2019年食の10大ニュース[2]

海外の食品安全関連情報を紹介する「食品安全情報(化学物質)」の記事の中からピックアップしました。順不同です。(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室 畝山智香子・登田美桜)

「食品安全情報」(食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
    • 世界食品安全デー
    • WHOのトランス脂肪に関する声明
    • FDAがダイエタリーサプリメントへの対応強化を宣言
    • 韓国の輸入規制措置に関する日本のWTO敗訴
    • 米国でAquAdvantageサーモンの輸入警告が無効となる
    • カナダ人のための安全な食品規制発効
    • グリホサート論争
    • マイクロプラスチックの問題
    • 米国における電子タバコによる肺損傷アウトブレイク
    • 健康的な食事の基本原則

世界食品安全デー

 2018年12月の国連総会において毎年6月7日を「世界食品安全デー」(World Food Safety Day)とすることが決議され、その第1回目となった今年の6月7日には世界各地で食品安全のイベントが開催されました。食品安全デーは、食品安全なくして食糧安全保障はない、食品安全はヒトの健康や栄養に直接的に影響を与えるという考えのもと、世界中のすべての人たちが食品安全のことを考え、学び、実行するための機会として設けられたものです。

 今年のテーマは「食品安全はみんなの仕事」(Food safety, everyone’s business)であり、食品の安全性を確保するためには、国(行政)、食品事業者、そして消費者など食品の生産から消費までにかかわるすべての人に努める責任があることを確認する日となりました。

WHOのトランス脂肪に関する声明

 昨年の10大ニュースでは、WHOが工業的に生産されるトランス脂肪を段階的に排除することを目標にした戦略的行動に関するガイド「REPLACE」を発表したことを取り上げました。このガイドは各国政府向けのものでしたが、目標を達成するためには、政府の関与だけでなく食品業界による取り組みも必要であるとの考えを2019年に発表しています。

 WHOは、2023年までに加工食品から工業由来トランス脂肪を排除するために、脂肪、油、食品およびフードサービス業界が、
1)工業的に生産されるトランス脂肪を排除するために食品を見直す、
2)トランス脂肪含有量を表示する、
3)飽和脂肪が少なくより健康的な油脂の供給を増やす、
4)企業が行う取り組みを独立的に評価する、
ことを求めています。

 関連の情報として、EUでは次のような食品中のトランス脂肪に関する委員会規則(EU)2019/649が採択されました。

「動物脂肪に天然に存在するものを除き、消費者に提供されるおよび小売りされる食品に含まれるトランス脂肪は脂肪100gあたり2gを超えてはならない」

 この規則は2021年4月1日から適用されます。

FDAがダイエタリーサプリメントへの対応強化を宣言

 米国食品医薬品局(FDA)は、ダイエタリーサプリメント健康教育法(DSHEA)の制定25周年を節目に、ダイエタリーサプリメントの規制を強化するための新しい取り組みを開始すると発表しました。FDAは、ダイエタリーサプリメントに関する優先事項は第一に安全性確保、第二に製品の信頼性の維持、第三に情報を与えられた上での意思決定だとしています。これら優先事項の実現のため、違法で危険の可能性のある製品情報の共有ツール開発、製品(特に新規成分)の安全性評価に関する規制的枠組みの更新、違法製品への執行措置をより効果的に行うための機能の構築、DSHEAの近代化についての議論など、さまざまな計画を開始しています。

韓国の輸入規制措置に関する日本のWTO敗訴

 これも重大なニュースの一つでしょう。日本が世界貿易機関(WTO)に対して、韓国政府による日本8県産の水産物の輸入規制措置は、WTOのSPS協定(衛生と植物防疫のための措置に関する協定)に照らし合わせると貿易上の不当な措置にあたると提訴していた問題です。2019年4月の上級委員会において、一審の議論が不十分あるいは不適切と判断されました。WTOの手続きには差し戻し制度がないため、結果として日本の訴えは認められませんでした。

米国でAquAdvantageサーモンの輸入警告が無効となる

 2015年の10大ニュースを読まれた方は覚えていらっしゃるでしょうか。その年、FDAが最初の食用の遺伝子組換え動物としてAquAdvantageサーモンを認可したことをご紹介しました。このサーモンは、市販できる重量に達するのが遺伝子組換えでない養殖大西洋サケよりも早いのが特徴で、カナダとパナマの内陸に設置された2つの特定施設でのみ養殖されています。

