ミートホープが売っていたものは「食べ物」だったのか?

子供がいたずらした市販のコロッケ。肉は、見えない
子供がいたずらした市販のコロッケ。肉は、見えない
子供がいたずらした市販のコロッケ。肉は、見えない
子供がいたずらした市販のコロッケ。肉は、見えない

「ミートホープ、今日家宅捜索へ」という新聞記事を読んだのは、その24日朝、東京から広島へ向かう飛行機の中だった。豚肉など牛肉以外の肉や内臓肉、水で増量、着色したものを牛ミンチとして売っていたという。「つぶしてしまえば肉の味などわからない」という元幹部のコメントには返す言葉もない。いや、大いに考えさせられる。

 今回、そのでたらめな“牛ミンチ”を使って出来上がったものとして問題となった商品の一つは、北海道加ト吉が作り、日本生活協同組合連合会が売っていた「牛肉コロッケ」だ。同様のものは、どこのスーパーでもよく見かけるものだが、かじった断面に肉らしきものは数粒見えるかどうかというのが普通だ。これで肉の味の見分けを付けるというのは曲芸のようなもの。そのように、消費者が官能で実感できない「牛肉」を、特徴として商品名に打ち出すようなことは、今後あらゆる食品で戒めていかなければならない。

 ミートホープの田中稔社長は、後の記者会見で「安値で売る販売店、喜んで買う消費者も悪い」と言ったとか。そのようなことを言えば言うほど、自分の名誉を傷つけることにこの人は気付いていないのだが、そのこととは別に、業界と市場に反省すべき点があるのは確かだ。

 ところで、そのいろいろなものを混ぜた“牛ミンチ”とやら、単体で食べたときの味はどのようなものだったのか。また、北海道加ト吉の工場長が、廃棄予定の問題のコロッケをミートホープに横流ししていたということで、事件はいよいよ漫画になってきたのだが、田中社長自身は、機会があればそれを口にしただろうか。そこに興味がある。つまり、彼自身が、それを“食べ物”だと認識していたのかどうか、ということだ。

 広島市に行ったのは、同市在住の作家、金文学氏の出版記念パーティに出席するためだった。彼は韓国系三世の中国人で日本在住という、東アジア3カ国を「祖国」と考えるユニークな人物だ。「中国人民に告ぐ!」「韓国民に告ぐ!」などの著書があり、現代中国、韓国に痛烈な批判を浴びせる一方、日本に対しても「カネだけあって、文化を捨てている」と容赦はない。さしずめ、今回の“牛ミンチ”も、金勘定の前に正義や道徳という文化が滅んだ一例と言えるだろう。

 この会に、金氏との共著「逆検定中国国定教科書」もある、作家井沢元彦氏も出席していた。氏は、日中韓それぞれの国籍の人々がひしめく会場で「北京オリンピックをボイコットせよ」とするスピーチを行った。乱暴に要約させてもらうとこうだ――自分は中国人は大好きであるが、中国共産党政権には問題があると見ている。その政府に、北京オリンピックの成功体験を与えることで、国際情勢に及ぶはずの重大な影響を考慮すべし。

 スピーチは満場大拍手で歓迎されたのだが、ここでこれについての意見を述べることは差し控える。ただ、井沢氏が現代中国の問題として話していた中に、「中国高官、富裕層は国産(つまり中国産)の食品を食べない」というものがあったことが、朝の新聞記事とダブって印象に残った。「長い中国の歴史の中で、自分たちが食えないようなものを作ることになってしまったのは、かつてないこと」という。

 中国産ホウレン草から基準値を超える農薬が検出された一件の後、彼の地の生産現場を知る人たちからは、「その後猛烈な勢いで改善がなされた」といった話は聞く。だが一方で、日本産農産物が中国で高値を付け、しかも売れ行きが伸びているという話も聞く。井沢氏が言う「国産は食べたくない」中国人も、確かに多いのだろう。

 これは、それぞれの農産物、食品が、物理的化学的に食べるのに適しているかどうかという問題とは少し違う。自分で食べたいかどうかが問題なのだ。

 スピーチを聞いて私が思い出したのは、その幾日か前にお目にかかった、日研フード(静岡県袋井市)の水野洋介社長の話だ。ラーメンのスープなどの原料となる調味料を作る同社では、商品作りで社員が守るべき規範を簡単な一言で表している。「自分の家族と食べたいと思えるものであること。これに違反した社員には辞めてもらう」という。

 昨今、ユーザー企業の表示に関する要求はますます厳しく詳細になってきている。しかも、同社が特に得意とするのは、野菜を原料とする各種の調味料なだけに、ポジティブリストの影響をもろに受け、仕事は年々手間と時間と金を要するようになってきている。同社では、もちろんそうした検査、計測し得る品質基準を守りながら、一方で「家族と食べられるものか」をすべての商品について常に厳しく問うている。事実、過去に一例、これに反して退職した人がいるというから、単なるスローガンではなく、生きた鉄の掟なのだ。

 どの業種でも、ユーザー企業から値下げを求められない原料メーカーというものはまずない。それでも真っ当なものを提供し続けるには、調達、調製、検査の各段階での管理、法令遵守の徹底というハード面だけでは「正確に誤る」(ケインズ)ことにもなりかねない。「カネだけ見て、文化を捨てる」ことは、人を傷つけ、自らも滅ぼすものだと肝に銘じたい。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 307 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本フードサービス学会会員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。東京栄養食糧専門学校非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →