4πr2が示唆する日本国産ダイズの将来

4πr2(よんぱいあーる2じょう)――この方程式に何度、悩まされたことか。たぶん皆さんも一度は覚えたことがある方程式ではないだろうか。この方程式は、ダイズの規格を大きく左右する“汚れ”について、ある一定の説明をしてくれる。今回は、日米のダイズの規格の違いを考えることによって、日本のダイズの将来を展望してみたい。

 ダイズ収穫で一番気を使うのは、見掛け上きれいに収穫できて、乾燥、出荷できることだ。10月になり、緑色の葉が全部落ち、茎も茶色になり、サヤの中の実がカラカラになるころで、だいたい水分は20%くらい、その後、晴天が数日続くとダイズの実の水分は15%から18%になり、コンバイン収穫ができるようになる。収穫に用いるコンバインは米国ジョンディア社製、360馬力は国産コンバインの10倍の能力を発揮し、時速10㎞で1時間に3.5haを刈り取り、ダイズの実だけをコンバイン内で数回にわたり選別してグレインタンクに貯蔵、8t程度たまるとダンプトラックに排出する作業を収穫作業と呼ぶ。

 今年は委託を含め110haのダイズを5日で収穫した。朝露が残っているとダイズが汚れるので午前10時ころ頃からスタート。作業終了はやはり夜露の関係で日の入り1時間後の6時ころまでが限界になる。この作業で大切なことは、ダイズに露などの水分でダイズを汚さないことである……。こう言われるが、実際多くのの汚れの原因は土がコンバインの中に入りダイズと機械部分が物理的、強制的に接触して汚れてしまう。いずれにしても、ダイズが汚れると等級が落ち、その結果、著しい収入減となる(参考:「大豆の高品質収穫・乾燥調製技術」)

 ダイズには多くの品種があり、私が栽培するダイズは小粒の中でも極小ダイズと呼ばれるユキシズカで、納豆に用いられる。直径が5mm程度以下のダイズは汚れに強い、あるいは汚れが目立ちにくいと言われる。比較対象として北海道の主力ダイズ銘柄のとよまさり系のように直径が8mm程度のダイズでは“汚れ”に大きな差が出る。

 そこで先ほどの方程式が登場することになる。実際は百粒重では3倍近く、つまり同じ重量当たり8mmのダイズの方が5mmより表面積が少ないので、同じ量の土が混入した場合、汚れが目立ってしまう。その結果、等級が下がり収入が下がる。

 そのほか、ダイズが汚れる要因に雑草がある、播種時に60cm程度の幅にして、生育期にはカルチ作業を行い、かまぼこ状にして雑草を物理的に埋没処理するやり方がある。しかしこれだと畑の表面に凹凸が出来て収穫時にコンバインに土が入りやすくなるので、汚れの原因を排除するのがより難しくなる。そこで米国で行われている不耕起、簡易耕を用いれば土の表面がより平らになった状態で収穫作業を行うことが出来るので、汚粒の原因を1つ取り除くことが出来る。また10月20日以降に3回くらい霜に当てると、緑色した雑草も枯れてしまい汚粒の問題は少なくなるが、時期的に日が落ちるのが早くなり、作業時間が短くなり収穫作業効率が落ちる。

 そうすると、温度が高くて刈り取りやすい10月上旬に収穫をしようと考えた場合、畑には雑草がない状態が望まれるが、現実はそんなに簡単にはいかない。

 ダイズの品質検査は現在、民間の農産物検査員でも行うことができるようになり、関係法令に従って必要事項(種類、銘柄、品位等)を調べることになるが、たんぱく質、脂質 炭水化物などダイズの中身を調べることはないようだ(参考:「農産物検査法施行規則」「農産物検査法」「国産大豆の規格」)。

 早い話、見掛けがそこそこであれば、たんぱく質、脂質、炭水化物の割合は関係ないとも言える。一般的に米国、カナダの多くのダイズは脂質の割合が国産よりも高く、搾油された後に加工され使われるが、国産ダイズは炭水化物の割合が高い。米国人に言わせると“フル―ティー”と呼ぶほど、甘く感じるらしい。

 では米国のマチュリティー1.5の遺伝子組換え、もしくは非遺伝子組換えダイズを北海道で栽培、収穫した場合は何ダイズと呼ぶのか? 答えは「同じく国産ダイズと呼びます」だ。そして国産ダイズの平均収量は2t/ha以下で、米国の場合はおよそ1.5倍の2.9t/haだ(参考:「2009年産米国大豆の品質」)。

 その結果、世界の標準からかけ離れた非遺伝子組換えダイズを栽培して得られた対価は3180円である。つまり本年度の北海道産ユキシズカ、とよまさり系の価格は3180円/60kg(3等、概算支払)と言うことだ。

 12月10日の米国産非遺伝子組換えダイズは、およそ5万円/t=3000円/60kgになり、現実の多くの食用米国産ダイズにはプレミアムなどを生産者に支払うので4000円/60kg以下の価格は難しいかもしれない。となれば、「国産ダイズの魅力は一体何なんだ?」と言うことにならないだろうか。

 国産ダイズは安全・安心だから価格が高く、味噌、納豆、醤油業界は競って北海道ダイズを買い集める?。いや、もうウソを言うのは止めましょう。どこの誰も国産ダイズは米国ダイズよりも優れているなんて科学的に解明されていません。

 どこかの誰かが米国ダイズは搾油用で残りはミールだから国産より品質が悪いと勝手に言っているだけの話だ。炭水化物の割合が仮に5%高くても流通する絶対量から見れば、米国ダイズの優位性に間違いはないし、日本向けの米国ダイズが遺伝子組換えダイズに置き換えられ、その後育種が進み、収量差が1.5倍もあるのだから炭水化物5%の差はどうにでもなるように思う。今の技術を持ってすれば味噌、醤油などダイズの形と関係ない商品販売には簡単に対応できるのではないかと思うがどうだろうか。専門の方々にお伺いしたい。

 では国産ダイズと呼ばれるダイズからは、一体誰が利益を得ることになるのだろうか。はっきり言おう。「国産ダイズ(炭水化物が米国よりも高いダイズ)なんてなくしてしまえ!」。もちろん冗談ではあるが、少し本音の部分もある。国産ダイズの収量性は悪い、遺伝子組換え品種ではないので雑草管理に悩まされ、規模拡大の足かせになる。

 一番良くないのは収益性に問題があることだ。今回示された数字は概算金なので1年後の本清算では1000円から2000円程度が加算され、やっと米国の非遺伝子組換えダイズ並みの価格になる。そのほかの交付金があるので、実際の生産者所得とは違うが、あまりにも国内ダイズをナメキッタ対応である。

 消費者が国産ダイズを望んでいるなんて大ウソだ。加工・販売業者が現状に対応しないで、昨日と同じことをやって楽をしたいだけに思えてくる。このことはジャガイモでも同じで、男爵だメークインだと言っている業界と同じである。実際は国産ダイズと言うブランドが欲しいのであって、本当に“国産の大豆”を欲しがっているわけではないことは誰もが知るところだ。

 国産ダイズの価格優位性が保たれないのであれば、あの“事業仕分け”に提出して予算カットされても当然ではないか。本州の一部ではダイズ畑が荒らされたとも聞く、水田を休んで頂戴する産地つくり交付金(水田転作)狙いと言われても仕方ないだろう。

 国産ダイズはもともと、出荷時の検査で中身の品質なんて調べていないのだから、遺伝子組換えにして総量を上げて少しでも自給率向上を狙っても良いのではないか。ではこうなってしまったのは、誰の責任なのか? 行政に責任があるのは当たり前にしても、何にも発言しないハンカクサイ(アホ、北海道弁)生産者しかいないことは、とても残念である。

 確かに炭水化物が高いダイズが国内から消えてなくなることは、一部の業界からは反対の声が聞こえてくるだろうが、現実は国産ダイズを守るために業界は何もしない。この体質もどうかしている。

 では米国の現在のダイズ品種がそのまま日本国内で栽培可能なのであろうか。以前私は「ラウンドアップ・レディー・大豆」(米国モンサント社が権利を持つ遺伝子組換えダイズの品種)を栽培、収穫した。その時に重要なのは品種の選定であり、現在住む地域と同じ緯度で栽培されている米国ダイズを持ち込めば、現在の国内品種よりは良い成績が望める可能性がある。と言おうか国内の育種においても米国や中国の品種を持ち込み、ある程度試験していたのだから、その優位性は専門家であればご存じだと思う。

 常日頃から思うのは日本食文化への疑問である。はっきり言えば、我々生産者は日本食文化のためだけにダイズを生産しているわけではないと言うことだ。その辺のことは次回にでも書こう。

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

About 宮井能雅 22 Articles
西南農場有限会社 代表取締役 みやい・よしまさ 1958年北海道長沼町生まれ。大学を1カ月で中退後、新規就農に近い形で農業を始め、現在、麦作、大豆作で110ha近くを経営。遺伝子組換え大豆の栽培・販売を明らかにしたことで、反対派の批判の対象になっている。FoodScience(日経BP社)では「北海道よもやま話」を連載。