焼きもうまかった生肉の名店

 先日、何度かうかがっている豚串焼きの店に行ったところ、入口にこんな貼り紙がありました。

「当店は生肉を扱っている関係で『中学生以下のお子様』『ご年配の方』の入店をお断りさせて頂きます」

 この店では豚のレバーなど豚の生肉を提供しています。以前はこんな紙はなかったなと思いながら入店すると、相変わらずの大人気店です。まあ、もともと「中学生以下」の子や「ご年配」の自覚のある人は見当たらない店だったので、掲示による影響はほとんどなさそうです。

 いつものように串焼きを何本か頼んで、出てきたものを見て、少々驚きました。

 この店の場合、串焼きも表面だけ焼き目をつけて中は生、レバーの串焼きなどは中身とろとろという状態で出していたのです。話し込んでこれが冷めてしまったとき、気味が悪いし丁度いいから焼き直してもらおうとお店の人を呼んで、そのように頼んだことがあります。すると「焼き方はこちらにお任せいただいております」とにべもなく断られてしまいました。顔は笑っていても、生肉を食べないようなお客は来ないでほしいという気持ちがあるように感じました。

 それで、少し不愉快に感じたものの、仕入れと管理によほどの自信があるのだろうと、やや頼もしい気もしたものです。

 それが、例の貼り紙を見た日の串焼きは違ったのです。以前は肉の一塊が一口では無理というほど大ぶりにカットしていたのが、ちょうど一口で食べきれる程度のカットとなっていました。そして、中までちゃんと火が通っていたのです。

 6月に、厚生労働省が飲食店などで豚の肉・内臓を生食用で提供・販売することを禁止する方針を決めたという発表がありました。薬事・食品衛生審議会の調査会の検討結果を受けたものです。中心部までの加熱義務化が年内にも食品衛生法の規格基準に盛り込まれると言われています。

 その流れの中、保健所の「お願い」の調子が強くなったのか、禁止化後に備えて予め改善へ向けて動き出したのか、どちらかなのでしょう。

 いずれにせよ、人気のある店が事故を避ける方向に向かい出したのだとすれば、ほっとする話です。豚生レバーは依然としてメニュー表にあり、他のお客さんも食べてはいましたが。自信を持っていた店にとっては不本意に感じるところもあるかもしれませんが、人気店が事故を起こしたり病気を発生させたりすることから遠ざかることになったのは、ほっとする話です。

 そして、その日私がもう一つ感心したことがあります。きちんと火の通ったその串焼きが、また格別にうまかったのです。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

齋藤訓之
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Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →