NYクイーンズの食べ物今昔

「星の王子ニューヨークへ行く」「星の王子ニューヨークへ行く2」より

古今東西、君主一族の結婚話は庶民の関心事であり、日本でも現在進行形でメディアの大騒ぎが繰り広げられているところである。今回はアフリカの架空の国ザムンダの王子がアメリカで花嫁探しをする「星の王子ニューヨークへ行く」と、32年後の続編「星の王子ニューヨークへ行く2」を見比べながら、映し出される街の風景と食の関わりについてみていこうと思う。

マクドナルドもどきと食いしん坊の床屋

 1988年製作の「星の王子ニューヨークへ行く」は、「48時間」(1982)で銀幕デビューし、「ビバリーヒルズ・コップ」(1984)がヒットして大スターとなったエディ・マーフィが原案を書き、「ブルース・ブラザース」(1980)、マーフィ主演の「大逆転」(1983)、マイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオ「スリラー」(1983)等で知られるジョン・ランディスがメガホンをとった。

 マーフィと共演のアセニオ・ホールはそれぞれ四役を務めた。マーフィは主人公のアキーム王子、クイーンズの床屋「マイ・T・シャープ理髪店」のクレランスと、そこの白人客のソール、バンド「セクシーチョコレート」の歌手ランディ・ワトソンを、ホールはアキーム王子の世話係セミ、床屋のモーリス、ブラウン牧師、アキーム王子がバーで出会う積極的過ぎる女を演じ分けるという活躍ぶりも見所の一つだった。

 また主要キャストのほとんどが黒人であることから「ブラックムービー」(本連載第235回、第236回第237回参照)のカテゴリーに入る作品といえる。

 21歳のアキーム王子(エディ・マーフィ)は、父ジョフィ・ジャファ王(ジェームズ・アール・ジョーンズ)と母エオリオン王妃(マッジ・シンクレア)の庇護の下何不自由ない生活をしてきたが、トイレから入浴に至るまで従者の手助けなしではやらせてもらえないことに辟易へきえきしていた。そして、親が決めた婚約者イマニ(ヴァネッサ・ベル)と対面したアキームは、彼女が自分の意志を持たずアキームの言いなりになるように教育されてきたことにうんざりし、自分の意見を持った理想の花嫁を探すため、王を説得してセミをお供にアメリカへと旅立つ。

 お妃探しの語呂合わせでニューヨークのクイーンズ地区を目指したアキームとセミだが、彼らの目に飛び込んできたのはひどく荒れた街の光景だった。焚火で暖をとるホームレスや窓からゴミを路上に捨てる住民。持参した大量の荷物は部屋を探している間にすべて盗まれてしまうが、庶民の生の生活に初めて接したアキームはうれしくて仕方がない。

クイーンズ大通り沿いのハンバーガーショップ「マクドゥーウェル」は「ゴールデン・アーチ」ならぬ「ゴールデン・アーク」がシンボル。通りの先には中華レストランらしき漢字の看板も見える。
クイーンズ大通り沿いのハンバーガーショップ「マクドゥーウェル」は「ゴールデン・アーチ」ならぬ「ゴールデン・アーク」がシンボル。通りの先には中華レストランらしき漢字の看板も見える。

 アキームは王子の印である弁髪を切り落とし、流行りのニューヨーク風の服に着替えてセミと共に夜の街に繰り出す。ところがなかなか理想の女性とは巡り会えない。そんなとき、床屋のスイーツ(クリント・スミス)に誘われて参加した教会での礼拝で、子供たちのための募金を呼びかけるリサ(シャーリー・ヘドリー)にアキームは一目惚れ。リサの父クレオ(ジョン・エイモス)が経営するハンバーガーショップ「マクドゥーウェル」へ行って、留学生と称してアルバイトを始める。

 この「マクドゥーウェル」が見るからに「マクドナルド」のパクリ店。看板は「ゴールデン・アーチ」ならぬ「ゴールデン・アーク」(アークは弓形)。メニューには「ビッグマック」ならぬ「ビッグミック」、「マック・シェイク」ならぬ「ミック・シェイク」とパチもんのオンパレードで、本家とトラブルになっている模様。ちなみに、撮影協力には「マクドナルド」がクレジットされている。そして、この「マクドゥーウェル」に押し入る強盗を演じているのが、無名時代のサミュエル・L・ジャクソン(本連載第48回第236回参照。あるいは「スター・ウォーズ」のメイス・ウィンドゥ)である。

 食べ物では、床屋のモーリスが仕事そっちのけでいつも何か食べている皿の中身も気になるところ。エスニック風、中華風、パンと肉料理と毎回違っていて、人種のるつぼであるクイーンズの食の多様性を表している。また、教会のシーンでは献金を集めるカゴをクズカゴだと勘違いして食べ終わったフライドチキンの骨を入れてしまうところが笑えた。

オリジナルバーガーの味、変わるものと変わらないもの

 2020年製作の続編「星の王子ニューヨークへ行く2」は、残念ながらコロナ禍の影響で劇場公開が見送られ、アマゾン・スタジオが配給権を買い取り、2021年3月5日にAmazon Prime Videoで配信が開始された。32年の時を経ながら前作の主要キャストのほとんどが再演を果たしている。

