ムギの会社がコメ新品種「花キラリ」を売る意義

「花キラリ」のサンプル。18年産は720tの集荷を予定する
「花キラリ」のサンプル。18年産は720tの集荷を予定する
「花キラリ」のサンプル。18年産は720tの集荷を予定する
「花キラリ」のサンプル。18年産は720tの集荷を予定する

押し麦や麺類など麦製品を扱うはくばく(山梨県増穂町・長澤利久会長)の子会社和穀の会(長澤重俊社長)が、「花キラリ」という民間育成品種のコメを扱っている。ムギの会社がコメを売ることになったのは、米穀小売店支援のためだという。

 現在、米穀小売店はほとんどが零細。かつては、強化米などのメーカーが米穀小売店を販路として、調味料や飲料などさまざまな商品を販売し、米穀小売店と共生関係にあった。しかし今は、多くの企業が米穀小売店との取引を縮小している。「結局、残ったのがはくばく。『では、はくばくは米穀小売店のために何をしてくれるの?』ということになった」(和穀の会の岩村孝次専務)。

 そこで、はくばくは和穀の会を設立し、米穀小売店だけで販売する麦製品、調味料、茶などの食品をラインナップする一方、経営のコンサルティング、販促物の制作などの受託も開始した。これを続けるうち、「『そこまでやってくれるなら、コメも卸して欲しい』という声が次第に多くなった」(同)。

 ところが、元来はくばくは米穀小売店に直接ではなく、米問屋を通じて商品を販売してきた。そこでコメを扱えば、問屋の反感を買ってしまう。実際、ある品種のコメを扱ってみたところ、さっそく数社の米問屋から苦情が入ったという。

 それであきらめていたところ、前回記した中島美雄商店(滋賀県草津市・中島美雄会長)から「花キラリ」譲渡のオファーが入った。この品種は、やはり前回も記した三菱化学のグループ企業、植物工学研究所が育成したもので、育成者権を他の品種とともに中島美雄商店が取得していた。

 中島美雄商店にしてみれば、すべてのコメ新品種を囲い込んで販売に苦労するよりは、販路を持っている会社に、譲れるものは譲りたいという考えだった。新品種の育成者権があれば、種モミ流通から、栽培、収穫物の流通まですべてを管理できるので、米問屋への気遣いは軽減される。和穀の会にとっても渡りに船だった。

「花キラリ」は、コシヒカリなど従来の人気品種とは味の傾向が異なる。「炊き上がりのツヤが特徴で、口当たりはあっさり。かんでいるうちにモチモチした感じがしてくるユニークな食感」(同)だ。このため、米穀小売店が「コシヒカリの替わりに」と売り込むと、「思ったものと違う」と苦情の元になる。

「『花キラリ』販売に成功している米穀小売店は、今までのコメとは異なる特徴のコメだということをしっかり伝えている。しかも、和食、すし、親子丼、お茶漬けなど、このコメに合う食べ方を合わせて伝えている。ブレンド米に使って、さらに別な価値を生み出している米穀小売店もある」(同)と言う。

 付加価値が田んぼから自動的にやってくるのではない。田んぼから来るのはあくまでも商材であって、米穀小売店がお客との会話で付加価値を生み出すというわけだ。小売価格は2500~3000円/5kg。スーパーで売られているコシヒカリと同等か、1.5倍程度の価格だ。

 この辺りの販売の秘訣、地酒や焼酎を上手に売る居酒屋を思い出させる。「飲め、飲め」とアルコールだけを勧めても売れるものではない。「この料理に、この酒が合います」というトークを的確かつ自由自在にできる店が販売個数を伸ばすことができ、商品の単価も高くできる。コメの販売も同じということだ。

 居酒屋にそのような売り方ができるのは、地酒も焼酎も、個性的な蔵元と商品が多数揃っているからだ。だとすれば、繁盛しようとする米穀小売店が「花キラリ」の登場について喜ぶべきなのは、それが米穀小売店専門の品種だということではない。従来の人気品種とは異なる特徴を持った品種が、コメのラインナップに1つ加わったというそのことにこそ価値がある。

 今後さらに、全国津々浦々のコメ産地が、「この産地ならではの品種」を真剣に選択して栽培し、多くの品種のコメが市場に流通するようになれば、お客は自然と専門店へ向かうようになるだろう。

 ロットを揃えることに腐心してきた既存のコメ流通関係者にとってはうれしくない話かも知れない。しかし、コメが商品としての魅力を増し、肉・魚や他の穀物に奪われた国民の胃袋のシェアを回復しようとするならば、これは避けて通れない道のはずだ。

 はくばくは、ムギという、ともすればコメ以上にバルク扱いされ、個性より量がものを言う穀物と付き合ってきた企業だ。ただし、小麦粉をいかに大量にさばくかといったこととは違うところに、理念とビジネスの関心を持っている。「基本食の感動的価値の創造」を標榜して、個性的な押し麦製品や麺類などで評価を受けてきた企業だ。そうした企業が、今後コメの価値をどう上げていくか。)

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 齋藤訓之 392 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →