行動には、この機に乗じた売名行為としか映らないものがある。
  • 「節電」を呼び掛けながら、放送局が思い切った放送時間の見直しを行わないのはなぜか。
  • テレビ局などメディアが独自に行っている募金活動の仕組み、使途が広く明らかにされていない。そのこと自体と、なぜ各社銘々ばらばらに行わなければならないのかが不明。

【F】メリハリの利いた「自粛」の実践を

(1)すべての自粛が悪いとは言わない。しかし、今自粛すれば、大きなマイナスになる分野、事柄も多い。ここの検証と、より社会的効果のある行動が求められる。

(2)一方、現実的な問題として、とくに東京電力給電地域での節電は必要だろう。

(3)このメリハリ、是々非々の感覚と実践が必要だ。

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アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/