2016年食の10大ニュース[2]

海外の食品安全関連情報を紹介する「食品安全情報(化学物質)」の記事の中からピックアップしました。順不同です。(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室 畝山智香子・登田美桜)

「食品安全情報」(食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
  • コメ中の無機ヒ素について
  • 抗菌剤耐性への対応が世界的に強化される
  • 有害事象報告システム
  • コーヒー、マテ、非常に熱い飲料のIARC評価
  • ピロリジジンアルカロイドが注目される
  • 米国FDAがGRAS制度を最終化
  • EUで内分泌攪乱物質の定義について議論
  • 米国FDAが抗菌洗浄用製品の成分に対応
  • 食品安全管理のための事業者向けガイダンス
  • グリホサート論争

(順不同)

コメ中の無機ヒ素について

 ここ数年、コメ中の無機ヒ素について最大基準値を設定する動きが世界的に広がっています。国際基準としてはコーデックス委員会が2014年に精米について、2016年には玄米について最大基準値を設定しました。EUでは昨年設定したコメ及びコメ製品中の最大基準値が今年1月1日から適用され、4月には米国FDAが乳児用コメシリアルのみを規制対象とするという提案をしました。アジアでは、韓国がコメについて最大基準値を設定した上で、乳幼児用食品については含まれる米の割合に応じて適用する値を変更(換算)すると発表しました。

抗菌剤耐性への対応が世界的に強化される

 2016年9月19~23日に開催された第71回国連総会において、世界全体で緊急に取り組むべき最大の公衆衛生の問題として抗菌剤耐性(AMR)への対応策が議論されました。これを受けて、多くの国がAMR対応をさらに強化しています。国連食糧農業機関(FAO)も各国が農業部門での対応を準備するのを支援することを目的とした「抗菌剤耐性行動計画 2016-2020」を公表しました。食品分野では家畜動物への抗菌剤の慎重な使用が求められるとともに、コーデックス委員会において韓国をホスト国とするAMRに関する特別部会が設置されました。

有害事象報告システム

 昨年と同様に、今年もダイエタリーサプリメント関連の有害性に関するニュースが沢山ありました。たとえば、米国では植物Mitragyna speciosa(通称kratom)の成分を含むダイエタリーサプリメントについて、呼吸抑制、嘔吐、神経過敏、体重減少、便秘などの健康影響や麻酔、興奮作用をもたらすとしてFDAによる輸入及び販売の差し止めが行われました。

 さらにFDAが、新規食品成分をダイエタリーサプリメントに使用するのに必要な販売前通知に関して安全性の水準をより厳しく求める事業者向けガイダンスの改訂案を公表したり、MedWatchなどを通じて報告された有害事象報告の生データを公開するなど、米国でダイエタリーサプリメントへの対策が強化された年となりました。

 日本では今年から機能性表示食品の制度が開始しましたが、それに対して有害事象を集めるシステムがないのは大きな問題だと感じています。

コーヒー、マテ、非常に熱い飲料のIARC評価

 発がん性のエビデンスの強さを評価している国際がん研究機関(IARC)が、今年はコーヒー、マテ、非常に熱い飲料について評価を行いました。その結果はメディアでもニュースになっていたように、非常に熱い温度でないマテとコーヒーを飲むことは「ヒトに対する発がん性については分類できない(グループ3)」という結果になりましたが、非常に熱い飲料を飲むことについては「おそらくヒトに発がん性がある(グループ2A)」というものでした。この“非常に熱い”は65℃以上で意外と低い温度です。

 これからますます寒い季節となりますが、熱い飲み物はあわてず冷ましながら飲む方がいいようです。

ピロリジジンアルカロイドが注目される

 ピロリジジンアルカロイド類(PAs)は植物に含まれる天然毒素で、ヒトに肝臓障害を誘発することが知られています。PAsは一部の構造が異なる600種以上が知られ、約6000種の植物に含まれていると言われています。そのため、EUやオーストラリアを中心にハーブ製品やハチミツへの混入が懸念されています。

米国FDAがGRAS制度を最終化

 米国食品医薬品局(FDA)が、これまで暫定的だったGRAS(一般的に安全と認められる)制度を最終化しました。それによると、GRAS物質はFDAの販売前認可の対象ではないが食品添加物として認められるものと同様の安全性基準を満たさなければならないとしています。

EUで内分泌攪乱物質の定義について議論

 欧州委員会が、植物保護製品(plant protection products)とバイオサイド(biocides)分野での内分泌攪乱物質を同定するための基準案を提示しました。その科学的な基準案はWHOの定義に準じて、ヒト健康に有害影響がある、作用機序が内分泌攪乱である、有害影響と作用機序に因果関係があるという条件を満たすものとしています。現在はこの基準案にもとにした規則とガイダンスの作成に向けての作業が行われているところです。規制的枠組みの中で内分泌攪乱物質を定義するという新たな分岐点となった出来事でした。

※編集部註:biocides=殺生物剤。

米国FDAが抗菌洗浄用製品の成分に対応

 米国FDAが、OTC抗菌洗浄用製品に使用される19成分を含む製品の販売を認めないとする最終規則を発表しました。塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロキシレノール(PCMX)の3成分については新しい有効性と安全性のデータを作成して提出するため1年延期をしています。食品に直接は関係しないのですが、メディアでも話題になり業界に大きな影響を与えた問題なので入れました。

食品安全管理のための事業者向けガイダンス

 米国FDAとEUが相次いで食品安全管理のための食品事業者向けガイダンスを発表しました。とくにFDAのガイダンスは、現時点では案としての公表ですが、ハザードとなり得る微生物と化学物質の例を示した上で、その予防策として事業者が何をすべきなのか丁寧に説明されているのでオススメです。

 今年はHACCP導入の制度化に向けての動きがたびたびニュースになったように、国内でも食品安全管理の強化が求められているので、日本の食品事業者の方にとっても自社製品の生産管理の体制を見直して安全性を高めるために一読すると良いでしょう。

※《FDA》Draft Guidance for Industry: Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food
http://www.fda.gov/Food/GuidanceRegulation/GuidanceDocumentsRegulatoryInformation/ucm517412.htm

グリホサート論争

 昨年の10大ニュースにも取り上げましたが、国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを「ヒトに対しておそらく発がん性がある(Group 2A)」と分類したことに対し、多くの公的リスク評価機関がその結論を真っ向から否定するという世界的な論争が現在も続いています。

 2016年には3月にIARCがグリホサートに関するQ&Aを公表し、改めて発がん性があることを主張しました。5月にはFAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)の特別部会が開催され、食事由来暴露に限定した上で遺伝毒性及び発がんリスクの可能性はありそうにないと結論しています。

 IARCの結論のみが孤立している状況なのですが、EUではグリホサートの再認可の結論が決着せず延長されるなど政治的な問題にも発展していて、この論争の終点が見えない印象です。


《特別企画》2016年食の10大ニュース[一覧]

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About 登田美桜 39 Articles
国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室室長 とだ・みおう 農学博士。国立医薬品食品衛生研究所は、医薬品、食品、その他生活環境中に存在する物質について、品質、安全性、有効性を評価するための試験、研究、調査を行う機関。 安全情報部の「食品安全情報」は、食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報を伝える。