「イタリアは呼んでいる」の旅・料理・映画

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スティーブとロブが訪れたレストランの場所
スティーブとロブが訪れたレストランの場所 1. ピエモンテ州 モルフォンテ・ダルバ 2. リグーリア州 サン・フルットゥオーゾ 3. トスカーナ州 マッツォッラ 4. ラツィオ州 ローマ 5. カンパニア州 マッサ・ルブレンセ 6. カンパニア州 カプリ

今回は現在も地域によって公開されている「イタリアは呼んでいる」を紹介する。

現代の吟遊詩人と料理たち

「イタリアは呼んでいる」(2014)は、イギリスのコメディアンで俳優のスティーブ(スティーブ・クーガン)とロブ(ロブ・ブライドン)の2人組が、イギリスの新聞「オブザーバー」からグルメ記事の執筆依頼を受けてイタリアに渡り、レンタカーのミニクーパーで北から南へとイタリアを縦断しながらレストランを巡る取材旅行を描いたロードムービーである。

 5泊6日の旅の中で訪れる各地の素晴らしい景色と、名店で振舞われる海の幸・山の幸を活かした料理の数々、2人の映画へのうんちくにあふれたトークが三重に楽しめる作品となっている。

 レストラン巡りと並行して、19世紀初めにイタリアの各地を巡りながら詩を吟じたイギリスロマン派の2人の詩人、ジョージ・ゴードン・バイロンとパーシー・ビッシュ・シェリーの足跡もたどっている。

 ドキュメンタリー畑出身で「ひかりのまち」(1999)、「イン・ディス・ワールド」(2003)等で知られる監督のマイケル・ウィンターボトムは、大まかなシノプシス(あらすじ、構想)のみで脚本を使わず、スティーブとロブに映画の出演者になりきったモノマネ合戦などを即興的に演じさせ、フィクションと現実が入り混じった世界を巧みに構築している。

 また、この映画の第2の主役とも言える料理は、厨房での調理風景から克明に映し出され、観客の食欲を刺激してくれる。

1日目(月) ピエモンテのバローロ

スティーブとロブが訪れたレストランの場所 1. ピエモンテ州 モルフォンテ・ダルバ 2. リグーリア州 サン・フルットゥオーゾ 3. トスカーナ州 マッツォッラ 4. ラツィオ州 ローマ 5. カンパニア州 マッサ・ルブレンセ 6. カンパニア州 カプリ
スティーブとロブが訪れたレストランの場所 1. ピエモンテ州 モルフォンテ・ダルバ 2. リグーリア州 サン・フルットゥオーゾ 3. トスカーナ州 マッツォッラ 4. ラツィオ州 ローマ 5. カンパニア州 マッサ・ルブレンセ 6. カンパニア州 カプリ

 まず2人が訪れたのは、イタリアで50番目のユネスコ世界遺産となった「ピエモンテのブドウ畑の景観:ランゲ・ロエロ・モンフェッラート」を擁するモンフォルテ・ダルバにあるレストラン「トラットリア デッラ ポスタ」である。

 スティーブとジョーは地元名産の最高級赤ワイン「バローロ」と、バーニャカウダ、タマネギのファルシ、ミートソースのタリオリーニ、ウサギのローストといった料理に舌鼓を打ちながら、映画談義に花を咲かせる。

 まず、レンタカーにミニクーパーを選んだのは、ロブが「ミニミニ大作戦」(1969。2003にリメイク)のマイケル・ケインのセリフ「You are only supposed to blow the bloody doors off」(吹っ飛ばすのはドアだけだ)を言いたかったからなのだが、このセリフは先にスティーブに取られてしまう。

 続いて「ゴッドファーザー」シリーズ(本連載第31回参照)のアル・パチーノ。今回の2人の取材旅行は、イギリスの湖水地方のレストランを巡った前作「スティーブとロブのグルメトリップ」(原題THE TRIP、2010)に続いて2回目で、“続編は駄作”という映画のジンクスを打ち破った数少ない例にあやかり、この取材を成功させる腹づもりなのだ。

 二枚目俳優ジュード・ロウの若ハゲをからかった後、前出のケインが執事役のアルフレッド役で出演する「バットマン」シリーズの最新作「ダークナイト・ライジング」(2012、クリストファー・ノーラン監督)にも話は及び、ケインをはじめ、主演のクリスチャン・ベールやベイン役のトム・ハーディ(現在公開中の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の主演)のモノマネをしながら、同じ俳優ならではの的を得た毒舌批評に思わず笑わされる。

2日目(火) リヴィエラのタコのポテト添え

 ジェノヴァにあるバイロンの旧居を訪れた後、リグーリア海岸(リヴィエラ)のポルトフィーノからシェリーの旧居のあるレーリチに向かう遊覧船の中で、「バウンティ 愛と反乱の航海」(1984)を思い出したロブが、アンソニー・ホプキンスのモノマネを披露する。

 バウンティ号の反乱は18世紀末にイギリス海軍の戦艦で実際に起きた事件で、たどり着いた楽園で恋が芽生えるこの映画のストーリーさながらに、彼はバイロンが泳いだという“詩人の湾”で遊覧船のイギリス人ガイド・ルーシー(ロージー・フェルナー)と出会う。十八番のヒュー・グラントのモノマネで詩を朗読することでしか彼女を口説けないところに、ロブのシャイな一面がうかがえる。

 リアス式海岸の入り江にあるサン・フルットゥオーゾの「リストランテ ラ・カンティーナ」は、1976年に地元の漁師夫妻がオープンしたレストランである。地元で獲れる新鮮な魚介類を使い、素材の味を活かした地産地消の伝統料理を提供している。イイダコのポテト添えをイカと思い込んで食べてしまう2人の反応が楽しい。

3日目(水) トスカーナのイノシシの煮込み

 海難事故によって30歳の誕生日を目前に夭折したシェリー火葬の地・ヴィアレッジョを訪れた後、道に迷いながらたどり着いたトスカーナ州ヴォルテッラは、ルキノ・ヴィスコンティの映画「熊座の淡き星影」(1965)の舞台となった古代エトルリア時代の市壁と城門が残る古都である。

 そこからすぐ南に位置する小さな町、マッツォッラにあるレストランが「トラットリア・アルバーナ」。そこでスティーブとロブは、野性のイノシシを使った煮込みなど、トスカーナの伝統的なジビエ料理を楽しむ。ロブには前日、ハリウッドから「コラテラル」(2004)、「ヒート」(2005)などのマイケル・マンが監督するマフィア映画の会計士役のオファーが届いていて、その夜宿泊したホテルでオーディション用のセリフを練習するのだが、なぜか口調や身振りはウディ・アレン風になってしまうのだった。

4日目(木) ローマの創作料理

 ローマに到着した2人は、スティーブのマネジャーのエマ(クレア・キーラン)と女性カメラマンのヨランダ(マルタ・バリオ)と合流する。実はスティーブとヨランダは、前作で一夜を共にした仲だった。

 ロブからハリウッドのオファーの件を聞いたスティーブは、ライバルでもある友人のチャンスに焦りを感じながらも、それを隠してオーディション用のデモ撮影を手伝う。しかしロブがマフィア映画の大先輩であるパチーノになりきった演技には黙っておれず、マーロン・ブランド扮するヴィトー・コルネオーネが死ぬシーンを再現して応酬するのだった。

 スティーブ、ロブ、エマ、ヨランダの4人は、ドイツ人シェフが自らの名を冠して2010年にボルゲーゼ公園近くにオープンした「リストランテ オリヴェル・グローヴィッグ」のテーブルを囲む。この店は独創的なイタリア料理で知られ、2011年からミシュランの2つ星を獲得している。

