思い出の中の海の幸と山の幸

286 「サバカン SABAKAN」の海の幸と山の幸

夏休みも終わりというこの頃。夏休みの思い出は、それぞれにお持ちのことだろう。現在公開中の「サバカン SABAKAN」は、1986年の長崎県西彼杵郡長与町を舞台に、2人の少年の冒険と友情を描いた、和製「スタンド・バイ・ミー」(1986)とも言うべき作品である。本稿では、2人の少年の冒険の過程とその後に登場する、海の幸、山の幸に着目して述べていく。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

“海の幸”を得る冒険

 本作は、お笑い芸人から構成作家、劇作家、脚本家に転身した金沢知樹の初監督作品。1974年生まれの彼が、故郷での少年時代の経験をもとにした小説が原作である。

 物語は、現代の東京で小説家として行き詰まっている久田孝明(草彅剛)が、家に置いてあったサバの味噌煮の缶詰を見て、少年時代の友人、タケちゃんこと竹本健次(原田琥之佑)のことを思い出すところから、回想形式で綴られていく。

 作文が得意なヒサちゃんこと久田(番家一路)は、アイドル時代の斉藤由貴と、カプセルトイのキン肉マン消しゴム(キン消し)に夢中な小学5年生。一方、同級生のタケちゃんは、漁師の父親を早くに亡くし、スーパーに勤める母親の雅代(貫地谷しほり)、4人の弟妹と貧しい生活を送っていた。

タケちゃんが、ヒサちゃんを家に招いてある料理を振舞った際に使われたサバの味噌煮の缶詰。缶のデザインは、大洋漁業(現マルハニチロ)の1986年当時のものである。
タケちゃんが、ヒサちゃんを家に招いてある料理を振舞った際に使われたサバの味噌煮の缶詰。缶のデザインは、大洋漁業(現マルハニチロ)の1986年当時のものである。

 夏休みのある日、タケちゃんはヒサちゃんの家を突然訪ねてくる。用件は、タンタン岩という山の向こうの海上に浮かぶブーメラン島に出没するイルカを一緒に見に行こうという誘い。ヒサちゃんの所有する自転車をあてにしてのことだった。ブーメラン島は遠く、自転車を使っても門限の5時に帰宅するのは困難と思われたが、直前にTVで「海のトリトン」(1972)の再放送を見ていたヒサちゃんは、イルカに乗るという誘惑に抗えず、タケちゃんに同行する。

 タンタン岩を超え、バス停近くの駄菓子屋でラムネを買い休憩する2人。ひと悶着あった後、ついに海岸に到着し、ブーメラン島を目指すのだが……。

 ここに出てくるタンタン岩は長与町に、ブーメラン島は隣町の時津町に実在する。ただ、そのブーメラン島は海岸に半ば接しているが、映画でのブーメラン島には泳いで渡る設定で、長与港から5km沖にある二島ふたしまがモデルと思われる。

 2人がこの冒険で得たものは、バス停で出会った少女、由香(茅島みずき)が振る舞ったある“海の幸”だった。

“山の幸”は誰のもの?

 この冒険で親しくなった2人は、夏休みのほとんどを一緒に過ごすようになる。魚釣りや食べられる山菜と毒キノコの見分け方など、物知りなタケちゃんにヒサちゃんは教わる立場だ。

 タンタン岩にミカンを採りに行く2人の前に立ちはだかるのは、内田のじじい(岩松了)。ミカンを丹精込めて育てている生産者である内田のじじいから見れば、2人はミカン泥棒だ。タケちゃんは、ミカンはそもそも山のものだから捕っていいという無茶苦茶な理屈で、内田のじじいとバトルを繰り広げていた。

 この内田のじじいの、クライマックスでの印象的な行いについては、実際に映画をご覧いただきたい。

サバカンとカップケーキ

 ある日、タケちゃんはヒサちゃんを自宅に招待。本作のタイトルの由来となる、亡き父直伝のサバの味噌煮の缶詰を使った料理を振る舞う。そのおいしさに感動したヒサちゃんは、タケちゃんにある提案をし、タケちゃんは現在もその料理を作り続けることになる。

 働きづめで子供たちとの時間が少ない雅代は、スーパーでの勤めの帰り、娘が食べたがっていた売り物のカップケーキの前で逡巡していた。そこに同僚の店員が来てあることをする。本作では、随所にこのような市井の人々の優しさが散りばめられているのだが……。

こぼれ話

1. 金沢監督はお笑い芸人時代、恋愛バラエティ番組「あいのり」の金ちゃんとして名をはせたことがある。

2. タケちゃんを演じた原田琥之佑の祖父は、往年の名優、故・原田芳雄である。

3. タケちゃんがヒサちゃんに振舞った料理は、タイアップ先の外食チェーンで、公開日の8月19日から期間限定で食べられる(各店舗数量限定、完売次第終了)。また、映画のパンフレットと、映画のビジュアルをあしらったオリジナルサバ缶を、8月19日〜8月28日の期間限定で持ち帰り販売中(各店舗数量限定、完売次第終了)。


【サバカン SABAKAN】

公式サイト
https://sabakan-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2022年
公開年月日:2022年8月19日
上映時間:96分
製作会社:CULEN、ギークサイト(制作プロダクション:ギークサイト)
配給:キノフィルムズ
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:金沢知樹
脚本:金沢知樹、萩森淳
エグゼクティブプロデューサー:飯島三智、小佐野保
プロデューサー:佐藤満、高橋潤
撮影:菅祐輔
美術:岡田拓也
装飾:佐藤孝之
音楽:大島ミチル
音楽プロデューサー:丸橋光太郎
録音:田辺正晴
照明:渡邊大和
編集:河野斉彦
衣裳:松下麗子
スタイリスト:細見佳代
ヘアメイク:永嶋麻子
ラインプロデューサー:福田智穂
制作担当:林みのる
監督補:小川弾
助監督:新谷和弥人
スクリプター:外川恵美子
キャスト
久田孝明(子供時代):番家一路
竹本健次:原田琥之佑
久田良子:尾野真千子
久田広重:竹原ピストル
竹本雅代:貫地谷しほり
久田孝明:草彅剛
内田のじじい:岩松了
弥生:村川絵梨
亜子:福地桃子
大内田健夫:ゴリけん
金山:八村倫太郎
由香:茅島みずき
宮田学:篠原篤
市川:泉澤祐希

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。