007はワイングラスのボウルを持つ

ワイングラスの部位とジェームス・ボンドの好物「ドン・ペリニオン ヴィンテージ」。
ワイングラスの部位とジェームス・ボンドの好物「ドン・ペリニオン ヴィンテージ」。タイアップの関係で第13作「オクトパシー」以降はボランジェに変更された。

古今東西、ワインを飲むシーンが登場する映画は数あれど、ワイングラスの持ち方については日本と外国では解釈が異なっているようだ。

 日本ではステム(脚)の部分を持つのがエレガントに見え、ワインの温度が変化しにくいということからマナーとされているようだが、海外ではボウル(胴体)部分を持つことが一般的だという(※1)。確かに私個人の映画鑑賞の記憶を辿ってみてもその傾向があるように思われる。そこで今回は劇中にワインが多く登場する「007」シリーズを例にとって調べてみることにした。

ドンペリ好きの英国紳士

ワイングラスの部位とジェームス・ボンドの好物「ドン・ペリニオン ヴィンテージ」。
ワイングラスの部位とジェームス・ボンドの好物「ドン・ペリニオン ヴィンテージ」。タイアップの関係で第13作「オクトパシー」以降はボランジェに変更された。

 皆さんご存知のことかと思うが、改めておさらいしておくと、「007」シリーズはイアン・フレミングの小説を原作にイギリス情報部(MI6)のエース諜報員であるジェームズ・ボンドを主人公としたスパイ・アクションである。1962年の「ドクター・ノオ」(公開時のタイトルは「007は殺しの番号」)から2012年の「スカイフォール」まで、50年にわたり全23作(番外編を含めると25作)が製作され、初代のショーン・コネリーから現在のダニエル・クレイグに至るまで6人の俳優がボンド役を演じている(表1)。

 ドンペリと女をこよなく愛し、どんな危機に陥ってもユーモアのセンスを忘れず、それでいて英国紳士としての気品も兼ね備えたスパイ像はそれまでになかったものであり、このシリーズが人気を博した最大の要因と言えるだろう。とくに酒に関しての薀蓄は相当なもので、シャンパンにとどまらず世界中のワインやウォッカ、マティーニから日本酒にまで通じている様子がシリーズの随所で描かれている。

【表1】「007」シリーズ(参考文献:KINENOTE
No. タイトル 公開年 監督 ジェームズ・ボンド ボンドガール
1 007/ドクター・ノオ(007は殺しの番号) 1962 テレンス・ヤング ショーン・コネリー ウルスラ・アンドレス
2 007/ロシアより愛をこめて(007/危機一発) 1963 テレンス・ヤング ショーン・コネリー ダニエラ・ビランキ
3 007/ゴールドフィンガー 1964 ガイ・ハミルトン ショーン・コネリー オナー・ブラックマン
4 007/サンダーボール作戦 1965 テレンス・ヤング ショーン・コネリー クローディーヌ・オージェ
5 007は二度死ぬ 1967 ルイス・ギルバート ショーン・コネリー 若林映子/浜美枝
6 女王陛下の007 1969 ピーター・ハント ジョージ・レーゼンビー ダイアナ・リグ
7 007/ダイヤモンドは永遠に 1971 ガイ・ハミルトン ショーン・コネリー ジル・セント・ジョン
8 007/死ぬのは奴らだ 1973 ガイ・ハミルトン ロジャー・ムーア ジェーン・シーモア
9 007/黄金銃を持つ男 1974 ガイ・ハミルトン ロジャー・ムーア ブリット・エクランド
10 007/私を愛したスパイ 1977 ルイス・ギルバート ロジャー・ムーア バーバラ・バック
11 007/ムーンレイカー 1979 ルイス・ギルバート ロジャー・ムーア ロイス・チャイルズ
12 007/ユア・アイズ・オンリー 1981 ジョン・グレン ロジャー・ムーア キャロル・ブーケ
13 007/オクトパシー 1983 ジョン・グレン ロジャー・ムーア モード・アダムス
14 007/美しき獲物たち 1985 ジョン・グレン ロジャー・ムーア タニア・ロバーツ
15 007/リビング・デイライツ 1987 ジョン・グレン ティモシー・ダルトン マリアム・ダボ
16 007/消されたライセンス 1989 ジョン・グレン ティモシー・ダルトン キャリー・ロウエル
17 007/ゴールデンアイ 1995 マーティン・キャンベル ピアース・ブロスナン イザベラ・スコルプコ
18 007/トゥモロー・ネバー・ダイ 1997 ロジャー・スポティスウット ピアース・ブロスナン ミシェル・ヨー
19 007/ワールド・イズ・ノット・イナフ 1999 マイケル・アプテッド ピアース・ブロスナン ソフィー・マルソー
20 007/ダイ・アナザー・デイ 2002 リー・タマホリ ピアース・ブロスナン ハル・ベリー
21 007/カジノ・ロワイヤル 2006 マーティン・キャンベル ダニエル・クレイグ エヴァ・グリーン
22 007/慰めの報酬 2008 マーク・フォースター ダニエル・クレイグ オルガ・キュリレンコ
23 007/スカイフォール 2012 サム・メンデス ダニエル・クレイグ ベレニス・マーロウ
番外編 007/カジノ・ロワイヤル 1967 ジョン・ヒューストン他 ディヴィッド・ニブン他 ウルスラ・アンドレス
番外編 ネバーセイ・ネバーアゲイン 1983 アーヴィン・カーシュナー ショーン・コネリー キム・ベイシンガー

※1 ワイングラスの持ち方(マナーを知る)/アサヒワインコム/アサヒビール
http://www.asahibeer.co.jp/enjoy/wine/know/manner/09.html

ボウルを持つ理由

 さて、今回のテーマであるワイングラスの持ち方についてだが、次ページ表2の通りである。

 グラスを持つ前にアクションが始まってしまうケースが多く全作品を網羅しているわけではないが、ボンドガールなどの飲む相手を含め例外なくボウル下部を持っていた(表中の★印。無記はグラスを持つショットがないなど確認できないもの)。マナーというより習慣になっている印象である。

 本サイトの大久保順朗氏の連載「再考・ワイン物流改善」によると、酒類は攪拌によって品質が劣化するという(※2)。温度変化に対する配慮からステムを持つ日本のローカルマナーも理にかなっているように思われるが、これではグラスが絶えず不安定な状態に置かれることになる。日本人よりワインとの付き合いが長い欧米人は温度よりも揺らさずに飲むことを重視してしっかりとボウル部分を持っているのではないかという仮説を立ててみたが、残念ながら確証を得るには至っていない。

 今回は「007」シリーズに限定した調査であったが、機会があれば分母を洋画全体に広げて調べ、その結果をご披露したいと思っている。

※2「再考・ワイン物流改善[67]」(大久保順朗、FoodWatchJapan)

【表2】「007」のワイン・シーン(参考文献:「映画の中のワインで乾杯」須賀碩二著、東急エイジェンシー、1999)
※ 種類:SP=スパークリング、ST=スティルワイン ※持ち方:★=ボウル下部を持つ
No. タイトル 登場する主なワイン 産地 種類 持ち方 ワイン絡みのセリフ、エピソードなど
1 007/ドクター・ノオ(007は殺しの番号) ドン・ペリニオン シャンパーニュ sp 55年もののヴィンテージに対し「53年ものの方が良かった」
2 007/ロシアより愛をこめて(007/危機一発) テタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ・ブラン・ド・ブラン シャンパーニュ sp オリエント急行の食堂車で敵に睡眠薬を仕込まれる
3 007/ゴールドフィンガー ドン・ペリニオン シャンパーニュ sp 「ドン・ペリニオンは3.5℃以下で飲むべし」
4 007/サンダーボール作戦 ドン・ペリニオン シャンパーニュ sp カリブのレストランでキャビアとドンペリを注文
5 007は二度死ぬ ドン・ペリニオン シャンパーニュ sp 「日本酒は人肌に燗したのが最高」
6 女王陛下の007 ドン・ペリニオン シャンパーニュ sp キャビアと共に女性の部屋に届けさせる
7 007/ダイヤモンドは永遠に シャトー・ムートン・ロートシルト ボルドー st ソムリエに化けた殺し屋とのやり取りがクライマックス
8 007/死ぬのは奴らだ ボランジェ シャンパーニュ sp ルームサービスに届けさせた直後に毒蛇が
9 007/黄金銃を持つ男 シャトー・ムートン・ロートシルト ボルドー st 「34年もののムートンを偲ばせる」
10 007/私を愛したスパイ ドン・ペリニオン シャンパーニュ sp 脱出カプセルの中で「ドンペリ好きに悪人はいない」
11 007/ムーンレイカー ボランジェ シャンパーニュ sp 宇宙ステーションに取り残されたジョーズが歯で栓を抜く
12 007/ユア・アイズ・オンリー テオタキ・アスポロ ギリシャ st 「ケフォロニアは香りが強すぎる。テオタキ・アスポロを」
13 007/オクトパシー ボランジェ シャンパーニュ sp オクトパシーとボランジェで乾杯
14 007/美しき獲物たち ボランジェ シャンパーニュ sp エッフェル塔のレストランで75年ものと言い当てる
15 007/リビング・デイライツ ボランジェ シャンパーニュ sp 亡命スパイへの手土産にボランジェRD
16 007/消されたライセンス ボランジェ シャンパーニュ sp 友人の結婚パーティーでボランジェ
17 007/ゴールデンアイ ボランジェ シャンパーニュ sp アストンマーチンのグローブボックスの冷蔵庫にボランジェ
18 007/トゥモロー・ネバー・ダイ ボランジェ シャンパーニュ ロゼ sp オックスフォードのデンマーク語の先生とベッドで
19 007/ワールド・イズ・ノット・イナフ ボランジェ シャンパーニュ sp ボンドガールのソフィー・マルソーとベッドで
20 007/ダイ・アナザー・デイ ボランジェ シャンパーニュ sp 着の身着のままで61年もののボランジェを注文
21 007/カジノ・ロワイヤル ボランジェ シャンパーニュ sp ルームサービスに「冷えたボランジェのグランダネを」
22 007/慰めの報酬 ボランジェ シャンパーニュ sp ボリビアでの敵の資金集めパーティーで
23 007/スカイフォール ボランジェ シャンパーニュ sp セヴリンの船の中で
番外編 007/カジノ・ロワイヤル ブーブ・クリコ シャンパーニュ sp 007が六人!豪華スター共演のパロディ
番外編 ネバーセイ・ネバーアゲイン シャトー・シュヴァル・ブラン ボルドー st 極上のボルドーを療養所の付き添いの看護婦と
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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。