酒造は農地の除染に手を貸せる

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故では、欧州ワイン産地はろ過で対応した。これが可能ということは、今日のわが国の放射能汚染対策にも応用可能な知恵があるということではないか。

ベントナイトによる清澄ろ過

 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の後、EC加盟国のワイン産地、あるいは他の農産物の産地はどのような対応をしただろうか。

 ワインに関しては、ベントナイトによるろ過で放射性物質を国際的汚染許容値以下まで吸着除去することで対応したと聞いている。

 ベントナイトは東京電力福島第一原子力発電所の汚染水の放射能除去でフランス・アレバ社が使用している物質の一つでもあるが、もともと放射性物質を専門に対象とする資材というわけではない。工業的にさまざまに利用されている粘土の一つで、食品工業では主に比較的安価なろ過助剤(既存添加物にリストアップ)として清澄ろ過によく利用されている。ワインのオリ下げにも従前から使われてきた実績がある。

 液体中の放射性物質は、この方法でかなり除去できるらしい。これは示唆に富む情報だ。

 ただし、固形物からの除去に関する情報は滞った状態が続いた。ところが、1987年以降、日本では欧州産キノコ類や欧州産チーズのブームが巻き起こった。ブラウン・マッシュルームに始まり、セップ、モリーユ、ポルチーニ、またそれまで輸入が制限されていた生トリュフが解禁され、黒トリュフどころか入手困難とされていた白トリュフまでが大量に輸入され、消費されるようになった。

 私は薄気味の悪い話だと感じていた。

欧州産ブドウの汚染のその後

 チェルノブイリ原子力発電所事故後のワインの放射能汚染の状況について、もう少し考察しておこう。

 1986年産フランス・ワインは、開花結実期から収穫期までの数カ月、圃場表面に降灰した放射性物質と果房に付着した少量の放射性物質による汚染を被ったと想像できる。産地では、ブドウの枯れた枝葉、ワイン搾汁後の絞りかす、ろ過に使われたベントナイトは、畑の片隅に積み上げられ、ビニール・シートで覆われて仮置きされたとの情報をもらった。

 1987年産以降のワインは、直接放射性物質を被ったことはなく、ブドウの木の周囲に残留した放射性物質も少なかったはずである。汚染の数値も大きく減少したはずだ。

 というのは、ブドウの木は地表から20~30cm下に根毛をはやしている。他方欧州の土壌でのセシウム134・137の土壌沈降速度は年間1~1.5cmと聞いたことがある(降雨の多い日本ではもっと速いだろう)。1年やそこらでは、まだブドウが吸い上げる所まで到達していないのだ。

 だが、逆に丸25年を経過した今、欧州のブドウは根からの放射性物質の吸収を始めているかもしれない。

 幸か不幸か、現在、放射線測定器は急速に普及している。手元にある方は試みに欧州産ワインと国産ワインも検査してみることをお願いしたい。「国産ワインも」と言うのは、東電事故のこととは別の話だ。欧州産ブドウジュースを日本で醗酵させると外国産ではない=国産ワインになってしまうのだ(国産のワインは、原則として原料ブドウの「産地が国外であるものについては、産地の表示は行わない」ことになっている)。

酒による除染の提案

 少しみなさんを怖がらせるようなことを書いたが、話はここからだ。

 1986年当時、欧州産ワインはベントナイトによるろ過で放射性物質を国際的汚染許容値以下まで吸着除去したという情報を、冒頭で紹介した。

 欧州の産地が、今でも検査・測定をしながら管理しているのであれば、問題のあるボトルは出てこないはずだ。

 であるならば、酒による原発被災地支援策が考えられる。固形物では難しい放射性物質の除去も、液体中のものは除去しやすいのだ。現在、福島県やそれ以外のホット・スポットでも農産物が出荷停止になる例が後を絶たないが、酒にしてしまえばベントナイトで放射性物質除去が可能なのである。

 政府は、2011年産の澱粉や糖類を含む汚染農産物の積極買い上げ、2012年以降は酒類製造原料として好適でかつ表土に根を張る農産物の、汚染地への積極作付け奨励と完全買取りシステムの構築を進めてはどうか。

【編集部からのお願い】

 本稿は、放射線測定器等の設備・機器をお持ちの方に欧州産ワインおよび国内産ワインの測定を勧めてはいますが、それらが一律に危険であることを主張するものではありません。実際の検証なく不安をあおることはお控えください。

 また、現在一般向けに市販されている比較的安価な放射線測定器で、食品・飲料水等が暫定規制値以下かどうかの測定に向くものはないようです。この点にもご注意ください。

●参考
比較的安価な放射線測定器の性能
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20110908_1.html
比較的安価な放射線測定器の性能-第2弾-
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20111222_1.html
(ともに国民生活センター)

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酒類品質管理アドバイザー おおくぼ・よりあき 1949年生まれ。22歳で家業の菊屋大久保酒店(東京都小金井市)を継ぎ、ワインに特化した経営に舵を切る。「酒販ニュース」(醸造産業新聞社)に寄稿した「酒屋生かさぬように殺さぬように」で注目を浴びる。また、ワインの品質劣化の多くが物流段階で発生していることに気付き、その改善の第一歩として同紙上でワインのリーファー輸送の提案を行った。その後も、輸送、保管、テイスティングなどについても革新的な提案を続けている。