“常温ミルクパック”は『乳製品じゃないから腐らない』ってホント?

コーヒーフレッシュ
ポーションタイプのコーヒーフレッシュ

前回の続きの話を聞こうと待っていた、現代素材探検隊隊長のリョウ。ところが、やって来たタクヤはコーヒーフレッシュの話をすると言い出した。

番組の途中ですがコーヒーの“ミルク”のお話です

コーヒーフレッシュ
ポーションタイプのコーヒーフレッシュ

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「南の方から北よ」

リョウ 「ヘタなダジャレはやめなシャレ」

タクヤ 「塀~」

リョウ 「塀は関係ないから」

タクヤ 「さっそく本題に入りますか」

リョウ 「まあ、そうあわてるな。せっかく隊長様がタクヤ殿のためにコーヒーを淹れておいたのだ。まあ飲みたまえ」

タクヤ 「しからばありがたく」

リョウ 「砂糖はいるのか? ミルクはいるのか?」

タクヤ 「全部入りでお願いします」

リョウ 「はい、これ。自分で入れな。最近は京都の『イノダコーヒ』も、砂糖・ミルクは別添えで出してくれるらしいぞ」

タクヤ 「あー、それで思い出した」

リョウ 「なんだ。お茶請けに『ギョギョーム』食いたいなら自分で買って来い」

タクヤ 「それを言うなら『モン・ビジュー』ですね。隊長食べたことあるんですか?」

リョウ 「ないよ。あまり読者様がわからん話をしていてもいかんので、現代素材の探検に入ろうじゃないか」

タクヤ 「それなんですがね。今回は“誰が何で異性化糖を作ろうとしたのか”の話をすることになってたじゃないですかぁ」

リョウ 「そうだよ。楽しみにしてたよ」

タクヤ 「でも、今、隊長、コーヒーに入れるの、“ミルク”って言ったでしょ」

リョウ 「お前、ほんとに話が飛躍するな。だからどうした」

タクヤ 「先日、コーヒーに入れる“ミルク”が、『実は乳製品じゃないから腐らない』という話が『NEWSポストセブン』ていうサイトに出て、Twitterとかで話題になったんですよ」

リョウ 「それ『週刊ポスト』2013年6月28日号だよ。床屋さんで読んだよ。コメントしてるのは安部司氏と郡司和夫氏の夢の共演だ」

タクヤ 「なんだ。知ってたのか」

リョウ 「それがどうした。インターネット上の話題なんてすぐほとぼりさめちゃうんだから、今さらそんな話をして読者様が喜ぶと思うか」

タクヤ 「Webでそれ言うかなぁー。ま、とにかく、ちょっと気になるじゃないですかぁ」

リョウ 「しょうがねぇな。『異性化糖の話はどぉしたー!』って苦情来たら、おまいが対応しろよ」

タクヤ 「編集部にお任せします」

リョウ 「ずるいやつだ」

タクヤ 「というわけで、番組の途中ですが『コーヒーの“ミルク”問題』についてのお話です。予定しておりました異性化糖のお話の続きは次回お送りします」

乳製品であるかないかは関係なし

リョウ 「で、さっきから気になるんだが、オレがミルクって言ってるのに、なんでお前は“ミルク”ってダブルクォーテーションで囲んじゃうかな」

タクヤ 「乳製品じゃないからです。乳製品じゃないものを、乳製品であるかのように言ったり書いたりしちゃいけないんです。『食品衛生法第十九条第一項の規定に基づく乳及び乳製品並びにこれらを主要原料とする食品の表示の基準に関する内閣府令』って、けっこうコジュウトみたいに細かくて厳しいんです」

リョウ 「なんだ。じゃ、アベちゃんが『実は乳製品じゃない』って言ってるとおりじゃないか」

タクヤ 「そうです。『実は』っていうのが余計だと思うんですが、正しいは正しいんです。で、そういう法令上の事情もあって、『ミルク』という言葉を避けて、でも液体の生っぽいイメージは出したくて『コーヒーフレッシュ』なんてビミョーな名前を考えたわけでしょう」

