2013年食の10大ニュース[5]

2013年食の10大ニュース

【1】食品表示法が成立
【2】実用化に最も近いiPS細胞研究は網膜再生
【3】母体血液マーカーによる新型出生前診断始まる
【4】アンジェリーナ・ジョリーさんが乳腺の予防的切除
【5】PISAでよい成績
【6】TPP参加をめぐる不適切な報道
【7】GMパパイヤ「レインボー」がホテルレストランに登場
【8】GMカイコの実用化に向けたアプローチ
【9】23andMeの配偶子ドナー選別技術が特許取得
【10】外食の原材料表示が問題になる
【番外】遺伝子組換え食品への風向きは?

 食を広くとらえ、バイオテクノロジーに関する話題を含めて振り返ってみました。

 食に関する最も大きな出来事の1つは、食品表示法の成立でしょう。表示は食に関わるいろいろな立場(生産、加工、流通、消費)の人にとって、正確な情報を伝える手段として重要なものです。どんな表示がわかりやすく、よりよく食の事実を知るために役立つのか、みんなで考えて行動していかなくてはならないと思います。

 それにもまして、今回10の話題には含めませんでしたが、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて世界的に評価されたことはうれしいことでした。昨年、アメリカ農務省が作成したアジアの食と農に関するレポート「FOOD2040」(※「今後30年間の食の需要とバイテクは中国が主導する――アメリカ穀物協会が『FOOD 2040』を発表」参照)では、これからは家庭での調理はどんどん減ると予測されているわけですが、その中で和食の担い手はだれになるのかも気になるところです。

 DNA情報をめぐる医療・医薬品の動きも目についた年でした。

【1】食品表示法が成立

 食品衛生法、日本農林規格(JAS)法、健康増進法に分かれていた表示ルールを一元化する食品表示法が、6月の参議院本会議で可決され、成立しました。

 私たちが食品について知り、選ぶために重要な表示が適切に行われるためには、いろいろな立場の人たちの努力が必要だと思いました。

【2】実用化に最も近いiPS細胞研究は網膜再生

 12月、英科学誌「ネイチャー」は「来年注目の5人」に、人工多能性幹細胞(iPS細胞)による目の網膜再生の臨床研究を進めている理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダーを選びました。高橋先生は、再生医療と一緒にロービジョンケア(視機能が弱く矯正もできない状態の人に対するケア)も広めたいと言われています。

【3】母体血液マーカーによる新型出生前診断始まる

 4月、全国31医療施設で2013年4月から新型出生前診断が始まりました。6カ月で3514人が受診し、疾患があることが確定した56人のうち53人が中絶したと、共同研究組織(NIPTコンソーシアム、29施設の医師らが参加)の資料からわかりました。

【4】アンジェリーナ・ジョリーさんが乳腺の予防的切除

 2013年5月、アメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーさんは、家族に乳がんの人がおり、遺伝子診断で家族性の乳がん・卵巣がんの可能性が高かったことから、乳腺の予防的切除を行ったことを公表しました。遺伝子診断や予防的切除について、多くの人が考えるきっかけになる出来事でした。

【5】PISAでよい成績

 世界65カ国・地域の15歳51万人以上が参加した2012年OECD生徒の学習到達度調査(PISA/Programme for International Student Assessment)の成績が、12月に発表されました。上位は上海、香港、シンガポールが独占しましたが、日本も科学力、読解力で4位、数学で7位と頑張りました。

【6】TPP参加をめぐる不適切な報道

 TPPに参加すると、GM食品の表示方法を変えるように海外から圧力をかけられる、残留基準を超えた農作物が入ってくるなど、農薬・食品添加物・GM食品の安全性について消費者をミスリードするような記事が散見されます。食の安全情報ネットワーク(FSIN)は、意見書送付、情報提供などのアクションを起こし、これらの報道を正確な情報提供を行うチャンスに変えようとしています。

【7】GMパパイヤ「レインボー」がホテルレストランに登場

 8月、インターコンチネンタル東京ベイのレストランで行われたハワイアンフェアで、ウイルス抵抗性GMパパイヤ「レインボー」が使われました。店頭にはGM技術を使ったパパイヤであることが掲示されていましたが、フェアに来た人のほとんどは普通に食べていました。

【8】GMカイコの実用化に向けたアプローチ

 現在、国内で商業栽培されているGM作物はサントリーフラワーズの青いバラ「アプローズ」だけで、畑作物では実現していません。しかし、GM技術を用いたカイコには農家の期待が寄せられており、第一種使用(食用原料としての流通、一般圃場での栽培等を、環境中への拡散を防止しないで行う使用)規程の承認の申請が2013年9月に行われました。繊維としてだけでなく、昆虫工場としても利用価値の高いGMカイコの実用化に期待したいものです。

【9】23andMeの配偶子ドナー選別技術が特許取得

 2013年10月、アメリカの遺伝子解析サービス会社の23andMeは、両親の遺伝子情報を用いて、生まれてくる子供の病気のリスクや容姿、芸術・スポーツなどの適性や才能など、遺伝的な形質を予測する手法である配偶子ドナー選別(gamete donor selection)技術の特許を取得しました。

 これは「デザイナーベビー」(designer baby/生まれてくる子どもが好ましい性質を持つように、遺伝子をデザインするという考え)につながるもので、倫理面で問題があるという意見が出ています。

【10】外食の原材料表示が問題になる

 10月、阪急阪神ホテルズの発表から始まって、ホテル、レストラン、デパート、料理店などの食材虚偽表示問題が次々に報道されました。これはもちろん顧客との信頼関係に支障を来す問題ですが、一方で安全上の問題と混同することのないようにしたいと思います。

【番外】遺伝子組換え食品への風向きは?

 3月、バイテク情報普及会は、遺伝子組換え(以下GM)作物・食品に対する意識に関する調査報告を発表しました。それによると、GM作物・食品に対するキーメッセージを提示すると、消費者の認識が変化し、6割が「買ってもよい」「遺伝子組換え食品しか売っていなければかってもいい」と回答したということです(「メッセージ提示で遺伝子組換え食品『買ってもよい』が4割から6割へ」参照)。

 GM作物については、今年は農協のチャネルで販売されている雑誌「地上」(家の光協会発行)で特集が組まれるなどの動きもありました。一方、セラリーニ教授(フランス)の、GMトウモロコシの餌でがんができたネズミを取り上げるなどした映画「世界が食べられなくなる日」が日本でも一部の映画館で上映されました。


《特別企画》2013年食の10大ニュース[一覧]

●これまでの「10大ニュース」
《特別企画》2012年食の10大ニュース[一覧]
《特別企画》2011年食の10大ニュース[一覧]
《特別企画》2010年食の10大ニュース[一覧]

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About 佐々義子 42 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。神奈川工科大学客員教授。