「こども食堂」が生まれた時代

平成のごはん映画を振り返る(4)

映画に登場するフードを通して平成を振り返るシリーズの最終回。今回は児童虐待、ネグレクト、子どもの貧困等、平成の子育て難が生んだとも言える「こども食堂」を舞台にした作品を取り上げる。

子どもの権利への関心の高まりの時代

 平成はまた、子どもの権利・福祉についての関心が高まった時代であった。国際的には1989(平成元)年に「児童の権利に関する条約」(子どもの権利条約)が国連総会で採択されて翌年発効、日本も1994(平成6)年に批准した。そして、その前後から、官民で各種の取り組みが行われるようになった。

 一方、バブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショックと襲ってきた不況があり、そのなかで生活、働き方、家族の形も大きく変化した時代でもあった。

「こども食堂」も、そうした時代・動きの中でとらえることができるが、その始まりは、地域で気づかれた問題からだったようだ。2012年(平成24年)8月、東京都大田区の青果店「気まぐれ八百屋 だんだん」の店主、近藤博子さんが、近所の小学校の先生から「給食以外の毎日の食事がバナナ1本だけの子どもがいる」と聞いたことがきっかけで始めた取り組みが「こども食堂」の始まりと言われている――民間のボランティアによる「子どもが1人でも安心して来られる無料または低額の食堂」の取り組みはマスメディア等で紹介されたこともあって次第に拡がりを見せ、現在では全国で2,000件以上のこども食堂が運営されている。

 こども食堂の主な目的は、質・量・環境がそろう良好な食事ができない子どもや、孤食になってしまっている地域の子どもたちが気兼ねなく一緒にご飯を食べられるようにすることだが、“こども食堂=貧困家庭の子どもが食事に来る食堂”といったレッテルが貼られることを防ぐため、大人も来れる地域交流の場とする等、子どもが来やすい雰囲気作りのための工夫が凝らされている。

こども食堂ができるまで

 現在公開中の「こどもしょくどう」は、東京下町の大衆食堂「銀座」が「小学生無料」のこども食堂になるまでを描いた始まりの物語である。

 高野作郎(吉岡秀隆)と妻の佳子(常盤貴子)が切り盛りする「銀座」の長男、小学5年生のユウト(藤本哉汰)は、友人のタカシ(浅川蓮)がシングルマザーの母親にネグレクトされ、それが原因で同級生たちからいじめを受けていることを知りながら積極的に助けようとはしなかった。ユウトがタカシにしてやれるのは、どうしたらいじめられないかをアドバイスすることと、自宅の食堂に連れて行って店の料理を食べさせてやることぐらい。ユウトの両親もタカシに食事をふるまって気遣いながら、家庭の事情には踏み込まなかった。

 そんな中、ユウトとタカシが河川敷に放置された軽ワゴン車で暮らす小学5年生の木下ミチル(鈴木梨央)、1年生のヒカル(古川凛)姉妹と出会ったことが事態を動かしていく。

 姉妹はかつて父・次郎(降谷建志)や母・朋美(石田ひかり)と幸せに暮らしていたことが、伊豆に家族旅行に行った時の回想シーンで示されるが、二人が車上生活を送ることになるまでの経緯について描かれることはなく、観る側の想像に任されている。恐らくは事業の失敗、会社の倒産等で借金が重なり母は失踪、父は残された車で逃げ回った末に娘二人を置いてネグレクトに至ったといったところだろうか。ツケは最も弱い立場の子どもに向かうという悪循環の中で、姉妹を取り巻く状況がどんどん悪化し、着の身着のまま、万引きしないと食べていけず、車は不良学生に荒らされ、まだ小さい子どもが死を考えるまでに思いつめていく様子は観ている方が辛くなる。

 姉妹の窮乏を見かねたユウトは、給食のパンや夕食の惣菜を集め、タカシを使ってそれを姉妹に渡そうとする。その際、同じような境遇にあるタカシが「自分の方がまだまし」という優越感のような感情を抱く描写も興味深い。さらにユウトは、他者を拒絶するようなミチルに対し、あと1ミリの勇気を出して呼びかける。

「ごはん、食えるとこあるけど……」

「小学生無料」の看板を掲げた「銀座」には、さまざまな事情を抱えたこどもたちが集う(「こどもしょくどう」より)
「小学生無料」の看板を掲げた「銀座」には、さまざまな事情を抱えたこどもたちが集う(「こどもしょくどう」より)

 ユウトとタカシが連れてきた姉妹に、ユウトの両親は怪訝な様子を見せながらも食事をふるまう。オムレツ、ハンバーグ、とんかつ等、何の変哲もない大衆食堂の定食メニューだが、お腹を空かせていた姉妹にとってはこの上ないごちそうに映ったに違いない。

 ユウトの両親は、明らかに様子のおかしい姉妹のことを児童相談所に連絡するかどうかで口論となるが結論は出ず、結果見守るだけになってしまう。そんな両親に業を煮やしたユウトは思い切った行動に出る……。