リョウ 「じゃ、この話題はシューリョーと」

タクヤ 「だめなんです。安倍氏は『乳製品じゃないから腐らないんです』って言ってるでしょう? これ、安倍氏がそう言ったのか、この記事書いた記者がちゃらっとそう書いちゃったのか、どっちかわかりませんが、ここはおかしいでしょう」

リョウ 「なんとかが腐らないって話、お前ほんとにひっかかるね。どこがおかしいんだ?」

タクヤ 「乳製品じゃないもので腐るものなんかいくらでもあるでしょう。この記事が言っている『常温ミルクパック』って、1回分ずつのポーションパックになっているコーヒーフレッシュのことでしょうが、喫茶店やレストランでは紙パック入りで仕入れる、中身は同様のコーヒーフレッシュを使っている店も多いです。その場合、紙パックは冷蔵庫で管理するし、ピッチャーに小分けした後は氷水を入れたバットで管理したり、傷まないようにけっこう気を遣ってるものですよ」

リョウ 「ふーん。モノとしては腐り得るものなんだ」

タクヤ 「ポーションパックになっているコーヒーフレッシュが腐らないのは、缶詰のように滅菌して微生物を遮断しているからですよ。乳製品であるかないかは関係ありません。逆に、そういう条件を整えてやれば、乳製品だって腐りにくいでしょう」

コーヒーフレッシュ
ポーションタイプのコーヒーフレッシュ

リョウ 「なるほどな。ポーションパックのコーヒーフレッシュは、小さなカップに入れてトップシールで蓋して密封してるもんな」

タクヤ 「そういう製品は、今回話題になっているコーヒーフレッシュだけでなく、乳製品で作った、コーヒーフレッシュと同様に使う商品もあるわけです。こういうものは、乳製品由来だろうとそうでなかろうと、衛生管理の良好な工場で問題なく製造していれば、微生物は遮断できていて傷みにくいでしょうね。ただ、缶詰や瓶詰のように完全な密封とも言えないですが」

リョウ 「あン? だってバッチリ封してあるぞ」

タクヤ 「ポーションタイプのコーヒーフレッシュはたいていの場合、カップはポリプロピレン、トップシールはPETのアルミ蒸着フィルムでしょう。で、およそプラスチックの類は、ものによって程度の違いはあっても、気体は通すんですよ」

リョウ 「そういうものなのか?」

タクヤ 「ガスバリア性って言うんですが、それの高い低いがあります。ポリプロピレンは水蒸気は通しにくいですが、酸素は割と通してしまう。PETにアルミ蒸着するのはガスバリア性や遮光性を高めるためですが、完全というわけではないです」

リョウ 「酸素がカップの中に入ってきたら、中身は酸化してまずくなるな。油脂ならがくっと味が落ちるだろう。気体を通すなら、香り成分も抜けていくかもな」

タクヤ 「だからやっぱり賞味期限が設定されているわけです。水蒸気バリア性も、これはシールの状態にもよるでしょうが、完全ではないですよ。田舎のドライブインでコーヒー頼んだら、コーヒーフレッシュの水分が飛んで濃縮されてて、ひっくり返して振っても出て来なかったなんてことがありました」

リョウ 「ありゃま」

タクヤ 「なので、密封してるから安心なんて思わずに、賞味期限内に使い切りましょうね。店で使うならなおさらで、中身が見えないだけに気をつけないと」

いろんな食品でおなじみの乳化剤

リョウ 「じゃ、腐る/腐らない問題はいいとして、そもそもありゃ何なんだ、コーヒーフレッシュって」

タクヤ 「それ、安部司氏が説明してるとおりですよ。記事に『菜種油など植物性油脂を主原料に乳化剤、増粘多糖類、着色料などを加え、日保ちを良くするためにPH調整剤を加えたもの。植物油に水を混ぜ、添加物で白濁させミルク風に仕立てています』と書いてあるでしょう」

リョウ 「なんだ、アベちゃん正確なこと言うじゃないか」

タクヤ 「専門家ですからね」

リョウ 「お、増粘多糖類とあるな。これはオレ詳しいぞ」

タクヤ 「はいはい。私がしっかり教えて差し上げましたからね。……えと、コーヒーフレッシュによく使われる増粘多糖類はデキストリンとかですね」

リョウ 「そりゃなんだ?」

タクヤ 「デンプンと水飴の中間みたいな感じですね。食品にはよく使われてますよ。顆粒状の薬とかは細かい素材をデキストリンでまとめているものが多いです。あと、ファンデーションを固めたり」

