「SPEC」シリーズの餃子

「劇場版 SPEC 天」。餃子ロボ親父(左)と見習いの2G(右)による流し餃子
「劇場版 SPEC 天」。餃子ロボ親父(左)と見習いの2G(右)による流し餃子

前回は、歴史的な時代背景を持つ中国映画の中の餃子をご紹介したが、今回は現代の日本を舞台にした映像作品「SPEC」シリーズに登場する餃子のお話をお届けする。

「SPEC」シリーズとは

「SPEC」シリーズとは、2010年10月から10回にわたりTBS系列で放映されたTVドラマ「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」に始まり、映画「劇場版 SPEC 結(漸ノ篇・爻ノ篇)」(2013)で完結した映像作品シリーズのことである。同様の経緯を辿った「TRICK」シリーズ(2000~2014)や、浦沢直樹の漫画を原作とした「20世紀少年」3部作(2008~2009)等でユニークな演出を見せた堤幸彦が監督を務めている。また、本シリーズは同監督の作品である「ケイゾク」シリーズ(1999~2000)と共通の世界観を持っている。

 当初は常識を超えた特殊能力(SPEC)を悪用した犯罪に対処するため、警視庁公安部に設けられた未詳事件特別対策係(通称“未詳”)の刑事たちが、「SPECホルダー」と呼ばれる超能力者たちと対決する1話完結のストーリーだったのが、シリーズが進むにつれて現人類とSPECホルダーとの存亡を賭けたスケールの大きなサーガに発展していく。しかし単なるハードなSFアクションではなく、随所に堤演出の特徴である効果音や独特の間を使ったギャグが挿入され、餃子もその文脈の中で使われている。

「中部日本餃子のCBC」の「茹で5、焼き5、ニンニク増量」

 餃子はシリーズの主人公の一人である“未詳”の捜査官、当麻紗綾(戸田恵梨香)の大好物で、その行きつけの店が名古屋出身の親父(多田木亮佑)が経営する「中部日本餃子のCBC」である。その店名はTBS系列の名古屋にある放送局、中部日本放送(CBC)に由来し、店の看板の文字もCBCのロゴにそっくり。メニューも「大名古屋茹で味噌餃子」「大名古屋焼き味噌餃子」と、味噌カツなど独自の食文化を持つ名古屋カラーが強く出ている。

 そのゆで餃子と焼き餃子をウスターソースとマスタードに絡めて食べながら「茹で5、焼き5、ニンニク増量」を追加注文するのが当麻のいつものパターン。餃子は、IQが200を超える京大理学部卒の才媛でありながらおやじギャルという彼女のキャラクターを表すと同時に、強力なSPECホルダーたちと対峙するためのスタミナ源になっているのである。

 味噌をあんに入れた餃子をウスターソースとマスタードで食べるスタイルは、名古屋出身の堤監督の母親のレシピがもとになっているという。また、店の撮影は東京の蒲田から東急多摩川線で2駅の武蔵新田にある中華料理店「中華麺舗 虎」を借り切り改装したロケセットで行われた。ちなみに蒲田は焼き餃子を蒸す時に少量の片栗粉を加え、餃子をパリパリとした食感の薄皮でつなげる“羽根付き餃子”が名物の餃子の街である。

 一方、餃子屋の親父は、名古屋に行くと言って一時行方不明となるのだが、TVシリーズの最終回、「癸(起)」の回で「オズの魔法使」(1939)に登場するブリキ男のような姿で餃子屋台の親父(餃子ロボ親父)として復活を果たす。実はこれには深い訳があり、その後、シリーズの影で大きな役割(?)を果たしていくのである。

餃子ロボ親父のSPEC

「劇場版 SPEC 天」。餃子ロボ親父(左)と見習いの2G(右)による流し餃子
「劇場版 SPEC 天」。餃子ロボ親父(左)と見習いの2G(右)による流し餃子

 餃子ロボ親父は、シリーズ第2部となるスペシャルドラマ「SPEC~翔(承)~」(2012)では、金のしゃちほこを被った「スター・ウォーズ」(1977)のR2-D2のような姿で“未詳”に現れ、電子レンジ化した胴体から手作りの「茹で5、焼き5、ニンニク増量」を出して当麻に振舞う。さらに第3部となる映画「劇場版 SPEC~天(転)~」(2012)では、全身金色のC-3POのような見習いロボ2Gを伴って出現。半割りにした竹の樋にゆで餃子を流す「流し餃子」を披露して見せる。

 そこに現れたのが第1部で死んだはずの当麻の最大の敵で実の弟でもあるSPECホルダー、一(ニノマエ)十一(神木隆之介)。彼は時間を止める(瞬間移動)というSPECを使って死を免れたと言い(実は嘘であることが後に判明)、世界の歴史を裏で操る秘密結社「御前会議」によるSPECホルダー抹殺計画「シンプルプラン」を阻止すべく、シリーズの前日譚「SPEC~零~」(2013)の戦いで負傷した左手で、死んだSPECホルダーを召還できる「妖怪ウォッチ」のようなSPECを持つ当麻を味方に引き込もうと説得するが、目的のためには手段を選ばないニノマエのやり方とは相容れない彼女はそれを拒絶するのだった。

「劇場版 SPEC 結」。マヨネーズをトッピングした餃子ロボ親父特製「焼き餃子丼」
「劇場版 SPEC 結」。マヨネーズをトッピングした餃子ロボ親父特製「焼き餃子丼」

 そして完結編となる「劇場版 SPEC 結(漸ノ篇・爻ノ篇)」。餃子ロボ親父は金づくめで背中が鏡張りの自動販売機となって、当麻の相棒で前作の捜査で負傷した瀬文(加瀬亮)の快気祝いに“未詳”を訪れ、「マヨネーズかけ餃子丼」や「餃子マヨ炒飯」を捜査員たちに振舞う。ここで始めて係長待遇の野々村(竜雷太)から体のことについて質問された彼は(それまで誰も疑問に思わなかったのが不思議なくらいだ)、身の上を語り始める。

