東北産を売らないことが「お客様第一」なのか

 夏になると、子供の頃、庭で自分の背丈よりも高く育ったヒマワリが開花して、それを見上げながら遊んだのを思い出します。

 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の後、汚染地域ではヒマワリを植えたということを覚えている人は多いでしょう。「農業経営者」(農業技術通信社)副編集長の浅川芳裕さんとそのことについて話したとき、彼は重要なことを教えてくれました。日本人の多くは、あのヒマワリ栽培が植物による除染を狙ったものだと信じているけれども、それは誤解であるということです。

 事故以前、この地域では穀物栽培や畜産が行われていましたが、事故後はナタネやヒマワリなど油糧原料の生産にシフトしたということです。

 放射性物質に汚染された土壌で作物を栽培した場合、植物のどの部位にどれほどの放射性物質が吸収・蓄積、あるいは付着するかは、その植物によってさまざまです。油糧原料を栽培する場合、その実の部分に放射性セシウムなどの放射性物質が蓄積する量が少なければ、それを用いて搾油した植物油の汚染レベルは下がることになります。さらに、FoodWatchJapan連載「再考・ワイン物流改善」第37回「酒造は農地の除染に手を貸せる」大久保順朗氏が書いているように、固形物からの除染は難しくとも液体から放射性物質を除くことは難しくはありません。ベントナイトなどの濾材によって吸着、除去が可能なのです。

 ソ連はこのほかに、専用の深耕プラウ(洋鋤)を開発し、汚染された表土を削って作土層の下層へ鋤き込むという方法や、施肥のコントロールで植物の放射性物質吸収を抑えるという対策も採りました。

 また、ヨーロッパではホットスポットを含む汚染地域産のワインをベントナイト濾過で生産可能としたことは、上記連載記事のとおりです。これらの中からは、むしろ品質を上げて人気を高めた銘柄があります。

 ソ連、ヨーロッパの各国には、放射性物質で汚染された地域で農業生産を継続するための戦略があったのです。

 翻ってわが国の“対策”はどのようでしょうか。放射性物質で汚染された地域での生産や出荷を制限する以外のこと、とくにいかに生産を継続するかという対策はあるでしょうか?

 民間では、小売業も外食業も、さすがに「東北産は販売していません」をセールスポイントとして訴えるところは少数になったようですが、積極的に口では言わなくとも東北産のものが店頭に見当たらない店が目立ちます。

 これが現代日本の官・民の限界というものでしょうか。

 合理的に安全性を担保できる生産方法を選び、普及し、実現し、その安全性を説明することや利用を促すことにリーダーシップを取る――官・民ともに、その役割から逃げ出していないでしょうか。

 おそらく、多くの人が、イメージに従って行動する消費者からの反発を恐れているのでしょう。お客が言うとおりのことをすることが「お客様第一」だと誤解している人は多いものです。

 しかし、プロが大衆の言いなりになって大衆をスポイルしている社会で、また、事なかれ主義で出来上がっている社会で、困難に遭っている人たちを見ないことにしている社会で、この先、価値のある商品など現れるものか、そこは気になるところです。

「何を言う。ウチはこんな取り組みをしている!」という方がいらっしゃいましたら、ぜひお知らせください。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

齋藤訓之
About 齋藤訓之 302 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →