ナゾの多い腐植は2つに分けてとらえる

これまでに、土は造岩鉱物、生物、腐植、粘土鉱物の4つの要素の混合物だということを指摘し、前回はとくに粘土鉱物について説明しました。今回はこれと並んで重要な腐植がどういうものであるかを説明します。

有機物=腐植ではない

 今回は土の中の有機物の話です。「有機」というと、作るにも食べるにも愛好者の多い「有機栽培」や「有機肥料」を思い出すと思いますが、それらのことではないので間違えないでください。

 土に堆肥などの有機物(Organic Compound/炭素原子が基本構造を作る化合物)を入れると、土の中の水分の助けによって微生物が分解をしていきます。このとき、すべての有機物が分解されて無機物(Inorganic Compound)だけになってしまうかというと、そうではありません。有機物が分解されてできた成分などが再合成され、別の構造を持った有機物が生成されるということもあります。

 そのときどのような有機物ができるかは、土壌の特徴によって異なり、一様ではありません。その土壌に特有の有機物が作られるわけです。これを腐植と呼びます。

 したがって、堆肥や醗酵させて作った有機肥料などは有機物ではあっても腐植ではありません。それらが分解され、別の構造の有機物に再合成された、その土に特有の有機物が腐植です。

解明進まぬ複雑怪奇な存在

 土壌に含まれる腐植の量は、その土壌の特徴や環境に左右されます。たとえば、砂の多い土壌では地温が高くなりがちで、また砂の粒子は大きく粒子間のすき間もたっぷりあいていて通気性もよいため、そこに適度に水を含むと微生物がよく働きます。そのため、有機物の分解は激しく進み、腐植はたいへん少なくなります。一方、低湿地のように水を多く含む土壌では、有機物の分解が進みにくく、たくさんの腐植ができることになります。

 さて、腐植はとても複雑な分子構造を持っていて、実のところどのようなものなのか、よく解明されていません。というのも、今日の進んだ高分子化学の知見をもってしても、どうにも複雑極まりない構造でわかりにくいということがありますが、そもそも調べにくい事情もあります。実際の腐植は粘土鉱物と複合体を作っていて、これを引き離すためには強いアルカリを使って処理しなければなりません。ところが、腐植は複雑なだけでなく構造がたいへん壊れやすいものであるため、その処理を行うと腐植の原形は失われてしまうのです。

 また、大学や研究機関の経済的、政治的な理由も考えられます。高い研究費を使って腐植の構造を解明できたとしても、ではその成果を何かに応用できるのかと問われれば、全く心もとないという事情があるでしょう。

栄養腐植と耐久腐植に分ける

 そのようにどうもわけのわからない腐植ではありますが、農業生産の立場からは、腐植を2種類に分けてとらえるということがされています。栄養腐植と耐久腐植です。

栄養腐植:土壌中の微生物によって容易に分解される。分解時に無機物を放出する。土壌微生物の活性を高め、団粒構造※1を形成する。

耐久腐植:土壌中の微生物による分解が進まず安定している。陽イオンや水分を保持する。土の緩衝能※2を持つ物質としての役割がある。

※1 団粒構造:土壌を構成する要素が、微生物が出した粘りのある成分にからめられるなどして集まり固まったものが団粒。団粒ができた土壌は団粒間に空隙を生じ、排水性や通気性が高まる。

※2 土の緩衝能:土壌の中で化学変化等が起こっても、pHが変わらないように働く作用があること。その働きの程度。

 では、ある圃場の土に含まれる腐植をピンセットでつまみ上げ、「このひとつまみは栄養腐植で、こちらのひとつまみは耐久腐植」などと言えるかというと、そうはいきません。

 たとえば、関東平野の真っ黒な黒ボク土に含まれる腐植は、その分解はほとんど進まないことが特徴で、栄養源としてはあまり価値がないことから耐久腐植と位置づけます。

 栄養腐植は、たとえば砂の多い土壌の変化からどのようなものかがわかるでしょう。

 砂地の圃場に堆肥や緑肥や有機肥料などを毎年少しずつ施していくと、砂質の土壌の色は黄褐色からだんだん黒褐色になっていき、手触りも軟らかく、重さも軽くなってきます。これは、砂に含まれる腐植が増えることによると言えます。

 ところが、そうしてできた砂質の土壌も、それまで与えてきた堆肥などの有機物を施すのをやめて何作か作ると、黒褐色だった土壌の色はだんだんと薄くなり黄褐色に戻っていきます。これは、含まれていた腐植が温度と水分を得て、微生物の作用で分解してしまったからです。こうして増減した腐植は栄養腐植と位置づけます。

土壌中の何と結びついているかが問題

 腐植の性質の違いについて、もう一つ重要なものがあります。

 関東ローム層のような火山灰土に含まれる腐植は、土壌中のアルミニウムと結びついています。そう言っても、何のことかはすぐにはわからないと思いますが、これは日本の土の性質を知る上で、とても重要な点です。

 関東地方などで見られる黒ボク土と同じように黒い土には、前回少し触れたウクライナのチェルノーゼムがあります。ロシア語でチェルノーは黒、ゼムは土なので、チェルノーゼムとは文字通り黒土で、見かけは真っ黒な日本の黒ボク土と同じです。

 ところが、チェルノーゼムに含まれる腐植の性質は、黒ボク土のそれとは全く異なります。チェルノーゼムに含まれる腐植は、土壌中のカルシウムと結びついているのです。これは、アルミニウムと結びついている場合と比べて、微生物に分解されやすいのです。したがって、チェルノーゼムでは各種の栄養が作物に豊富に供給されるということになります。

 実際に日本からウクライナへ行ってダイズを栽培した人の話を聞くと、「肥料を与えなくても速やかに育つ」ということです。

 このメカニズムについては、後日もう少し詳しくお話しましょう。

 まず、腐植というものはつかみどころのないものだということと、それが多くて土がフカフカしていたとしても、作物に栄養が豊富に供給されるわけではないということを覚えておいてください。腐植には、見た目だけでは判断のつなかい奥深さがあるのです。

About 関祐二 101 Articles
農業コンサルタント せき・ゆうじ 1953年静岡県生まれ。東京農業大学在学中に実践的な土壌学に触れる。75年に就農し、営農と他の農家との交流を続ける中、実際の農業現場に土壌・肥料の知識が不足していることを痛感。民間発で実践的な農業技術を伝えるため、84年から農業コンサルタントを始める。現在、国内と海外の農家、食品メーカー、資材メーカー等に技術指導を行い、世界中の土壌と栽培の現場に精通している。