抗生物質耐性菌の問題

国立医薬品食品衛生研究所は、食品安全情報(微生物)No.16(2014.08.06)を発表した。

注目記事

【US CDC】食品由来細菌の抗生物質耐性に関する報告書

 米国疾病予防管理センター(US CDC)の2012年のデータによると、食品由来細菌の抗生物質耐性率は低下と上昇の両方の傾向がみられ、この問題は依然として公衆衛生上の脅威となっている。

 米国では、食品由来の抗生物質耐性菌の感染患者が毎年約430,000人発生し、食品およびその他を感染源とする多剤耐性サルモネラの感染患者は毎年約100,000人と推定されている。

 最新のデータによると、多剤耐性サルモネラの割合は過去10年間に減少し、重要な2種類の抗菌剤グループであるセファロスポリン系およびフルオロキノロン系薬剤への耐性率は2012年も低レベルであった。しかし、腸チフスの原因であるチフス菌(Salmonella Typhi)のキノロン系薬剤への耐性率は2012年に68%に上昇し、腸チフス患者に繁用される治療法の1つが多くの患者で効かなくなる懸念がある。

【SSI】抗生物質の使用量が多い農場ではESBL産生菌の検出が多い

 デンマーク国立血清学研究所(SSI:Statens Serum Institut)およびデンマーク工科大学(DTU)食品研究所が共同で実施した最近の研究によると、ブタ群へのセファロスポリン系抗生物質の使用歴と基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌の出現には関連がある。また、ブタからESBL産生菌が検出される農場では、従事者のESBL産生菌への感染率が高い。

 本研究では、セファロスポリンを動物群に使用したことがない農場20カ所、および同剤を大量に使用してきた農場19カ所からブタおよびヒトの糞便検体を採取した。

 2010年7月、デンマークのブタ生産者は第三および第四世代セファロスポリンの使用を自主的に停止したが、本研究はその後数カ月間にわたり実施された。その結果、大量のセファロスポリン系抗生物質を使用してきた農場では79%の農場でブタ糞便検体中にESBL産生菌が検出されたが、同剤を使用してこなかった農場では20%のみであった。

 また、同菌のブタとヒトの間の伝播の有無を調べるため、39カ所の農場の従業員または居住者計195人について調査を実施した。その結果、13農場の計19人の検便検体からESBL産生菌が検出された。このうち1人を除く全員にブタとの接触歴があり、ESBL産生菌陽性者のほとんどがブタから同菌が検出された農場の従業員であった。

【Eurosurveillance】食品が国際的に取引される時代の大規模アウトブレイク発生リスク

 2012年9月20日~10月5日、ドイツにおいてそれまでで最大規模の食品由来アウトブレイクが発生し、原因病原体としてノロウイルスが特定された。

 食品提供業者X社の従業員から便宜的に抽出された感染状況不明の216人)の検体の検査結果が報告された。このうち32%(患者の40%、従業員の20%)の検体がノロウイルス陽性であった。

 X社の各地域の調理施設では冷凍イチゴが使用されていた。これらはドイツのY社(Saxony州)が中国の業者から輸入した1ロット計22t(2,201箱に10 kgずつ包装)のうちの一部であった。患者が発生した公共施設はすべて問題の冷凍イチゴを含む製品を受け取っていた。

 10月5日、ロベルト・コッホ研究所(RKI)、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)およびドイツ連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)は合同で記者発表を行い、Y社は当該ロットの冷凍イチゴの回収を開始した(この時点で同社は既に当該製品の出荷を停止していた)。これらの出荷停止および回収により、当該イチゴ製品のうち計1,136箱以上(11t以上)について、消費者に届くことを阻止することができた。

 アウトブレイクの発生から1週間以内に原因食品が特定されたことにより、時宜を得た製品回収が可能となり、当該ロットの半分以上について消費者に渡ることを阻止することができた。本アウトブレイクは、食品が国際的に取引される時代における大規模アウトブレイク発生のリスクを実証する例となった。

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html

食品安全情報(微生物)No.16(2014.08.06)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2014/foodinfo201416m.pdf

今号の目次

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. 食品由来細菌の抗生物質耐性に関する報告書
2. 移動食品販売車の食品に関連したサルモネラ(Salmonella Enteritidis)感染アウトブレイク(カナダ、アルバータ州、2010年10月~2011年2月)

【ミネソタ大学感染症研究センター(CIDRAP)】
1. 連邦当局が米国13州で発生したサイクロスポラ症患者125人を調査

【テキサス州保健局(TDSHS)】
1. サイクロスポラ症患者数の急増によりテキサス州が調査を開始

【欧州委員会健康・消費者保護総局(EC DG-SANCO)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)

【Eurosurveillance】
1. 冷凍イチゴに関連してドイツの複数州にわたり発生したノロウイルス胃腸炎の大規模アウトブレイク(2012年)

【英国食品基準庁(UK FSA)】
1. 英国食品基準庁(UK FSA)理事会が生乳(未殺菌乳)の販売に関する現行規則の継続を要請
2. 安全な燻製魚製造のための新しいWebツール

【デンマーク国立血清学研究所(SSI)】
1. 抗生物質の使用量が多い農場では基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌がより頻繁に検出される

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. 腸管出血性大腸菌やサルモネラなどによるアウトブレイクの原因食品を特定するための新しい方法

【ProMed mail】
1. コレラ、下痢、赤痢最新情報