 本作はアラサーの引きこもり女子を主人公にし「百円の恋」(2014、本連載第176回参照)の脚本や地方の落ちこぼれ中学生の青春を描いた「14の夜」(2016)の監督を手がけた足立紳が教え子の山口智之と共同で脚本を書き、野坂昭如の原作を昨年亡くなった高畑勲が監督したアニメ「火垂るの墓」(1988、本連載第72回参照)の実写版(2008年)で、空襲で焼け野原となった神戸で孤立した兄妹の極限状況をリアルに描いた日向寺太郎監督ならではの作品と言える。

こども食堂の担い手として

 昨年公開された「こども食堂にて」は、こども食堂として実際に運営されている東京都台東区にある寺・成就院を舞台に、過去に親に虐待を受け、子どもシェルターに保護された経験を持つ児童福祉司を目指す滝本千晶(本下はの)が、こども食堂のボランティアスタッフとして働きながらこども食堂に訪れる子どもたち、親たちそれぞれが抱える問題に向き合っていくドラマである。千晶が虐待を受けていた当時の物語は佐野翔音監督の自主製作作品「わたし、生きてていいのかな」で描かれており、本作はその続編となっている。

 千晶がこども食堂で出会った女子小学生・ちぐさ(愛羅)の手足には虐待で受けたような痣があり、千晶は自分の過去と重ねて気に留めるようになるが、ちぐさを家に送る帰り道で男を連れたちぐさの母と会い、感謝されるどころか干渉するなと文句を言われてしまう。母に手を引っ張られて帰って行くちぐさの後ろ姿を見ながら、千晶は何もできない無力感にさいなまれる。

 また、こども食堂を利用する男子高校生の幸多(大地伸永)は、幼少時に父から虐待を受けている幸多を守るために実母(北原佐和子)が罪を犯し服役。現在は里親の母(高橋万里子)と暮らしている。ある日、千晶は幸多から、出所した実母に会うべきかどうか相談される。実は千晶も縁を切ったはずの父親が行方不明という連絡を受け心が揺れていた。幸多は生みの母と育ての母のどちらを選ぶのか。そして千晶は父親を許せるのか……。

「こどもしょくどう」と同様に本作も東京の下町を舞台にしているのは、昔ながらの人情が残る町というイメージが観客に受け入れられやすいからだろう。一方、本作のこども食堂はもともと食堂として出来た場所ではなくお寺の書院に机を並べ、ボランティアスタッフが食事を作り配膳するスタイル。地域の子どもの役に立ちたいという意欲さえあれば、こども食堂はどこでも始められるのだ。メニューも栄養のバランスを考えられているようで、おいしそうに見える。

おわりに

 新しい元号が「令和」に決まり「平成」も残りわずかとなった。ますます進行する少子高齢化で、子どもたちの未来はバラ色とはいかないかも知れないが、前を向き、知恵を絞って子どもの笑顔を守っていきたいものである。


【こどもしょくどう】

公式サイト
https://kodomoshokudo.pal-ep.com/
◆作品基本データ
ジャンル:社会派 / ヒューマン / ドラマ
製作国:日本
製作年:2018年
公開年月日:2019年3月23日
上映時間:93分
製作会社:「こどもしょくどう」製作委員会
配給:パル企画
カラー/サイズ:カラー/ビスタ
◆スタッフ
監督:日向寺太郎
脚本:足立紳、山口智之
エグゼクティブプロデューサー:岡本東郎
製作:鈴木ワタル、瀬井哲也
プロデューサー:岩村修、行実良
撮影:鈴木達夫
美術:丸山裕司
装飾:畠山和久
音楽・主題歌:Castle in the Air
作詞:俵万智
作曲:谷川公子
録音:橋本泰夫
音響効果:橋本泰夫
照明:三上日出志
編集:川島章正
衣装:宮本茉莉
ヘアメイク:小堺なな
制作担当:桑原昌英
助監督:谷口正行
スチール:遠崎智宏
VFXスーパーバイザー:立石勝
製作協力:古澤敏文
◆キャスト
高野ユウト:藤本哉汰
木下ミチル:鈴木梨央
大山タカシ:浅川蓮
木下ヒカル:古川凛
高野ミサ:田中千空
木下次郎:降谷建志
木下朋美:石田ひかり
高野佳子:常盤貴子
高野作郎:吉岡秀隆

(参考文献:KINENOTE)


【こども食堂にて】

公式サイト
https://kodomosyokudo-nite.jimdo.com/
◆作品基本データ
ジャンル:ヒューマン / ドラマ
製作国:日本
製作年:2018年
公開年月日:2018年9月29日
上映時間:115分
製作・配給:映画製作チーム・Sunshine
カラー/サイズ:カラー/16:9
◆スタッフ
監督・脚本・企画:佐野翔音
プロデューサー:森川一重
撮影:宮家和也、中野建太、成富紀之
音楽:中村水青、百山月花
編集:岩崎則章
助監督:森川陽月
◆キャスト
滝本千晶:本下はの
根本聡子:平田友子
幸多:大地伸永
幸多の里親:高橋万里子
幸多の実母:北原佐和子
ちぐさ:愛羅
アクセサリーショップのオーナー:川上麻衣子
魚屋:柴田理恵
聡子の母:五大路子

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。