 それによると、チリ人の妻アラータ(青森県住宅供給公社巨額横領事件に関与したチリ人女性にインスパイアされたものと思われる)に保険金目当てで殺されてすべてを失ったが、彼女のSPECによってロボットとして再生し、現在では富士山麓の国道の隅で自動販売機のふりをして暮しているという。そしてこの直後、突然機能停止を起こした彼に野々村がダメモトで施した蘇生術が、ラストの伏線としてつながっていくのである。

 ちなみに、「中部日本餃子のCBC」は、餃子ロボ親父でもアラータでもない別の人物によって営業を再開し、「翔」のラストで初登場した新たな強敵セカイ(向井理)と白い女(大島優子)の密談場所として使われている。

 そしてクライマックス。「天」のエンディングと「結」のオープニングに出現する、「猿の惑星」(1968)のラストの自由の女神を連想させる廃墟となった国会議事堂。その破滅の光景を阻止するために餃子ロボ親父はついに秘められたSPECを発動させる。それがどんなものなのかは映画をご覧になってのお楽しみである。

餃子の次は「芋けんぴ」?

「茹で味噌餃子」と「焼き味噌餃子」はTVドラマ放映時に中華食堂チェーン「大阪王将・よってこや」でコラボ企画として、「中部日本餃子のCBC餃子ロボ親父特製焼き餃子」と「焼き餃子丼」は、「結」公開時にサークルKサンクスで映画タイアップ商品として期間限定で発売されたことがある。

 2015年4月16日(木)からTBS系列で放映を開始した堤監督の新作ドラマ「ヤメゴク~ヤクザやめて頂きます~」は、「ケイゾク」「TRICK」「SPEC」に続く男女のバディドラマであり、本シリーズでマル暴出身の“未詳”の刑事、吉川役を演じた北村一輝と白い女役の大島優子が暴力団からの“足抜けコール”担当相談員のバディを演じている。

 また、当麻役の戸田恵梨香が主演する現在公開中の「エイプリル・フールズ」では、芋けんぴが重要なフードアイテムとなっており、それについては次回ご紹介する。


【劇場版 SPEC 天】

「劇場版 SPEC 天」(2012)
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2012年
公開年月日:2012年4月7日
上映時間:119分
製作会社:「SPEC~天~」製作委員会(TBS=東宝=角川書店=キングレコード=毎日放送=中部日本放送=オフィスクレッシェンド=RKB毎日放送=TCエンタテインメント=北海道放送)(制作 オフィスクレッシェンド)
配給:東宝
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:堤幸彦
脚本:西荻弓絵
エグゼクティブプロデューサー:濱名一哉
プロデューサー:植田博樹、今井夏木
撮影:斑目重友
美術デザイン:大木壮史
美術プロデューサー:小林民雄、山下杉太郎
装飾:大村充
音楽:渋谷慶一郎、ガブリエル・ロベルト
主題歌:THE RiCECOOKERS:(「NAMInoYUKUSAKI~天~」)
録音:臼井久雄
サウンドデザイン:石井和之
照明:川里一幸
編集:大野昌寛
アソシエイトプロデューサー:大原真人、渡辺敬介
ラインプロデューサー:市山竜次、赤羽智比呂
制作担当:植松育巳
助監督:白石達也
記録:奥平綾子
VFX:野崎宏二
キャスト
当麻紗綾:戸田恵梨香
瀬文焚流:加瀬亮
伊藤淳史:伊藤淳史
青池里子:栗山千明
宮野珠紀:三浦貴大
市柳賢蔵:でんでん
志村美鈴:福田沙紀
一十一:神木隆之介
野々村光太郎:竜雷太
馬場香:岡田浩暉
鹿浜歩:松澤一之
猪俣宗次:載寧龍二
マダム陽&陰:浅野ゆう子
津田助広:椎名桔平

【劇場版 SPEC 結(漸ノ篇・爻ノ篇)】

「劇場版 SPEC 結(漸ノ篇・爻ノ篇)」(2013)
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2013年
公開年月日:2013年11月1日(漸ノ篇)、2013年11月29日(爻ノ篇)
上映時間:95分
製作会社:「劇場版SPEC~結」製作委員会(TBSテレビ=東宝=KADOKAWA=キングレコード=毎日放送=中部日本放送=オフィスクレッシェンド=RKB毎日放送=TCエンタテインメント=北海道放送)(制作 オフィスクレッシェンド)
配給:東宝
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:堤幸彦
脚本:西荻弓絵
エグゼクティブプロデューサー:濱名一哉
プロデューサー:植田博樹、今井夏木
撮影:斑目重友
美術プロデューサー:山下杉太郎
美術デザイン:大木壮史
音楽:渋谷慶一郎、ガブリエル・ロベルト
主題歌:THERiCECOOKERS:(「audioletter」)
録音:臼井久雄
照明:川里一幸
編集:伊藤伸行
キャスト
当麻紗綾:戸田恵梨香
瀬文焚流:加瀬亮
吉川州:北村一輝
青池里子:栗山千明
城旭斎浄海:香椎由宇
正汽雅:有村架純
福田健太郎:KENCHI
秀樹.T:遠藤憲一
マダム陽/マダム陰:浅野ゆう子
一十一:神木隆之介
志村美鈴:福田沙紀
地居聖:城田優
冷泉俊明:田中哲司
海野亮太:安田顕
サトリ:真野恵里菜
セカイ:向井理
白い女:大島優子
野々村光太郎:竜雷太

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。