2012年食の10大ニュース[4]

  1. 夏場の歴史的干ばつで米国産トウモロコシが大減産
  2. 米国産トウモロコシが史上最高値を記録
  3. 米国産トウモロコシは米国内飼料用需要を上回り固定需要に
  4. 2013年米国産トウモロコシの輸出見通しは4割減の予想
  5. ミシシッピー川の水位低下で穀物等の大量輸送に甚大な影響
  6. 干ばつはロシア・ウクライナ・EUにも拡大
  7. 複数の特性を持つ遺伝子組換え品種(スタック品種)が初めて作付け全体の過半数に
  8. 新しい育種技術(NBT)の議論・検討が進む
  9. 米国の農産物輸出:高付加価値品目(HVP)の割合は20年連続伸長し6割に
  10. アメリカ穀物協会が「FOOD 2040」を発表

今年は、世界の穀物需給、とくにトウモロコシを中心に振り返ってみました。一言で言えば、「アメリカの歴史的な干ばつとその諸方面への影響」……に尽きます。

1. 夏場の歴史的干ばつで米国産トウモロコシが大減産

 夏場の歴史的干ばつにより、米国産トウモロコシの生産量は前年比▲13%(▲4149万t)の大減産(最終生産量は107億2500万Bu※=2億7242万t)。これを、中国、アルゼンチン、ロシア、ウクライナ、南アといった他国が補い、世界全体では▲3300万tの減。

 この結果、アメリカのトウモロコシ在庫は2013年8月末には1995年以来18年ぶりの低水準(6億4700万Bu)になる見通し。

※Bu ブッシェル。ヤード・ポンド法の乾物容積の単位。トウモロコシの場合、1ブッシェルは約25.4kg。

2. 米国産トウモロコシが史上最高値を記録

 干ばつの中、米国産トウモロコシ価格は史上最高値(2012年8月21日、9月限終値1Bu当り8.31ドル1/4セント)を記録。その後多少低下しているものの、12月25日時点でも7ドル台と底堅い。ちなみに現在の価格は2008年に大騒ぎした時より高い。

 農務省はすでに来年の平均農場価格ですら6.8~8.0ドルと予想。

3. 米国産トウモロコシは米国内飼料用需要を上回り固定需要に

 内需のうちエタノール向けは固定需要。依然として全生産量の4割強(45億Bu)を占め、今や米国内飼料用需要(42億Bu)を上回る状況。その他、種子・工業用需要等を合わせると、米国内需要の総合計は100億Bu(約2億5000万t)とわかりやすい。これは全生産量の93%!

4. 2013年米国産トウモロコシの輸出見通しは4割減の予想

 この結果、来年のトウモロコシの輸出見通しは2年前に比べて▲37%となる11億5000万Bu(前年比▲25%)。最盛期の輸出が20億Buを大きく上回った時代もあることを考えれば隔世の感あり。ただし、現実には感慨にふけるわけにもいかない。

5. ミシシッピー川の水位低下で穀物等の大量輸送に甚大な影響

 干ばつによるミシシッピー川の水位低下が穀物輸送へも影響。米国産穀物の競争力の源である低コスト大量輸送への影響は甚大。まさに国際的なサプライチェーン・マネジメントが問われる状況。

6. 干ばつはロシア・ウクライナ・EUにも拡大

 今年の干ばつは、ロシアやウクライナ、EUにも拡大しているが、トウモロコシで見れば年間生産量2000万tのウクライナが台風の目。中国やその他の国向けに着々と輸出体制を整備中。年間1500~1600万tのトウモロコシを輸入する日本は、今後、米国だけでなく他産地の状況を見つつ買付けを行うことが必須。

7. 複数の特性を持つ遺伝子組換え品種(スタック品種)が初めて作付け全体の過半数に

 トウモロコシそのものでは、複数の特性を持つ遺伝子組換え品種(スタック品種)が初めて作付け全体の過半数(52%)を達成。これに害虫耐性(15%)、除草剤耐性(21%)を合わせると、2012年に米国で作付けされたトウモロコシの88%(合計は前年と同じ)が遺伝子組換え品種。

 ちなみに、大豆では93%(前年比▲1%)。

8. 新しい育種技術(NBT)の議論・検討が進む

 育種の技術面では、各国で少しずつ理解と情報の共有、規制に関する議論や検討が進みつつある「遺伝子組換え技術を含む新しい育種技術」(NBT:New Breeding Techniques)の動向にも注目。

 文系の筆者も含め一般人には考えもつかない最先端技術が世界中で研究されていく中で、ますます求められる正確な科学的知識とコミュニケーション。

9. 米国の農産物輸出:高付加価値品目(HVP)の割合は20年連続伸長し6割に

 なお、食料と貿易を大きく見れば、過去25年間米国の農産物輸出の上位3位(金額ベース)は大豆、トウモロコシ、小麦で不動(順位は年により変動)。しかしながら、輸出額全体に占める高付加価値品目(HVP:High Value Products)の割合はすでに6割近く、過去20年間継続的に伸長。大きなトレンドは、「バルク(穀物)から高付加価値商品へ」、そして高値の穀物価格のせめぎ合い。

10. アメリカ穀物協会が「FOOD 2040」を発表

 最後に若干の将来展望。アメリカ穀物協会は、2040年の東アジアの食をめぐる状況を見据えた調査報告「FOOD 2040」を4月に公表。そこで示された6つの示唆は、今後の可能性の一つとして十分に検討すべき内容。

 自ら料理をしないのに言うのは気が引けるが「キッチンのないアジア」の将来は見たくない。ただし、アジアの成長を共有する中で日本の成長をいかに考えるかの視点は共有したいところ。「FOOD 2040」のアドレスは以下のとおり。

●FOOD 2040
http://www.usdajapan.org/food2040/


2012年の10大ニュース
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About 三石誠司 3 Articles
宮城大学食産業学部フードビジネス学科教授 みついし・せいじ 1960年生まれ。東京外国語大学卒業。JA全農飼料部、総合企画部、米国全農組貿株式会社勤務等を経て、2006年4月より宮城大学食産業学部フードビジネス学科教授。経営学修士、法学修士。著書に「アグリビジネスにおける集中と環境――種子および食肉加工産業における集中と競争力」(清水弘文堂書房)、「空飛ぶ豚と海を渡るトウモロコシ」(日経BPコンサルティング)などがある。