“国産ワイン”とブドウ色素

酸化・劣化した輸入ワインは、かつては“国産ワイン”の原料として買い取られていた。しかし、逆浸透膜濃縮技術によってブドウ果汁の輸送コストが圧縮できるようになった後、それは必要な原料ではなくなったと考えられる。ただ、ワインの色を調整するための色素に富むブドウ果汁はどのような果汁か。そこが気になる。

劣化ワインを原料ワインにする技術

 前回は、酸化して劣化したワインも還元によって健康を取り戻すことはある程度可能だろうということ、しかし、ワインの酸化の程度が甚だしければそれは難しいだろうということを述べた。

 しかし、第40回で述べたように、国産大手ワイン・メーカーが劣化ワインを原料用に買っていた時期があるのだ。彼らは既に過剰に酸化したワインを還元する方法を開発できていたと考えるべきだろう。その技法を使用するか否かは、輸入濃縮果汁からワインを造る場合のコストとクオリティの比較で決まっただろう。

ブドウ色素国産化の努力

 少し脱線するが、わが国の大手総合酒類製造企業の技術力の高さに言及しておきたい。

 かつて国産大手ワイン・メーカーの中には、ブドウの果皮細胞のタンク内培養を成功させるなどの成果を、日本経済新聞・夕刊に連載発表していた企業があった。

 その記事には、このようなことが書かれていた。

・ワインは色で分けると、赤、白、ロゼの3種類がある。
・赤ワインは皮の色が濃い紫色のブドウの皮も種も一緒に醗酵させる。アルコール分が増えるに従って皮からアントシアニンという色素が溶け出して色が付く。
・天候不順などで原料ブドウの成熟が進まないと、ワインの彩りが悪くなる。
・そこで色付け専用ブドウが考え出された。アリカント系と言って、皮や果肉だけでなく葉まで赤い色の品種だ。
・さらに、木に成長させていたのでは効率が悪いので、色素を大量に作り出す細胞だけを試験管の中で増やすことにも成功した。
・現在は色調整用のブドウ色素は専ら輸入に頼っているが、この成功で、輸入が必要でなくなる日も近い。

 いかがだろうか? 国産ワイン用ブドウの栽培も順調でなく、ブドウ果の買い取り価格も高い状態の中で、安価で高品質の欧州産ワインに対抗するための涙ぐましい(?)努力をしていたのである。

 日本のブドウ栽培は生食用が中心であり、水分豊富な果粒を大きく育てることに価値がある。だがワイン用ブドウ、とくに赤ワイン用ブドウの場合は、果粒を小さく育てるように努力する。果皮と果汁の重量比率で、果皮の重量比がより高い方が風味豊かで色調の濃い赤ワインが生産可能だからである。国内で生産されるブドウの大半は、高価でかつワイン用には不向きな代物であったのだ。

 それゆえ、1980年前後の国産ワイン業界は、ワイン原料用ブドウの大半を外国から買っていたのである。冷凍果房、冷凍果汁、ドライ・レーズン、加熱低濃縮果汁などである。

ブドウ色素の元・アリカント系

 傷んだ輸入ワインを原料として購入していた背景には、このような原料コスト高をいかに抑えるかという努力があったのである。

 しかし、逆浸透膜濃縮技術の登場以来、国産ワイン用原料の主流は「輸入500%濃縮果汁」へと変わった。無駄に水分を輸入しないことで輸送コストを削減したのである。このため、傷んだ輸入ワインを還元・再生させて“国産ワイン”の原料とする技術はかつてはあったはずだが、現在では価値を失ってお蔵入りになっていると考えられる。

 しかし、まだ引っかかることがある。上に紹介した記事に書かれた“色調整用のブドウ色素”のことだ。

 鮮度のよい黒いブドウ果から搾汁したブドウジュースは、基本的には白い果汁である。赤いブドウジュースを造るには、普通に搾汁するだけではない技術が必要である。そして、「アリカント系と言って、皮や果肉だけでなく葉まで赤い色の品種」から採取した“色調整用のブドウ色素”が国際的なマーケットを有して存在しているのだ。

「アリカント系ブドウ品種」とはどんな品種なのだろうか?

About 大久保順朗 82 Articles
酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。