完食をかけた“給極”の戦い

[280]「劇場版 おいしい給食 卒業」から

2年の時を経て、甘利田先生がスクリーンに戻ってきた。現在公開中の「劇場版 おいしい給食 卒業」は、TVドラマ「おいしい給食(season1)」(2019)と「劇場版 おいしい給食 Final Battle」(2020、本連載第232回参照)の2年後を描いたTVドラマ「おいしい給食 season2」(2021)の完結編となる劇場用映画である。

※注意!! 以下はネタバレを含んでいます。

ワンパターン中のアドリブ

 1986年夏、劇場版一作目で教育委員の鏑木(直江喜一)の逆鱗に触れ、常節(とこぶし)中学校を追われた数学教師・甘利田幸男(市原隼人)は、新天地の黍名子(きびなご)中学校で、3年1組の担任として“給食道”を謳歌していた。そこに常節中学校から、かつて甘利田と給食バトルを繰り広げた生徒・神野ゴウ(佐藤大志)が転校してくる。背が伸び、声変わりもして成長したゴウは、甘利田のクラスに編入。再び給食バトルの幕が開く——というのが、ドラマseason2の概要である。それに続く劇場版2作目は、秋から卒業までの半年間を描いている。

 今回もフードスタイリスト・松井あゆこの手による“うまそげ”な給食が多数登場するが、一つひとつのメニューについては、本編でご覧いただきたいので、あえて触れないことにする。

 別の視点から見ると、ドラマseason1以来、給食のシークエンスは、以下のようなパターンを踏襲している。

  1. 教室で。生徒たちが机を向かい合わせにする。
  2. 廊下で。給食当番が配膳室から給食を運んでくる。
  3. 教室で。給食バットの蓋が開き、本日のメニューの数々が姿を現す。
  4. 列を作った生徒たちに給食当番が給食を配っていく。列の中には甘利田の姿も。
  5. 校歌の額が映し出され、生徒たちが校歌を斉唱する。甘利田は踊りながら歌い、最後に机に手をぶつける。
  6. 日直が「手を合わせてください。いただきます」の号令をかける。
  7. 甘利田も手を合わせ、「いただきます」と呟き、メガネを外す。
  8. 校内放送のスピーカーのアップ。ポール・モーリア風のレトロなサウンドのイージーリスニングがかかる。
  9. 給食メニューの全体像と個々のアップカット。甘利田による紹介ナレーションがかぶる。
  10. いざ実食。甘利田の蘊蓄うんちくを交えた食レポを合成映像とSE(効果音)が補完する。
  11. 甘利田、アップテンポな音楽をバックに、残りの給食を一気呵成に食う。
  12. 食べ終わった甘利田。「今日も仕上がった。ごちそうさまでした」と呟き、椅子に寄りかかる。
  13. ハッと起き上がる甘利田。メガネをかけ、ゴウの方を見る。
  14. アイデアと創意工夫を凝らしたゴウの食べ方に愕然とする甘利田。
  15. 甘利田、自分の食べ方を回想。反省する。
  16. 「また、負けた」と落ち込む甘利田。

 この中で、今回とくに磨きがかかっているのが5と9〜16のくだりである。甘利田のアクションは、ドラマseason1の最初の頃と比べるとかなりオーバーになっており、時にはアドリブのような演技もある。聞くところによると、甘利田のアクションシーンは、ナレーションを先に録音し、SEや音楽とミックスした音声素材を撮影現場で流し、それに合わせて俳優が演技するプレスコ(prescoring)の手法で作られているという。実際、完成した映像を観ていると、それ以外のやり方はあり得ないことがわかる。確立したワンパターンの中で毎回違う楽しみが味わえる。これが、本作の魅力の一つである。

 主演の市原隼人は、TVドラマ「ROOKIES」(2008)と、その続編である映画「ROOKIES -卒業-」(2009)での、熱血教師に鍛えられる野球部員・安仁屋恵壹のイメージが強かったが、本シリーズでは、攻守所を変えて教師になった。顔を必要以上に相手の顔に近付けて話すアンチ・コロナ的熱血漢であると同時に、意外と抜けている二枚目半を演じることで、新境地を開拓している。

駄菓子屋での“敗戦処理”

1961年にサンヨー製菓株式会社が発売を開始したロングセラー駄菓子、モロッコヨーグル(希望小売価格20円)。なぜモロッコなのかは、謎である……。
1961年にサンヨー製菓株式会社が発売を開始したロングセラー駄菓子、モロッコヨーグル(希望小売価格20円)。なぜモロッコなのかは、謎である……。

