「今福島第一原子力発電所に何が起こって、何を急がなければならないか」――日本学術会議緊急集会・原子力科学の立場からの話題提供

3月18日の日本学術会議緊急集会「今、われわれができることは何か?」では2名の科学者が話題提供を行った。このうち田中俊一氏(元原子力委員会委員。工学博士)は、福島第一原子力発電所で起こっている事象を解説し、行政と科学者が今後取るべき行動について提案を行った。


《田中俊一氏による話題提供の骨子》

問題の原子炉の基本的な構造

福島第一原子力発電所の概要
福島第一原子力発電所の概要

 福島第一原子力発電所は1号機から6号機まである。これらはBWR(沸騰水型原子炉)というもので、1号機が1971年に運転開始した。全体として我が国の原子力発電の黎明期の頃に作られたものが多い。

 このうち、1号機、2号機、3号機、4号機でトラブルが起こっている。

 BWRの構造は、真ん中に圧力容器があり、その外側を格納容器が囲む形になっている。BWRの圧力容器内部は、運転中だいたい六十数気圧の圧力になる。それを囲む格納容器の内圧は3ないし4気圧になる。

 格納容器下部にはサプレッション・チェンバーという部分がある。2号機の格納容器の中で爆発が起こって壊れたというのが、この部分に当たる。圧力容器の内圧が高まり過ぎるのを防ぐために、圧力容器から蒸気を取り出し、水の中に入れる構造になっている。

 これらの上部に使用済燃料貯蔵プールがあり、全体を建屋で覆っている。

 原子炉は運転しているときは非常に大きな熱量を出す。熱出力は電気出力の約3倍なので、70万kWの原子炉の場合は200万kWほどになる。そして原子炉を停止させた後も、フル出力の5~7%程度と相当な熱を出す。停止から1日経過後で0.3~0.5%、10日後でも0.2%程度まで。

 熱出力200万kWの0.2%で考えると、3000~4000kWの熱が出続けているということになる。これを適切に冷やしていかないと、燃料が溶けたりいろいろなことが起きる。

 さて、現在二つの問題が起こっている。一つは、原子炉本体に入っている燃料が冷やせなくなっていること。もう一つは、今かなり緊急を要している問題で、3号機と4号機の使用済燃料貯蔵プールにある燃料が冷やせなくなっていること。それぞれについて説明する。

1号機、2号機、3号機で起こった事象

 通常の原子炉の停止は冷態停止と言って、圧力容器の内圧60気圧を常圧まで下げ、温度を100℃以下に十分クーリングしていけば、それで停止となる。地震などの場合には緊急時の冷却装置が働くが、今回これを動かすための電源が喪失したために、炉心の冷却ができなくなった。

 その結果、圧力容器内の冷却水が徐々に減少し、約4mの長さの燃料が剥き出しになって、燃料の温度が高温になっている。そして冷却水が沸騰し、高温の蒸気が発生した。

 燃料を覆っている被覆管はジルコニウム合金でできている。これと水蒸気の熱化学反応(ジルコニウム水反応)が起こり、水が分解して水素ガスが発生する。この水素ガスが蒸気とともに格納容器内に蓄積する。また、こういう反応が起こると被覆管が壊れ、燃料内の核分裂生成物であるクリプトン、ヨウ素、セシウムなど、ガス状のものや微粒子のようなものが、格納容器に入る。

 格納容器の圧力が上がるが、もし水素ガス濃度が4%を超えると爆発する。格納容器は放射能を外部に漏らさないための最後の砦として非常に大事なもので、これを壊すと非常に重大なことになる。そこで格納容器から排気を行い、圧力を下げることになった。その結果、格納容器内にたまった核分裂生成物の一部も環境中に放出された。

 ところで、原子炉建屋の上部に水素ガスがたまって濃度が上がり、爆発するという事象が相次いで起こっているが、格納容器内の水素ガスがなぜ建屋に漏れたのか、私にはよくわからない。普通は、格納容器からの排気ガスは専用のラインを通って排気される。そこがうまく通ってないのかという想像はできる。

 また、2号機ではサプレッション・チェンバーで爆発を起こし、格納容器の圧力が3気圧から1気圧へ低下した。そう大きな破壊ではなくて、一部が流れているだろうと想像できる。

 1号機、2号機、3号機でのこれらの事象と取り組みは今後どうなるか。まず、格納容器の現状の健全性を破壊しないように、水素ガスの蓄積と水蒸気による圧力上昇を制御しつつ、圧力容器の圧力を下げる。容器内に十分な冷却水を注入し、100℃以下の冷態停止にすること。これが肝腎だ。