リョウ 「化粧品のファンデーション?」

タクヤ 「そです。あ、増粘多糖類って、けっこう薬とか化粧品でもよく使うんですよ。目薬にとろみをつけたり」

リョウ 「目薬シャバシャバだとすぐ流れちゃいそうだもんな。それと、乳化剤ってのは何だ」

タクヤ 「乳化剤も奥深い世界なので、これはまた回を改めてじっくりやりましょうね。簡単に言っておくと、水と油を混ぜるものです――と言うと誤解を招きますね。油脂の粒を細かくして、水の中に均等に分散させるように働くものが乳化剤です。そういう状態になっているものをエマルションて言うんですが」

リョウ 「化粧品の乳液をエマルジョンて言うな」

タクヤ 「エマルションとエマルジョンは同じ言葉です。乳液という言葉は、牛乳などの乳みたいな状態というところから出来た言葉なんでしょうね。牛乳もエマルションで、あれは乳清、ホエイっていう水分の中に脂肪分が微細な粒になって分散しているために、光をいろんな方向に反射するので白く見えるわけです」

リョウ 「ほえー。牛乳が白いのって、カルシウムの色じゃないのか?」

タクヤ 「ブブー。違います。カルシウムというと骨を連想するから白いと思っている人が多いと思いますが、カルシウムそのものは銀白色の金属ですから」

リョウ 「うわ、そうなのか」

タクヤ 「あと、マヨネーズもエマルションですよ」

リョウ 「マヨネーズは酢と油で作るな。何で分離しないんだろう。同じく酢と油でもフレンチドレッシングは分離しちゃうのに」

タクヤ 「マヨネーズのもう一つ大事な材料を忘れてますよ」

リョウ 「ああ、卵か」

タクヤ 「卵黄には卵黄レシチンという乳化剤が含まれています。酢と油に卵黄を加えるおかげでマヨネーズは水と油が混ざったようになってるんですね。

リョウ 「酢と油で味は十分じゃんと思ってたけど、それでわざわざ卵黄を入れるのか」

タクヤ 「もちろん卵の風味もつきますけどね。で、乳化剤には化学合成して作るものもいろいろありますが、最近の表示でよく見かけるのはこのレシチンの類です」

リョウ 「レシチンを飲む健康法みたいなのも聞いたことあるぞ」

コーヒーフレッシュ
ポーションタイプのコーヒーフレッシュ

タクヤ 「さあ、効くかどうかわかりませんがね。コーヒーフレッシュによく使われるのは大豆レシチンなどのようですね。大豆油から分離して作るものです」

コーヒーに合うのは乳製品なのか

リョウ 「ふーん。コーヒーフレッシュは、安部氏が『植物油に水を混ぜ、添加物で白濁させミルク風に仕立てています』と説明しているとおりなんだな。しかし、なんで生クリームとか牛乳とかを使わないで、わざわざマヨネーズみたいなものを作るのかっていう、その理由がわからんね」

タクヤ 「理由はいろいろでしょうね。喫茶店勤務経験者の立場から言うと……」

リョウ 「そんなキャリアあったのか」

タクヤ 「学生時代に授業ほったらかしで打ち込んだバイトです」

リョウ 「ほう」

タクヤ 「私見ですが、生クリームっていうのは、コーヒーには必ずしも合いませんね。そのままコーヒーに入れると味や香りが強すぎるし、コーヒーは弱酸性ですが、それが生クリームに合わないのか、小さな油滴がコーヒーの表面に浮いて見た目もよくないです。生クリームを使う店もあるでしょうけど、たいていは牛乳で伸ばすなどの工夫をしているでしょうね。その割合がポイントだったり」

リョウ 「ウィンナ・コーヒーはどうだ」

タクヤ 「あれは液面全体をホイップで覆っちゃうから目立ちませんよね。でも、生クリームでも植物性のホイップクリームでも、ホイップするとむちゃくちゃ足がはやいんですよ」

リョウ 「走って逃げるのか」

タクヤ 「傷みやすいの!」

リョウ 「生クリームじゃなくて牛乳はどうだ?」

タクヤ 「逆に薄いでしょう。たっぷり使うとコーヒーを冷ましてしまう。どうしても使うならカフェオレですね」

リョウ 「じゃ、牛乳を濃縮したものを作ればいいじゃないか」

タクヤ 「あ、隊長。さっき『乳製品で作ったコーヒーフレッシュと同様に使う商品』って言ったじゃないですか。あれ、森永乳業の『クリープ』のCM覚えてませんか?」

リョウ 「そうか。『クリープ』のキャッチフレーズは『そのおいしさは、ミルク生まれ』っていうのだったな。あれは粉だけど、牛乳を濃縮して作るイメージには合う」

タクヤ 「同じ粉でも、『クリープ』以外の粉状のものはたいてい植物性油脂を使ってますがね」

リョウ 「じゃ、『クリープ』はなんで『ミルク生まれ』なんだ」

タクヤ 「森永乳業は牛乳屋さんですからね。乳製品の需要拡大から始まったんじゃないですか」

リョウ 「なら、『ミルク生まれ』じゃないコーヒーフレッシュを作ってる会社は何でミルク使わないんだ?」

タクヤ 「乳業というのは生乳の流通システムが出来上がっちゃっていて、そう簡単に新規参入できるものではないですよ。それで乳業メーカーじゃない食品メーカーが原料乳を仕入れて同じものを作ったら、理論的に、乳業メーカーに価格で勝てないでしょう」

リョウ 「そういうものか」

タクヤ 「それと、生乳というのは夏は出荷量が減るとか季節変動がありますし、仕入れて使わなければ腐ってしまうとか、けっこうハンドリングやコストコントロールがやっかいなものです」

リョウ 「生鮮品だもんな」

タクヤ 「そこへ行くと、植物油というのは常温管理できますよね。価格変動も少ない」

表示を見る・なめてみることのススメ

リョウ 「安価に安定供給しやすいと、そういうわけか。しかし、この“ミルク”がニセモノとは知らなかった」

タクヤ 「“ニセモノ”って言い方は、私引っかかりますね。コーヒーに入れてコーヒーがおいしくなるように調製したレッキとした食品で、しかも“ミルク”“乳”とは表示してないんですよ」

リョウ 「でも、見た目“ミルク”じゃんか。それに、『昔からコーヒーにはミルクを入れるものだ』とみんな信じてるんだしな」

タクヤ 「そこは、メーカーがコーヒーフレッシュの優れた点について、もっと積極的な意味の宣伝をするべきでしょうね。『ミルクだからおいしい』って言うメーカーがあるなら、『ミルクじゃないからおいしい』って言うメーカーがあったっていいはずです」

リョウ 「それで“ミルク派”と“非ミルク派”に分かれて、お互いに『こっちがおいしいもん』って言ってる世界も、悪くはないわな。焼鳥は塩かタレかとか、うどんつゆの色が東西で違って自慢し合うとかっていうみたいに」

タクヤ 「そゆことです。まずは、我々食べる側から変えていくこともできると思いますよ。何か買って来たら原材料表示を眺めて面白がることを私はお薦めします。あそこにはウソは書けませんから、それが何であるかは誰もがわかるようになっているはずなんです。わからないところがあればメーカーに電話とかメールとかしてみれば教えてくれるものです。あと、ぜひお薦めなのは、何かに足して使うものでも、一度はそのものをなめてみることですよ」

リョウ 「ふーん。どれどれ。あ、ほんとだ。コーヒーフレッシュは、なめてみれば、これはミルクじゃないなって何となく感じるものだな」

タクヤ 「コーヒーに入れて使ってベストな味になるように調製してあるんでしょう。ごくごく飲んでおいしいものとは味が違ってしかるべきだと思いますよ。で、こりゃ何から出来てるんだろうと調べたりっていうところが、今の世の中での食の楽しみ方だと、私は思うわけですよ」

リョウ 「お。それだよ、オレが現代素材探検隊をやりたいと思ったきっかけは」

タクヤ 「今考えたでしょ!」

北遥
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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。