2018年食の10大ニュース[8]

みなが「そうだ」と重大視するビッグニュースなき2018年。共通するのはメディアの報道力劣化か。

  1. 遺伝子組換え食品の表示で「でない表示」の厳格化決まる
  2. ゲノム編集技術で国は安全性審査不要の決定
  3. 週刊新潮が根拠なき不安扇動報道を大特集
  4. 主要農作物種子法廃止
  5. 健康食品で消費者庁が厳しい取り締まり
  6. 15年ぶり食品衛生法の大改正
  7. 米国産牛のBSE検査がやっと廃止へ
  8. 豚コレラ発生
  9. 豊洲市場開場
  10. 子ども食堂の増加

【解説】何を基準に10大ニュースを選ぶか。実はけっこう難しい。最近、つくづく感じるのは、食に関する出来事について、新聞メディアが奥の深い解説記事を載せないため、何が重要かが、人の興味、視点によってばらけてしまうことだ。その背景には専門知識を持つ新聞記者が依然として少ない状況がある。さらに、ネットの音楽配信の出現で国民的な大ヒット曲が生まれにくくなったのと同じように、ニュースの世界が「新聞」と「テレビ」と「ウェブ」の3つに分断化され、みなが共通して関心を持つ出来事が少なくなってきたことも背景にあるように思う。

 そんなわけで個人的な思い入れを座標軸に選んでみた。ニュース解説は独断と偏見を交えた講談風を試みた。

1. 遺伝子組換え食品の表示で「でない表示」の厳格化決まる

 スーパーで豆腐などの加工食品を見ると「組換えではない」という任意の表示のオンパレード。この「でない表示」が「組換え食品は危ない」というイメージを再生産している。やっと消費者庁の英断で「でない表示」の要件を「不検出」としたが、業界は猛反発。不安をあおっているのは業界だったのかと勘ぐりたくなる。

2. ゲノム編集技術で国は安全性審査不要の決定

 ゲノム編集技術に関する新聞メディアの大半は「遺伝子操作に変わりなく、判断は慎重に」といったネガティブな反応。しかし、厚生労働省は安全性の審査不要の方向で検討している。社会的な受容がうまくいけば、日本はゲノム編集大国として世界をリードできそうだが、ブレーキをかけているのがマスコミというのが現状の構図か。

3. 週刊新潮が根拠なき不安扇動報道を大特集

 売るためなら、何でも書くという“遺伝子”を持った週刊誌は健在だった。そのバックにいるのが無添加を標榜する事業者たち。無添加ビジネスでお金をもうけようとする事業者と売らんかなの週刊誌が見事に“細胞融合”した先端例か。

4. 主要農作物種子法廃止

 種子法の廃止で勢いづいたのは市民団体と山田正彦・元農水大臣。あちこちのメディアで荒唐無稽な話を振りまき、次々に記事となる。巨大企業が種子を支配するという構図の悪役はいつもモンサント。そのモンサントがバイエルに買収され、悪名が消えた。旧モンサントは日本の種子市場に全く関心なし。市民団体のシュプレヒコールが虚しく聞こえる。

5. 健康食品で消費者庁が厳しい取り締まり

 健康食品の誇大な表示を消費者庁がびしびしと取り締まるのに、新聞メディアはほとんど報じない。新聞を読むだけでは詳しい内容が全くわからないといってもよい。消費者庁詰めの記者の関心が低いからだろうが、専門知識と意欲の点で最近の若い記者たちの劣化を感じる。

6. 15年ぶり食品衛生法の大改正

 業界にとっては激震に近い大改正だが、新聞を読んでいても、その中身はさっぱりわからない。そもそも改正の詳しい解説が記事になっていないからだ。厚労省はもっと記者たちに広報活動をしてもよいと思うが、記者が忙しすぎて、この問題の追及を怠っているのか、伝える側が下手なのか。なんともおかしな現象である。

7. 米国産牛のBSE検査がやっと廃止へ

 米国産牛のBSE検査がようやく廃止されるが、これまた新聞はほとんど報じない。そもそも検査が安全性を担保する条件ではなかったはずなのに、なぜ、検査の廃止にこんなに長い時間がかかったのか。不思議である。“ゼロリスク”信仰にとらわれているのは国のほうではないかと疑ってしまう。

8. 豚コレラ発生

 豚コレラが1992年以来、26年ぶりに岐阜県などで発生している。生産者にとっては深刻な問題だが、意外にも新聞の記事は少ない。その深刻ぶりを伝えるメディアも少ない。中国で猛威を振るうアフリカ豚コレラが日本に侵入したら、どうなるか。記者は今のうちに専門知識を用意しておいたほうがよいのではないか。

9. 豊洲市場開場

 ようやく豊洲市場が実現した。あの騒ぎはいったい何だったのか。東京都の試算では2年間の延期で少なくとも約100億円の経費が余分にかかった。他の目的に使えば貴重な財源だった税金が空費されたかと思うと、小池知事の「安心」を強調したリスクコミュニケーションの罪は重い。

10. 子ども食堂の増加

 こども食堂が全国に増えているという。貧困の象徴と言われるが、必ずしも貧困にあえぐ子供たちを救うだけが目的ではない例もある。地域の子供たちが食堂に集まって世代を超えた交流をはかる。こういうこども食堂が広がるならば、地域コミュニティの復活にもつながる。にぎやかで明るい「こども食堂」がもっと増えてほしい。


《特別企画》2018年食の10大ニュース[一覧] → こちら

About 小島正美 1 Article
食生活ジャーナリストの会 代表 こじま・まさみ 1951年、愛知県生まれ、愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。生活報道部編集委員を経て、2018年6月末に退社。主な担当分野は食の安全、健康・医療問題。現在は食生活ジャーナリストの会(約160人)代表。主な著書に「メディアを読み解く力」 「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」など。