 これを達成した上で、燃料の冷却は継続する必要がある。そのためには早く電源を復帰して、通常の冷却システムを定常的に動かすことが必要になる。

3号機、4号機の使用済燃料貯蔵プールで起こった事象

 使用済燃料貯蔵プールは建屋の最上階にある。このプールの水深は12~13m。建屋が破壊されたため、現在は剥き出しになっている。今回、このプールも電源装置の喪失で、おそらく冷却系や換気系が停止し、使用済燃料の崩壊熱で冷却水が温まって蒸発した。

 この結果水位が低下し、放射線の遮蔽効果が減少した。水位が7~8mあればほとんど問題ないが、相当に減ってしまった。プールの側方と下は厚さ2mぐらいのコンクリートで遮蔽されているので問題ないが、上はスカスカなので上方に向けて放射線が出ることになった。

 放射線は空気中の酸素とか窒素とかに当たって散乱するため、上へ向けて放出されても、下へも降ってくる。これを「スカイシャイン」と言う。このために、地上の線量も相当高くなった。

 使用済燃料貯蔵プールのこの事象も、かなり今切迫している状況だと私は見ている。

 使用済み燃料が剥き出しになると、ジルコニウム水反応により発熱とともに水素が発生するが、さらに水がなくなるとジルコニウム空気反応により温度が急上昇する。2~3時間ぐらいで1000℃ぐらいまで上昇し、さらに上昇し続けると燃料被覆管もウラン燃料も全部が溶けてしまう。こうなると、燃料中の核分裂生成物が外部に放出されて重大な汚染が生じる。

 したがって、何が何でも水をからさないことが重要だ。現在放水車等によって水をかけているが、これは一時的なものと考えるべき。仮にこの方法で水の補給ができたとしても安心するわけにはいかない。使用済燃料貯蔵プールの水は、循環・冷却を継続しなければ問題は起こる。だから、本来のシステムを復旧させることが非常に急がれる。

情報開示と知恵の結集が急務

放射能インベントリー
放射能インベントリー

現在、どのぐらいの放射能があるのか、試算を表にまとめた。

 このうち、ヨウ素-131は半減期が短いが、甲状腺障害などの障害を起こす。セシウム-137は半減期が長いので、いったん環境に出ると環境汚染が極めて長期に継続する。これは絶対に防がなければならない。なお、3号機の使用済燃料貯蔵プールの場合はこれまでの冷却期間が長いので、ヨウ素-131はほとんどない。

 これらの情報開示について。

 原子力規制委員会(NRC)は福島第一原子力発電所から50マイル以内の米国人向けに被曝線量評価を実施し、公表している。

 一方、日本原子力研究開発機構には、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)というシステムがある。これは、気象条件を考慮した放射能の空間、時間の変化を評価できるシステムだ。今回も評価をやっているはずだ。評価を原子力安全技術センターが原子力技術研究所の支援を受けてやることになっていて、安全技術センターが情報を持っていると思う。

 こういうもので評価して、現在どういう状況になっているか、最悪のシナリオでどういうことが起こり得るのかを公表するべきだ。つまり、これまで放出された放射能の分布と被曝線量の評価および予想される最悪の事態が起こった場合の放射能の分布と被曝線量を住民に提示し、避難、退避の理解を求めるべきだ。

 現在、そのチャネルが全く切れていると見ている。

 では、最悪の事態はどのようなものか。これは次の二つがある。

(1) 格納容器の大規模な破壊による環境への放射能の放出
これは絶対に避けなければならない。具体的には水素爆発を起こさないこと。若干の放射能が出ることを許してもらってでも防止するべきだ。

(2) 使用済燃料貯蔵プールの水の補給に失敗する
 水の補給は緊急を要する。空だきになった途端にメルトダウンということになる。私たちの評価では、毎時3tの水が蒸発していく。そのぐらい熱がある。そんなに時間的な余裕がない。とにかく適切な、的確な処置をしていかなければならない。

 現在の状況は極めて深刻だ。東京電力と原子力安全・保安院だけでは解決が不可能である。国のすべての知恵と能力を結集することが必要だ。

 そこで、最悪の事態を回避するためには、全体の知恵と能力を活用することだ。各省、各政府機関、研究機関、民間、専門家の能力が一元的に機能していない。政府は、あらゆる知恵と能力を活用できる体制を早急に構築し、緊急事態に対処すべきだ。

※記事は当日の発表を記者がまとめたもので、文責はFoodWatchJapan編集部にあります。東北関東大震災による影響、とくに福島第一原子力発電所に関する事態は刻々と変化しており、この記事の内容と異なる事柄も起こり得ます。最新の情報に注意してください。

※参考