堆肥のバイオガス化処理の効用

国立医薬品食品衛生研究所は、食品安全情報(微生物)No.26(2020.12.23)を発表した。

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【フィンランド】堆肥のバイオガス化処理によって抗生物質耐性が抑制される可能性

 フィンランド食品局(FFA: Finnish Food Authority)、フィンランド自然資源研究所(Luke)およびフィンランド国立環境研究所(SYKE)による共同研究プロジェクトの報告書が発表された。このプロジェクトでは、抗生物質治療を受けた乳牛から、残留抗生物質および抗生物質耐性腸内細菌が牛舎や堆肥貯蔵所、さらにバイオガス化処理の工程へ移行する問題について研究が行われた。研究者らは、堆肥の処理を行うことにより抗生物質耐性が低減すると考えている。

 フィンランドでは、抗生物質で治療を受けた動物の未処理の糞尿も植物の栄養素として畑で使用されることが多く、残留抗生物質、耐性腸内細菌および耐性遺伝子の拡散が起こり得る。その結果、野生動物、植物およびヒトがそれらに曝露する可能性がある。それらは特にそのまま喫食されることが多い野菜を介してフードチェーンにまで混入することになる。

 肥料として使用する前に堆肥に処理を施すことにより、薬剤化合物の有害性を低下、または耐性腸内細菌を死滅させる可能性がある。LukeのSari Luostarinen氏は、「今回調査されたバイオガス化処理では堆肥中の抗生物質は完全には除去されなかった。しかしながら、バイオガス化処理における微生物の作用が、農場のスラリー状の糞尿で測定された濃度の抗生物質によって妨げられることはなかった」と語った。

 この工程で耐性腸内細菌は増殖しなかったと考えられた。また、この処理の結果として堆肥中の腸内細菌の生菌数は減少したが、耐性腸内細菌の割合には大きな変化はみられなかった。しかしバイオガス化処理により、堆肥またはその発酵残渣の衛生状態が良くなり、生残している耐性腸内細菌も死滅する可能性がある。

 SYKEのJuha Grönroos氏によれば、糞尿を効率的に処理することにより、再生可能エネルギーを生産できると同時に、肥料としての糞尿の有用性が高まり、環境にとっても伝統的な糞尿処理より利益をもたらす。

(注目記事のまとめ:FoodWatchJapan編集部)

食品安全情報へのリンク

食品安全情報
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
食品安全情報(微生物)No.26(2020.12.23)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2020/foodinfo202026m.pdf

今号の目次

【世界保健機関(WHO)】
1.2019年の世界のコレラ発生状況

【米国疾病予防管理センター(US CDC)】
1. 袋入りミックスサラダに関連して発生したサイクロスポラ感染アウトブレイク(最終更新)
2. 桃に関連して複数州にわたり発生したサルモネラ(Salmonella Enteritidis)感染アウトブレイク(最終更新)

【カナダ公衆衛生局(PHAC)】
1. 公衆衛生通知:サラダ製品および生鮮ハーブに関連して発生したサイクロスポラ感染アウトブレイク(最終更新)
2. 公衆衛生通知:米国から輸入された桃に関連して発生したサルモネラ(Salmonella Enteritidis)感染アウトブレイク(最終更新)
3. 公衆衛生通知:貝類に関連して発生した腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)感染アウトブレイク(最終更新)

【欧州委員会健康・食品安全総局(EC DG-SANTE)】
1. 食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)

【欧州食品安全機関(EFSA)】
1. 定量的微生物リスク評価(QMRA)に関連した食品および飼料の安全性モデルのリポジトリ試作版の開発

【ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)】
1. 食品中の病原微生物による疾患リスクはより迅速な予測が可能となる

【フィンランド食品局(FFA)】
1. 抗生物質耐性が堆肥の処理によって抑制される可能性