 ストーリーを紹介すると前作のネタバレになってしまうので詳細は割愛するが、王室の伝統を重んじるが故のルール、たとえば女性は王位を継げないといった日本でも昨今話題となる種類の問題がモチーフになっている。

「2」の冒頭に登場するのは「マクドゥーウェル」のザムンダ店。「エッグマックマフィン」ではなく「エッグマックスタフィン」、ドナルド・マクドナルド(Ronald McDonald)そっくりのクラウンと相変わらずパチもん道を邁進している。前作に続きルーイ・アンダーソン演じる店員が紹介するオリジナル開発の新商品「ビヨンド・ビッグ・ミックバーガー」は、温室効果ガスに配慮して動物由来成分ゼロ、植物由来成分のみで作ったというものだが、お味の方は微妙であることが食べた人の表情からうかがえる。

 そしてアキームとセミはある人物を探すため再びクイーンズを訪れるのだが、落書きのない地下鉄等、明らかに清潔感が増し、おしゃれになっている街並みが30年という時の流れを感じさせる。フレデリック・ワイズマンによるドキュメンタリー「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」(2015)でも描かれた都市再開発の効果だろう。アキームたちもその変化に驚いていたが、変わらないものもある。その代表が床屋「マイ・T・シャープ理髪店」であり、食いしん坊理髪師モーリスの皿の中身であり、人種や宗教等、住民たちの多様性である。


【星の王子ニューヨークへ行く】

「星の王子ニューヨークへ行く」(1988)
作品基本データ
原題:Coming to America
製作国:アメリカ
製作年:1988年
公開年月日:1988年12月17日
上映時間:116分
製作会社:パラマウント映画
配給:UIP
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:ジョン・ランディス
脚本:デイヴィッド・シェフィールド、バリー・W・ブラウステイン
原案:エディ・マーフィ
製作総指揮:マーク・リプスキー、レスリー・ベルツバーグ
製作:ジョージ・フォルシー・ジュニア、ロバート・D・ワックス
撮影:ウディ・オーメンズ
美術:リチャード・マクドナルド
音楽:ナイル・ロジャース
衣装デザイン:デボラ・ナドゥールマン
特殊メイク:リック・ベイカー
キャスト
アキーム王子、ランディ・ワトソン、クレランス、ソール:エディ・マーフィ
セミ、モーリス、ブラウン牧師、不細工な女:アセニオ・ホール
ジョフィ・ジャファ王:ジェームズ・アール・ジョーンズ
エオリオン王妃:マッジ・シンクレア
リサ・マクドゥーウェル:シャーリー・ヘッドリー
クレオ・マクドゥーウェル:ジョン・エイモス
イマニ・イジー:ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ
オーハ:ポーツ・ベイツ
ダリル・ジェンクス:エリック・ラ・サール
マクドゥーウェル店員:ルーイ・アンダーソン
スイーツ:クリント・スミス
強盗:サミュエル・L・ジャクソン

(参考文献:KINENOTE、他)


【星の王子ニューヨークへ行く2】

「星の王子ニューヨークへ行く2」(2020)
作品基本データ
原題:Coming 2 America
製作国:アメリカ
製作年:2020年
公開年月日:2021/3/5(Amazon Prime Videoで配信)日
上映時間:108分
製作会社:パラマウント映画、ニュー・リパブリック・ピクチャーズ、エディ・マーフィ・プロダクションズ、ミッシャー・フィルムズ
配給:アマゾン・スタジオ
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:クレイグ・ブリュワー
製作:ケビン・ミッシャー、エディ・マーフィ
製作総指揮:ブライアン・オリバー、ブラッドリー・J・フィッシャー、バレリ・アン、ケニヤ・バリス、シャリース・ヒューイット=ウェブスター、ミシェル・インペラート・スタービル、アンディ・バーマン
キャラクター創造:エディ・マーフィ
原案:バリー・W・ブラウスタイン、デビッド・シェフィールド、ジャスティン・カニュー
脚本:ケニヤ・バリス、バリー・W・ブラウスタイン、デビッド・シェフィールド
撮影:ジョー・“ジョディ”・ウィリアムズ
美術:ジェファーソン・セイジ
衣装:ルース・E・カーター
編集:デビッド・クラーク、デブラ・ニール=フィッシャー、ビリー・フォックス
音楽:ジャーメイン・ステゴール
視覚効果監修:ジョン・ファルハート
キャスト
アキーム、ランディ・ワトソン、クレランス、ソール:エディ・マーフィ
セミ、モーリス、ブラウン牧師、ババ:アセニオ・ホール
ラヴェル:ジャーメイン・ファウラー
メアリー:レスリー・ジョーンズ
リーム:トレイシー・モーガン
ジョフィ・ジャファ王:ジェームズ・アール・ジョーンズ
リサ:シャーリー・ヘドリー
ミーカ王女:キキ・レイン
オマ王女:ベラ・マーフィ
ティナーシェ王女:アキレイ・ラヴ
クレオ・マクドゥーウェル:ジョン・エイモス
イジー将軍:ウェズリー・スナイプス
イマニ・イジー:ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ
ボポト・イジー:テヤナ・テイラー
イディ・イジー:ロティミ
オーハ:ポール・ベイツ
ミレンベ:ノムザモ・ムバサ
マクドゥーウェル店員:ルーイ・アンダーソン
スイーツ:クリント・スミス
モーガン・フリーマン(本人役):モーガン・フリーマン

(参考文献:映画.com、他)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。