東洋的不思議を招くあの菓子

363 「フォーチュン・クッキー」「フォーチュンクッキー」から

今回取り上げるのは、“フォーチュンクッキー”という邦題がつけられた2003年と2023年のアメリカ映画。それぞれの原題は「FREAKY FRIDAY」(フリーキー・フライデー)と「Fremont」(フリーモント)で、作品内容もかなり異なっているが、共通の要素として、劇中にフォーチュンクッキーが出てくることと、アメリカにおける東洋文化、それとサイコセラピー(心理療法)が挙げられる。

 アメリカの中華料理店で食後に提供されることが多いフォーチュンクッキー(おみくじ付きクッキー)。その発祥については、日本の辻占煎餅との関連が伝えられている(※1)。近年では、アイドルグループAKB48のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」(2013)が記憶に新しい。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

魔法のスイッチとしてのフォーチュンクッキー

「フォーチュン・クッキー」(2003)は、元はテレビ映画として製作されたジョディ・フォスター主演の映画「フリーキー・フライデー」(1976、日本未公開、Disney+で配信)のリメイク。2018年にはミュージカル映画として再度リメイクされている(日本未公開、Disney+で配信)。

 ストーリーは、争いの絶えない母娘の身体が突然入れ替わってしまい、それぞれの立場を演じるうちに相手の本当の気持ちがわかり、最終的に元の鞘に戻って和解するというもの。「転校生」(1982)や「君の名は。」(2016)などに連なる、いわゆる“人格入れ替わりもの”である。

 人格入れ替わりのキーアイテムは、1976年版はバナナパフェとメンソールタバコで、2018年版は砂時計。今回取り上げる2003年版はフォーチュンクッキーで、これが邦題の由来となっている。

 多数のセラピー患者を抱える精神科医の母テス・コールドマン(ジェイミー・リー・カーティス)と、ガールズバンドのメンバーで、ハイスクールでは問題を起こしてばかりの娘アンナ(リンゼイ・ローハン)。几帳面で完璧主義者のテスはアンナに厳しく接し、一方のアンナは新しく父親になるライアン(マーク・ハーモン)に馴染めず、テスに対して反抗的な態度をとっていた。

 母娘のそれぞれが再婚の披露パーティーとバンドのオーディションを控えた木曜日の夜、テスとアンナ、アンナの弟ハリー(ライアン・マルガリーニ)、テスの父のおじいちゃん(ハロルド・グールド)、ライアンの五人は中華料理店へ食事に出かける。テーブルを離れて言い争う母娘を見かねた店の女主人ペイペイの母(ルシル・スーン)は、テスとアンナにフォーチュンクッキーを渡す。クッキーの中のおみくじは以下のようなものだった。

A journey soon begins,
Its prize reflected in another’s eyes.
When what you see is what you luck,
Then selfless love will change you back.

旅はもうすぐ始まる。
その宝はもう一人の目に映る。
あなたが見たものが、あなたの運命であるとき、
無償の愛があなたを戻すだろう。

 すると突然地震が起こり、翌日の金曜日の朝、テスとアンナが目を覚ますと、お互いの身体が入れ替わっているという寸法である。フォーチュンクッキーのおみくじには、元に戻るための方法も示されている。

 映画でしかあり得ないような現象は、ペイペイの母による東洋の魔法のように描写されている。アメリカにおいて東洋文化を得体の知れないものとして捉える風潮は、ハリウッド映画ではたびたびモチーフとして使われている。最近の例で言えば「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022、本連載第301回参照)などが挙げられる。

 身体が入れ替わるという非現実的な現象を誰も信じてくれないと思ったテスとアンナは、元に戻ることを目指しつつ、それぞれの役割を演じることにする。心がアンナのテスは、心がテスのアンナから、セラピーのときは患者の聞き役に徹するように言われる。しばらくは言われた通りにしていたものの、患者の相談がアンナと同世代の娘のことになると黙っておれず、次第に暴走していく。ところが、かえって好結果をもたらす展開が面白い。

 また、贅肉が付くという理由でファストフードを食べなかったテスが、アンナの身体を得たことを良いことに、8年ぶりにフライドポテトを口にしたときにもらす「ハレルヤの歌が聞こえる」というセリフは、周りを気にして好きなものを我慢している本音が見えて興味深いと感じた。

 なお、来たる9月5日(金)、本作の続編となる「シャッフル・フライデー」が公開予定である。今度は母になったアンナ、祖母になったテス、孫娘ふたりの計4人が入れ替わりシャッフルするという。入れ替わりアイテムは何になるのか、気になるところである。

セラピーとしてのフォーチュンクッキー作り

 もう一本の「フォーチュンクッキー」(2023)は、コメディの「フォーチュン・クッキー」(2003)とはうって変わって真面目な作品。アメリカのフォーチュンクッキー工場で働くアフガン難民の女性ドニヤ(アナイタ・ワリ・ザダ)が、フォーチュンクッキーをきっかけに孤独な日常から一歩踏み出す姿をモノクロ映像で描いている。原題はドニヤが暮らすカリフォルニア州フリーモントに由来する。

「フォーチュンクッキー」(2023)より。手作りフォーチュンクッキー工場で製造されるフォーチュンクッキー。
「フォーチュンクッキー」(2023)より。手作りフォーチュンクッキー工場で製造されるフォーチュンクッキー。

 ドニヤが働く「手作りフォーチュンクッキー工場」は、中国系アメリカ人のリッキー(エディ・タン)とリン(ジェニファー・マッケイ)が経営している。リッキーは父の後を継いだ2代目社長である。冒頭のシーンで映し出されるフォーチュンクッキーの製造工程を見ると、焼けたクッキーを折って、おみくじを挟み込み、包装するという一連の作業は人の手で行われており、「手作りフォーチュンクッキー工場」の名にふさわしいアナログ感がある。ただ、中に入れるおみくじは、ドニアの年上の同僚ファン(エイビス・シースー)がパソコンで入力し、プリントした紙を手動で裁断するというデジタルとアナログのハイブリッドだ。

 ドニアの母国アフガニスタンは、2021年8月にタリバンが首都カブールに侵攻し、再び政権を掌握した。映画では直接描かれていないが、ドニアは米軍の施設で通訳を務めていたため、米軍協力者としてタリバンから報復を受ける可能性があり、国外退避したものと思われる。退避に至るまでの恐怖体験からか、ドニアはフォーチュンクッキー工場で働き始めて8カ月が経過した現在も、不眠症に悩まされている。

 ドニアは睡眠薬をもらうため、アフガン難民仲間のサリム(シディク・アーメド)の名前を借りて精神科を予約する。断られそうになるものの、何とか医師のアンソニー(グレッグ・ターキントン)に診てもらえることに。ドニアは睡眠薬が欲しいだけだったが、以後アンソニーのセラピーを受けることになる。

 そんなある日、ファンが仕事中に突然死し、ドニアが後任のおみくじ製作担当に指名される。リッキーは言う。

クッキー占いには責任がある。幸先が良過ぎても悪過ぎてもいけない。美徳は中庸にある。

 アンソニーも手作りのおみくじを見せながら助言する。

うれしいことや悲しいことがあったら、紙に書き出して、心を楽にしてやるといい。

 アフガニスタンに残してきた家族に罪悪感を抱えながら、ドニアは「幸せになりたい」「恋をしたい」という心の声に向き合っていく。そんな心の声を綴ったドニアのおみくじは、おみくじを引く見ず知らずの人々を喜ばせるが、ドニアは行き過ぎて、とんでもないメッセージをおみくじに紛れ込ませてしまうのだ。

どうしようもなく幸せになりたい ドニア(電話番号)

 これは出会い系のメッセージと同じで、到底許されるものではない。運悪くこの“出会い系メッセージ”は、リンの目に触れることになる。リンはリッキーにドニアの解雇を進言するが、歴代のおみくじの書き手を見てきたリッキーは、ドニアには見どころがあるとして聞き入れない。リッキーが地球儀を使って、それとなくドニアの“やらかし”を注意するくだりは、本作の白眉である。