 ここでもスティーブとロブは、パーシー・シェリーの妻であるメアリー原作のケネス・ブラナー監督作品「フランケンシュタイン」(1994)で怪物を演じたロバート・デ・ニーロのモノマネを競い合い、エマとヨランダを笑わせる。4人はパーシー・シェリーの墓を訪れた後、ローマの街を歩きながらこの地を舞台にした「ローマの休日」(1953、本連載第58回参照)と「甘い生活」(1960、フェデリコ・フェリーニ監督)の話題で盛り上がる。

5日目(金) ソレントの魚介料理

 エマたちと別れた2人はポンペイの遺跡を経て、カプリ島を望むソレント半島の突端マッサ・ルブレンセにある4つ星ホテル「ルレ・ブル」のレストランを訪れ、新鮮な魚介類を使った料理のおいしさにしばし言葉を失う。

 さらにアマルフィ近くのラヴェッロにある「ヴィッラ・チンブローネ」は、1953年製作のハンフリー・ボガード&ジーナ・ロロブリジーダ主演、トルーマン・カポーティ脚本、ジョン・ヒューストン監督作品「悪魔をやっつけろ」の舞台となった5つ星ホテルで、サイレント時代の名女優グレタ・ガルボが長期滞在したことにちなみ、その名を冠した部屋も存在する。

 スティーブは撮影が行われた「永遠のテラス」にたたずんで往年の名作に思いを馳せ、ロブはハリウッドデビュー決定の朗報を受ける……。

 最終日はロブが夢にまで見た「ゴッドファーザー」の故郷シチリア島を訪れる予定だったのだが、思わぬ展開によってカプリ島に変更になる。それには旅の途中でスティーブとロブが電話やスカイプで連絡を取り合っていた家族が関係しているのだが、詳しくは映画を観ていただきたい。また、カプリ島でも料理をはじめ映画やモノマネが多数登場するので、これも探して楽しんでいただけると幸いである。

喜劇人は才人

 スティーブ・クーガンは、BBCラジオでの毒舌スポーツ記者役やTVコメディ「アラン・パートリッジ」シリーズなどでキャリアを重ね、2013年の映画「あなたを抱きしめる日まで」ではジャーナリスト役でジュディ・デンチと共演の他、製作と脚本も兼任し、ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞している。

 ロブ・ブライドンはBBCのコメディ番組「ロブの『この年、オレ年』」の司会などで人気を博し、多彩な声色を自在に使い分けたナレーションや声優としても活躍している。最新作はケネス・ブラナー監督のディズニー実写映画「シンデレラ」である。

 日本でもビートたけしをはじめ、松本人志、又吉直樹など喜劇人に才人は数多いが、他国でも事情は同様のようである。


【イタリアは呼んでいる】

公式サイト
http://www.crest-inter.co.jp/Italy/
作品基本データ
原題:THE TRIP TO ITALY
製作国:イギリス
製作年:2014年
公開年月日:2015年5月1日
上映時間:108分
製作会社:British Broadcasting Corporation (BBC), Revolution Films
配給:クレストインターナショナル
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(1:1.85)
スタッフ
監督:マイケル・ウィンターボトム
エグゼクティブプロデューサー:アンドリュー・イートン、グレゴール・シャープ、ヘンリー・ノーマル
プロデューサー:メリッサ・パーメンター
共同プロデューサー:ジョシュ・ハイアムズ
撮影:ジェームズ・クラーク
録音:ウィル・ホエール
編集:マックス・アーノルド、ポール・モナハン、マーク・リリャードソン
衣裳デザイン:リサ・シャンリー
ライン・プロデューサー:ステファノ・ネグリ
キャスト
スティーブ:スティーブ・クーガン
ロブ:ロブ・ブライドン
ルーシー:ロージー・フェルナー
エマ:クレア・キーラン
ヨランダ:マルタ・バリオ
ジョー:ティモシー・リーチ
ドナ:ロニ・アンコーナ
サリー:レベッカ・ジョンソン

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。