 2015年に認可されたものの米国議会からFDAへの指示により輸入や販売ができない状況が続いていましたが、表示についての規制環境が整い、今年の3月からAquAdvantageサーモンの卵を米国に輸入してインディアナ州の認可施設で養殖し、販売できるようになりました。

 これ以外にも、今年はFDAが食品分野へのさまざまな新技術の導入促進と安全性の確保について大きく前進しようとする姿勢が顕著に表れた一年でした。

カナダ人のための安全な食品規制発効

 海外では食品に関する法律が次々と見直されており、予防的な管理に重点を置いた内容への改正が進んでいます。今年は、カナダ人のための安全な食品規制(Safe Food for Canadians Regulations:SFCR)が発効しました。いくつかの要件は直ちに適用されましたが、その他は品目や事業者の規模などに応じて12〜30ヶ月のうちに段階的に適用される予定です。

グリホサート論争

 世界がん研究機関(IARC)による2015年の農薬成分グリホサートの発がん性評価が引き金となった論争に関連したニュースが今年も多く見受けられました。フランスでは1月に行政裁判所がグリホサートを原料に含むRoundup Pro 360の販売承認を無効とする判決を出しました。一方、米国環境保護庁(EPA)は、グリホサートに発がん性があると主張する表示は連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)の表示規定を満たさず虚偽の主張であると判断し、カリフォルニア州のProposition 65の警告表示削除の指示を発表しました。

 グリホサート論争、終わりが見えません。

マイクロプラスチックの問題

 WHOが8月に飲料水中のマイクロプラスチックに関する報告書を初めて発表しました。それは、150µm(マイクロメートル)以上の飲料水中マイクロプラスチックは人体に吸収されそうになく、より小さな粒子の取り込みも限定的だと予想されるとの報告でした。しかし現時点では入手できる研究報告は限られているとして、さらなる研究の実施を推奨しています。この報告とともに、飲料水についての最優先事項は病原性微生物と有害な化学物質の排除であり、それらの対策である廃水処理と飲料水処理システムがマイクロプラスチック排除にも有効であるとWHOが強調したのが印象的でした。

(それと個人的なことですが、先月外食した時に、プラスチックストローの代わりに出てきた太めの紙ストローを初めて使いました。口当たりが優しく飲む分にはいいのですが、マドラーの代わりにガラガラと氷を回しているうちに折れて破れてしまったのが残念でした。紙ですもの、当然ですよね。次回はもう少し丁寧に扱おうと反省しました)

米国における電子タバコによる肺損傷アウトブレイク

 米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国内で電子タバコ又は蒸気吸入製品の使用に関連した肺損傷の患者数が2019年12月10日時点で2,409人、死者数は52人と報告されています。患者の多くがテトラヒドロカンナビノール(THC)含有製品を使用していたことがわかっていて、関連製品は152種類に及ぶとされています。原因と疑われる成分としてビタミンE酢酸エステル(別名:トコフェロール酢酸エステル)が検出されていますが、現時点では、その他の多種多様な化学物質の寄与を無視することはできないとして限定はしていません。このアウトブレイクは米国以外の国でもニュースとなり、各国で電子タバコや蒸気吸入製品の規制を改めて検討するきっかけとなっています。

 食品安全の問題ではないですが、被害が大規模であり公衆衛生上の重要な問題なので10大ニュースの一つとしました。

健康的な食事の基本原則

 WHOが今年の新年記事として公表したものですが、2020年を迎えるにあたり、改めて確認しておきましょう。基本原則は変わりません。

  • いろいろな食品を食べる
  • 減塩
  • ある種の油脂の使用を減らす
  • 砂糖の摂取量を減らす
  • 有害飲酒を避ける

《特別企画》2019年食の10大ニュース[一覧] → こちら

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About 登田美桜 39 Articles
国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室室長 とだ・みおう 農学博士。国立医薬品食品衛生研究所は、医薬品、食品、その他生活環境中に存在する物質について、品質、安全性、有効性を評価するための試験、研究、調査を行う機関。 安全情報部の「食品安全情報」は、食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報を伝える。