 ドラマseason2から新たに加わったのが、甘利田が帰宅途中に立ち寄る駄菓子屋のシーンである。お春(木野花)が営む駄菓子屋での買い食いは、黍名子中学校に赴任後、甘利田が見つけた給食に次ぐ新たな楽しみだった。それは、彼の母親が作るまずい晩飯前の小さな贅沢であり、ゴウとの給食バトル再開後は、敗戦で折れた心を癒す場にもなった。

 ベビースターラーメン、糸引き飴、チョコバット、よっちゃんイカ、ふ菓子、すもも漬け等、100円以下で買えるロングセラー駄菓子の数々が子供の頃のノスタルジーを誘う。本作では、ホームランバーとモロッコヨーグルが登場。また、堅物の学年主任・宗方早苗(土村芳)と甘利田の駄菓子屋でのやり取りは、後のストーリー展開に大きく関わってくる。そこにからんでくるアイテムは、ウイスキーボンボンと奈良漬けのおにぎりである。

給食センターからの挑戦

 今回、甘利田とゴウに加え、もう一人“給食愛”を持つ人物が登場する。給食センターの主任・四方田岳(登坂淳一)。これまで甘利田にとって給食センターとは、おいしい給食を提供してくれる“善意の第三者”であり、姿が見えないものであった。それが、四方田の打ち出した「健康増進献立計画」による新メニューによって、否応なく意識せざるを得なくなるのである。新メニューは、栄養改善と肥満防止を目的に、油分を減らし、七つの栄養素を程よくブレンドしたもの。四方田としては良かれと思って施した改革であるが、本作ではその実態を、メニュー変更前と変更後のかき玉汁の変化として表現している。

 四方田の背後には、甘利田を目の敵にする“あの男”の存在が見え隠れしていたが、教師である甘利田は、給食の中身についてとやかく言うことは許されない立場。しかし、新メニューの給食について、甘利田と同じことを感じていたゴウは、さらにある変更が施されることを知り、行動を起こす。それを知った甘利田は……。

 クライマックスの舞台となる給食センターのセンター長会議の部屋は、リアリティよりも本質を重視した法廷のような作りになっていて、ディスカッションに相応しい場となっている。

 楽しい給食バトルの後に、給食の危機が訪れ、宿命のライバルである甘利田とゴウが呉越同舟するという構成は、劇場版一作目と同じ。本作では、甘利田とゴウから気づきを得た四方田の“お返し”にも注目である。

1980年代を感じさせるキャスティングと風景

 鏑木役の直江喜一が、ドラマ「3年B組金八先生2」(1980)に加藤優役で出演していたことは、本連載第232回で述べた。本作では、角川映画「セーラー服と機関銃」(1981)で目高組のチンピラを演じた黍名子中学校校長・箕輪光蔵役の酒井敏也、1980年代を代表するアイドルの一人で、ドラマ「不良少女とよばれて」(1984)に主演した給食のおばさん・牧野文枝役のいとうまい子(旧芸名:伊藤麻衣子)らも出演し、1980年代の空気感を出すことに貢献している。

 常節、黍名子と、中学校の名前は魚介類に由来しているが、シリーズを通してのロケ地となった埼玉県比企郡川島町は、川越市と東松山市の中間に位置する内陸の町である。1980年代といっても違和感がない、シラサギやカエル等が棲息する豊かな田園風景が広がっている。


【劇場版 おいしい給食 卒業】

公式サイト
https://oishi-kyushoku2-movie.com
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作品基本データ
製作国:日本
製作年:2022年
公開年月日:2022年5月13日
上映時間:104分
製作会社:「おいしい給食」製作委員会(企画:AMGエンタテインメント/制作プロダクション:メディアンド)
配給:AMGエンタテインメント(配給協力:REGENTS)
カラー/サイズ:カラー/16:9
スタッフ
監督:綾部真弥
企画・脚本:永森裕二
製作総指揮:吉田尚剛
プロデューサー:岩淵規
撮影:小島悠介
美術:伊藤悟
小道具:千葉彩加
音楽:沢田ヒロユキ・ペイズリィ
主題歌:鶴魁道 feat.Ayaki
録音:井家眞紀夫
整音:田中俊
効果:佐藤祥子
照明:藤森玄一郎
編集:岩切裕一
衣裳:小磯和代
ヘアメイク:遠藤一明
グレーディング:河野文香
ポスプロ・マネージャー:豊里泰宏
制作担当:田山雅也
助監督:阿部満良
フードスタイリスト:松井あゆこ
キャスト
甘利田幸男:市原隼人
宗方早苗:土村芳
神野ゴウ:佐藤大志
真野浩太:勇翔
牧野文枝:いとうまい子
鏑木:直江喜一
お春:木野花
箕輪光蔵:酒井敏也
皆川佐和子:山崎玲奈
真田幸助:田村侑久
四方田岳:登坂淳一

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。