がむしゃらなチャレンジャー農家の方へ(4)価格の目標を持て

もちろん、農家には農家の厳しさ、つらさがあるでしょう。とくに、規模拡大や独自ルートでの販売を推進している積極経営をしている生産者の話を聞いていると、聞いているこちらのほうの目が潤んでしまうようなことがたくさんあります。実に、実に、その人は狭き門、苦難の道に挑戦しているのだと感じます。そういう人は、飲食店や小売店の経営者と握手して語り合える人でしょう。その挑戦と苦難が、その人の、ひいては日本農業の発展・進歩に直接結び付いてほしいと願うばかりです。

狙った価格を実現するように仕組みを作る

チェーンレストランの商品
チェーンレストランの商品。一般的に商品開発の最初期の段階で売価が検討課題になる(記事とは直接関係ありません)

 問題は、ではその苦難の道というものが実際に道なのか、あるいは歩いたあとに本当に道が出来るのか、そこでしょう。

「そんな道はない。問題は買い手が高く買ってくれないことなんだ」と言いたい人も多いはずで、その気持ちはわからなくはありません。誰でも、同じ作ったものならより高く買ってもらえるに越したことはないと考えるでしょう。

 私もそう思います――というところが、私の商才に欠けるところなのですが、実は成功している飲食店経営者、商店経営者は、そうは考えていません。成功している経営者は決して「できるだけ高く」とは考えていません。「この値段で売る」というのを最初に決めて、すべての仕組みを、その狙った価格に合うように作り上げていくのです。

「このディナーセットを、いつも1000円で売る」「この店は、いつもお一人様から800円ずつ支払っていただく」というものが、店の設計のいちばん最初にあるものです。それより少ししか支払いたくない人や、多く支払いたい人は、店のターゲットからはずすようにします。その価格を実現できないメニュー設計はしません。そのために、使う材料も、その量も、その供給者も選んでいくわけです。こうした活動を、チェーンストアでは「マーチャンダイジング」と呼びます。

 今、農業生産で悩みの多い経営者というのは、まさにそれをやろうとしている人たちでしょう。「このレタスを、いつも1ケース□□□円で売る」と念じた場合、いろいろな障害が出てきます。資材、機械、人件費などのコストから考えれば、あるいは天候リスクを勘案すれば、どうにも引き合わない。周りを見れば、あるいは自分がそれまでやってきた常識から考えれば「できるはずがない」「常識外れだ」「ひょっとしてオレはバカなのか」、そう思ってしまうでしょう。

 でも、実は優れた経営者が自分で考えたことが、従来の常識に合っているはずがないのです。もしそうであれば、すでにみんながやっているはずですから、その人だけが成功してほめられるということはないわけです。

 先月「価格は他店との比較で決めるものではない」でも書きましたが、たとえばかつてファミリーレストランが登場したとき、家族4人でおいしいハンバーグとエビフライの食事をして5000円でお釣りが来るということは、従来なかったこと、常識外れだったのです。できないことをできるように、すべての仕組みをひっくり返して組み立て直したから、ファミリーレストランというビジネスが生まれたのです。

 これからの農業での成功も、従来の延長ではなく、全部をひっくり返す挑戦者たちのものでしょう。私には、それの具体的な実現方法はわかりません。わかっていたら新宿になどいません。

 ただ、その新しい農業の“部品”や“材料”に当たるものは、かなりたくさんあるということは言えます。すかいらーくがファミリーレストランを開発したときも、多くの知恵、機器、店舗の設計や運営手法を海外の先行事例や他産業から取り入れました。しかも、海外にある業態をコピーしたのではなく、日本で独自の業態を作り上げたのです。

 農業でも、海外ではオランダやイスラエルなどに、日本の農業から考えると夢ではないかと思うような技術やノウハウがたくさんあります。また、国内外のメーカーやチェーンストアからは、品質管理、品質保証の考え方、利益構造を作り上げるための基本的な考え方などを学ぶことができるでしょう。

 また、さらに、そうした他産業からは恐るべき真実も教わるでしょう。すなわち、すべてのビジネスの成功のカギは、「コンスタントな供給」と「飽くなき納期短縮の追求」にあるということです。

天候リスクの回避は屋根だけではない

果樹の施設栽培
果樹の施設栽培(記事とは直接関係ありません)

「天候に左右される農業にそんなことできるか!」と思うでしょう。また、「農産物が出来るまでには何カ月もかかるのに納期短縮なんか考えられるか!」とも思うでしょう。

 それが常識というものです。ですが、常識があるということは、それをひっくり返すチャンスがあるということです。

 天候リスクについて、日本で問題になるのは、雨と風でしょう。そのためか、この話になるとたいていの方が屋根をかけるとか施設栽培にするとかを考えて、「コスト的に無理だ」で話が終わります。でも、そういうものでしょうか?

 栽培技術と品種選びに活路はないのでしょうか? たとえば海外には、そして実は国内にも、天候リスクを圧縮するさまざまな技術、ノウハウがあるものです。農業試験場や種苗メーカーは雨すなわち病気や風に強い品種の育種に取り組んでいるでしょう。そして、雨や風に負けないようにする栽培技術もあるのです。それは日本のこれからの農業経営者がさらに発展させることができるものになっていくでしょう。なにしろ、日本がおそらく世界でもトップレベルで天候に悩まされる土地だからです。

《つづく:2013年7月23日掲載予定》

齋藤訓之
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Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →