監督たちの8mm映画と食べ物

[302] 「フェイブルマンズ」と「Single8」から

今回は、8mm映画からキャリアをスタートした映画監督の自伝的作品を2本、食べ物を絡めてご紹介する。

8mm映画から商業映画へ

 フィルム映画の多くは35mmフィルムが使われてきたが、ほかに16mm、8mmといった規格のフィルムがあり、それらはカメラも映写機も小型になるため、低予算の作品や個人でも撮影や映写が楽しめるものとして普及した。

 とは言え、たとえば小津安二郎監督の「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」(1932、本連載第201回参照)のホームムービー(16mm)のシーンが会社の重役宅の出来事であったように、それらが登場した頃はまだ、映画撮影を楽しむアマチュアは一部の富裕層に限られていた。

 8mmは、1932年にコダックがアマチュア向けに「ダブル8」を発売したのが最初。16mmフィルムの左右両側に記録する仕組みだったのがその名の由来だ。

 その後、1965年にはコダックが「スーパー8」、富士フイルムが「シングル8」を発売し、これらは共にカートリッジ式で扱いやすく、広く普及することとなった。これを契機に、日本でもすでに大林宣彦や高林陽一らが8mmによる自主制作映画を手がけていたところに、学生を含む若い世代も参入してきた。そして、「ぴあフィルムフェスティバル」(1977〜)などの自主制作映画支援は、新しい才能を発掘し、プロへの道を切り拓く場となった。

 一方、その前後の大手映画会社では、興行成績の不振から撮影所システムが崩壊する。そんな中、大林の「HOUSE」(1997、本連載第226回参照)、大森一樹の「オレンジロード急行」(1978)、石井聰亙(岳龍)の「高校大パニック」(1978)など、8mm映画出身者が商業映画の助監督経験なしに監督に抜擢された作品が製作されるという新しい流れが起こった。

 そして8mmフィルムからビデオに機材が変わりながら、自主制作映画出身者が商業映画の監督を任されるケースは、枚挙に暇がないほど増えていく。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

「フェイブルマンズ」の“使い捨て食卓”

 ハリウッドに目を向けると、8mm出身で映画監督として大成した人物として真っ先に挙がるのは、スティーブン・スピルバーグだろう。その彼が、商業映画デビューする前の自身の原体験を元にした物語が、現在公開中の「フェイブルマンズ」である。

 映画は、ユダヤ系の主人公・サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)が、幼少期の1952年のクリスマスの夜、父・バート(ポール・ダノ)と母・ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)に連れられて初めて映画館に行き、セシル・B・デミル監督の「地上最大のショウ」を観るシーンから始まる。

 劇中の列車衝突のシーンに強い印象を受けたサミーは、ユダヤ教の冬の年中行事ハヌカーでプレゼントされた鉄道模型で、映画の列車衝突シーンを何度も再現し、その度に模型を壊し、度重なる修理でバートの手を煩わせる。困ったミッツィは、サミーにスーパー8のカメラを与え、列車衝突シーンを撮影することを提案する。

 この撮影で、撮ることの楽しさに目覚めたサミーは、続いて妹たちを被写体にホラー映画を撮る。さらに10年後、ジョン・フォード監督の「リバティ・バランスを射った男」(1962)を観て感銘を受けたサミーは、ボーイスカウトの友人たちを被写体に西部劇を撮り、8mm映画の撮影にのめり込んでいく。

「フェイブルマンズ」より。ミッツィ(中央)の用意する食卓の食器は、紙やプラスチック等、使い捨て素材のものばかり。
「フェイブルマンズ」より。ミッツィ(中央)の用意する食卓の食器は、紙やプラスチック等、使い捨て素材のものばかり。

 そんなサミーの家の食事。父バートはコンピューターエンジニアリングの先駆者で引く手あまた。転職・転勤のため引っ越しを繰り返し、母ミッツィはピアニストという家庭環境。食事はコーシャ(kosher、ユダヤ教の食事規定)に則ったミッツィの手料理だが、唯一変わっているのは、紙のテーブルクロスに紙ナプキン、食器は紙皿に紙コップ、プラスチックのフォークにスプーンと、全てが使い捨ての素材を使っていること。これは、ピアノを弾く指で洗い物をしたくないミッツィの考えによるものだ。

 食後の片付けは、紙のテーブルクロスで使い捨て食器を丸ごと包み込むだけで一瞬で終わるというメリットもあるのだが、何か味気ない。食事は、料理の味はもちろん、食べるために使う物や食べる環境も大事であるはずだからだ。そして、その片付けシーンは家庭が一瞬にして壊れてしまう暗示のようにも取れる。案の定、事態はそのように進んでいくのだが、それにいち早く気付くのが、家族で行ったキャンプ風景を撮ったホームムービーを編集していたサミーというのが、楽しいだけではない、映画作りの苦しみを表している。

 この映画の白眉は、ラスト近く、映画作りのプロとしてのスタート地点に立ったサミーと“映画の神様”の奇跡的な出会いである。スピルバーグはこの“神様”を、カルト的な名声を持つある映画監督に演じさせ、これ以上ない名セリフを言わせている。こればかりは、映画を観てのお楽しみと言っておこう。

 また、「三つ子の魂百まで」と言うが、スピルバーグがプロデューサーとして関わった「SUPER8/スーパーエイト」(2011、J・J・エイブラムス監督)には、「地上最大のショウ」の列車衝突シーンを派手に再現したようなシーンがある。

「Single8」の“リバース食事”

 2本目の「Single8」は、「星空のむこうの国」(19862021)、「なぞの転校生」(1998)、「ULTRAMAN」(2004)などの小中和哉監督が、8mm映画作りに夢中だった高校時代の自身をモデルに、その頃撮った短編「タイム・リバース」(1978)や「TURN POINT 10:40」(1979)の撮影裏話を劇中で再現した、バックステージものである。

 1978年6月24日、世界中で大ヒットした「スター・ウォーズ」(1997)が日本でも公開された。その特撮の迫力に魅了された主人公の栗田広志(上村侑)は、オープニングの巨大な宇宙船が画面上からフレームインしてくるカットをどうしても再現したくて、親友の小沢喜男(福澤希空)を巻き込んでミニチュア撮影にトライする。しかし、オリジナルのような巨大感を出すには画角の広い広角レンズが必要で、広志の8mmカメラでは無理だった。そんな時、朝食を食べていた広志は、ある調理器具を見てグッドアイデアを思い付く。その結果、巨大感は出たものの、宇宙船が露出オーバーになる現象が発生。行きつけのカメラ屋の店員・寺尾(佐藤友祐)に絞りをマニュアルで調節することを教わって、ようやく望み通りの画が撮れた。

 当初、広志と喜男は宇宙船を撮ることだけを考えていたが、寺尾から「ちゃんと1本の映画にしろよ」とアドバイスされる。折しも広志と喜男が通う高校の3年C組のホームルームでは、文化祭で何をやるかを話し合っていて、広志は勢いで映画作りを提案する。しかしクラスメートからどんなストーリーなのか追及され、担任の丸山先生(川久保拓司)からは、次回のホームルームまでにストーリーを発表するように命じられ、困惑する広志。

 喜男と、映画マニアの同級生・佐々木剛(桑山隆太)にも加わってもらい、脚本作りにとりかかるが、なかなかよいアイデアが浮かばない。広志の部屋で過去に撮った遠足のフィルムを観て、フィルムを巻き戻していると、逆回転した食事シーンの映像が、口から食べ物が出て面白い(気持ち悪い)ことに気付く。広志は、時間が逆戻りする世界を描くアイデアがひらめく……。

 リバース機能がない広志のカメラでどう逆回転を実現するか。それに伴う問題は何かなど、当時の8mm撮影あるある的な内容が面白い。細い針の先でフィルムを1コマ1コマ削って線状のアニメーションを合成するシネカリ、画面の一部をマスクして撮影し、フィルムを巻き戻して今度は前と逆の部分をマスクして撮るマスク合成など、手作りの撮影テクニックが非常に興味深い作品となっている。平成ウルトラシリーズの「ウルトラマンダイナ」(1997〜1998)や「ウルトラマンネクサス」(2004〜2005)などを手がけた小中監督らしい、特撮へのこだわりの原点を見るようだ。


【フェイブルマンズ】

公式サイト
https://fabelmans-film.jp/
作品基本データ
原題:THE FABELMANS
製作国:アメリカ
製作年:2022年
公開年月日:2023年3月3日
上映時間:151分
製作会社:Amblin Entertainment, Reliance Entertainment
配給:東宝東和
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:スティーヴン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
製作総指揮:カーラ・ライジ、ジョシュ・マクラグレン
製作:スティーヴン・スピルバーグ、トニー・クシュナー、クリスティ・マコスコ・クリーガー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
美術:リック・カーター
音楽:ジョン・ウィリアムズ
編集:マイケル・カーン、サラ・ブロシャー
衣装:マーク・ブリッジス
キャスト
サミー・フェイブルマン:ガブリエル・ ラベル
バート・フェイブルマン:ポール・ダノ
ミッツィ・フェイブルマン:ミシェル・ウィリアムズ
ベニー・ローウィ:セス・ローゲン
ボリス叔父さん:ジャド・ハーシュ
ハダサー・フェイブルマン:ジーニー・バーリン
レジー・フェイブルマン:ジュリア・バターズ
ナタリー・フェイブルマン:キーリー・カーステン
リサ・フェイブルマン:ソフィア・コペラ

(参考文献:KINENOTE)


【Single8】

公式サイト
https://www.single8-movie.com/
作品基本データ
製作国:日本
製作年:2023年
公開年月日:2023年3月18日
上映時間:113分
製作会社:「Single8」製作委員会
配給:マジックアワー
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督・脚本・美術:小中和哉
製作:小中明子、山口幸彦、関顕嗣
撮影監督:藍河兼一
Bカメ・8ミリ協力:今関あきよし
音楽:宮崎道
録音:臼井勝
編集:松木朗
衣装:天野多恵
ヘアメイク:岩橋奈都子
助監督:小原直樹
特殊視覚効果:泉谷修
キャスト
栗田広志:上村侑
山下夏美:高石あかり
小沢喜男:福澤希空
佐々木剛:桑山隆太
丸山先生:川久保拓司
カレー屋のおやじ:北岡龍貴
カメラ屋店員・寺尾:佐藤友祐
広志の母:有森也実

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。