 収まらないリンは、ドニアに罰を与えようとして“あること”を画策する。しかしその画策が、ドニアに運命の出会いをもたらすことになるとは……。

 この先の展開については実際に映画をご覧いただきたい。イラン系イギリス人のババク・ジャラリ監督は、ジム・ジャームッシュを彷彿とさせるタッチで、ビターな物語を静かに、ユーモアとペーソスを交えて描いている。

※1 米国のフォーチュンクッキーについては、明治時代に渡英した日本人が作ったものが発祥とする説のほか、明治より前の時代にすでに米国に類似のものがあったことを示唆する資料もある。
参考:モースと辻占煎餅/歴史上の人物と和菓子(とらや)
https://www.toraya-group.co.jp/corporate/bunko/historical-personage/bunko-historical-personage-051


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本連載第301回
https://www.foodwatch.jp/screenfoods0301
シャッフル・フライデー
https://www.disney.co.jp/movie/shuffle-Friday

【フォーチュン・クッキー(2003)】

作品基本データ
製作国:アメリカ
製作年:2003年
公開年月日:2004年5月1日
上映時間:97分
製作会社:ガン・フィルムズ、カジュアル・フライデー・プロダクション
配給:ブエナビスタ
カラー/モノクロ:カラー
スタッフ
監督:マーク・ウォーターズ
脚本:ヘザー・ハッチ、レスリー・ディクソン
原作:メアリー・ロジャース
製作総指揮:マリオ・イスコヴィッチ
製作:アンドリュー・ガン
撮影:オリヴァー・ウッド
音楽:ロルフ・ケント
キャスト
テス・コールマン:ジェイミー・リー・カーティス
アンナ・コールマン:リンゼイ・ローハン
ライアン:マーク・ハーモン
おじいちゃん:ハロルド・グールド
ジェイク:チャド・マイケル・マーレイ
ベイツ:スティーブン・トボロウスキー
マディ:クリスティーナ・ヴィダル
ハリー・コールマン:ライアン・マルガリーニ
ペグ:ヘイリー・ハドソン
エヴァン:ウィリー・ガーソン
ペイペイ:ロザリンド・チャオ
ペイペイの母:ルシル・スーン

(参考文献:KINENOTE)


【フォーチュンクッキー(2023)】

公式サイト
https://mimosafilms.com/fortunecookie/
作品基本データ
原題:Fremont
製作国:アメリカ
製作年:2023年
公開年月日:2025年6月27日
上映時間:91分
製作会社:Butimar Productions, Extra A Productions, Blue Morning Pictures
配給:ミモザフィルムズ
カラー/サイズ:モノクロ/スタンダード(1:1.37)
スタッフ
監督・編集:ババク・ジャラリ
脚本:カロリーナ・カヴァリ、ババク・ジャラリ
製作総指揮:ラタ・クリシュナン、ネダ・ノバリ、ニックヒル・ジャカットダール、アカシュ・ニガム
製作:マルジャネ・モギミ、スドニャ・シュロフ、レイチェル・ファン、ジョージ・ラッシュ、クリス・マーティン、ローラ・ワーグナー
撮影:ローラ・ヴァラダオ
美術:ロブ・リウッタ
音楽:マフムード・シュリッカー
音響デザイン:ステファノ・グロッソ
衣裳デザイン:キャロライン・セバスチャン
キャスト
ドニヤ:アナイタ・ワリ・ザダ
アンソニー:グレッグ・ターキントン
ダニエル:ジェレミー・アレン・ホワイト
ジョアンナ:ヒルダ・シュメリング
リッキー:エディ・タン
サリム:シディク・アーメド
ファン:エイビス・シースー
ミナ:タバン・イブラズ
スレイマン:ティムール・ヌスラッティ
リン:ジェニファー・マッケイ
アマヤ:ディビア・ジャカットダー
アジズ:ファジル・セディキ
モリー:モリー・ノーブル
ジェイソン:エノク・クー
ブーツ・ライリー:中華料理店の客

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。