シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物」報告(2)

“Tomorrow’s Table: Organic Farming, Genetics, and the Future of Food” Pamela C. Ronald, Raoul W. Adamchak
「有機農業と遺伝子組換え食品 明日の食卓」(椎名隆、石崎陽子 訳)

2011年12月、シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物~将来の90億人を養うために今考えること」が開催された。出席したNPOくらしとバイオプラザ21の佐々義子氏に、その報告を記してもらった。営農面からの見解、有機農業と遺伝子組換え技術のそれぞれが目指すべきものの指摘。

化学肥料が単収を上げた

「土からみた“遺伝子組換え作物と農業”」
間藤徹氏(京都大学農学研究科)

 世界人口が90億人になって大丈夫かと問われれば、大丈夫だと私は答える。ただし、環境劣化への対策、農業の位置づけ、消費者の問題、それぞれに丁寧に対応することが条件。

 国民健康・栄養調査の統計で計算すると、私たちはコメとムギ、肉、豆などからバランスよくタンパク質を摂取している。我々が摂取するタンパク質を植物は土壌中のアンモニアから作り出すが、動物の排泄物を植物の栄養とする、これが有機農業のコンセプト(の一つ)。しかし、微生物が有機物を無機物にするのには時間がかかるので、化学肥料で窒素を与えるようになった。100年前には、空中窒素から窒素肥料が出来るようになり、この技術が戦後の人口増加を支えた。

 化学肥料を使うと単収が上がり、広い耕地を使わなくてもよくなった。たとえば、ブータンの棚田は美しいが、化学肥料を使うようになって単収が上がり、焼畑でない平地だけでトウモロコシが栽培できるようになった。さらにインドから食料が輸入され、山の斜面などで無理して栽培しなくてよくなり、山の緑が復活してきた。

化学肥料頼みでは環境負荷が大きい

 FAO2009年データによると、地球上の食料に含まれるタンパク質(魚を除く。コメ、ダイズ、コムギ、豚肉、鶏肉、牛肉、牛乳、鶏卵など)の生産量は約1.86億tだった。人間は、体重1kg当たりタンパク質0.7g/日を摂取することが必要なことから70億人を1年間養うタンパク質の量を計算すると、現在の生産量でまかなえる。

 収量増加は品種改良と窒素肥料投入で支えてきた。英仏コムギでは単収は7t/1ha、アメリカは5t/1ha(FAOのデータより)。世界の反収にはまだ3割は伸び代があるだろう。山形県の飼料米では、工夫して8t/1haとれた(山形県のデータより)。

 化学肥料だけでは環境負荷が大きいので堆肥も併用して単収を上げ、全体での負荷を減らす。現代の食料問題は生産量(の不足)でなく、分配の(適正さの)方が問題なのではないか? 化学肥料は生産性が高い。有機では90億人は養えない。

 さらに、90億人の食料はみな心配するが、食料は食べたら出てくる、この排泄物の環境負荷を考えているのだろうか?

品質訴求のための有機には疑問

 有機農業促進法では、環境負荷軽減のために有機農業をすることになっている。しかし、環境への負荷を減らし、安全な食料を供給するのに、有機農業がいいのだろうか?

 堆肥と化学肥料を併用して窒素量をそろえてコマツナを作ると、堆肥は分解に時間がかかり、収穫後も窒素肥料分が土壌にでてきて、硝酸イオンとなって地下水にいく。化学肥料は栽培期間内に吸収されてしまう。一方、魚かすや油かすなどの有機質肥料は堆肥より即効性でとてもよい肥料だが高価。

 実際の食生活では外食、中食が増え、それらの原材料・食材は輸入農産物に依存しているのに、有機は安全でいいというのはおかしくないだろうか。もう一つ、心の問題がある。農業へのリスペクトが失われ、輸入すると国内の農業は空洞化する。

 今の有機農業を考えると、有機農産物の品質での優位性を主張する限り未来はない。環境、消費者、生産者に配慮したオーガニックがいい。また、遺伝子組換え作物には本当の(需用者の)ニーズがない限り未来はない。アレルゲンフリーのような、どうしてもそれでないとダメというニッチを探していったらどうか。

質疑応答
Q 肉食していると食料不足にならないか。
A 肉食は飼料を使うが、日本や中国はすでに肉の需要が減りだしている。人口増加が著しいインドは肉食が多くないので、肉食を適度にするのなら食料は足りるのではないか。

〈続く→シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物」報告(3)〉

〈初回から読む→シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物」報告(1)〉

About 佐々義子 39 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。神奈川工科大学客員教授。