衛生・安全管理は全員参加で

鴨川シーワールドホテル(千葉県鴨川市)で食中毒が発生し、保健所から3日間の営業停止処分を受けました。10月13日夜に食事をした男女58人が下痢や嘔吐などの症状を訴え、患者の便や検食(衛生検査用に保存される食品)からノロウイルスが検出されたということです。

通年注意が必要になってきたノロウイルス

 ノロウイルスは冬場に発生が多いとされてきましたが、最近は1年を通して警戒が必要な食中毒の原因となってきています。厚生労働省がまとめている食中毒発生事例によれば、今年の場合、現在発表されている10月2日までの分で152件の報告があり、患者数は5,040人にものぼります。しかも5月に12件、6月に9件が報告され、10月2日までに報告がなかった月は9月だけです。

「ポテトサラダのO157」が持ち込まれた経路は?

共用のトングを用いるサラダバー(写真はイメージです)。
共用のトングを用いるサラダバー(写真はイメージです)。

 食中毒で今年これまで、食品産業でとくに注目を集めたのは、8月に発生した「ポテトサラダの食中毒」でした。埼玉、群馬の「でりしゃす」という総菜チェーンの商品を食べたお客が相次いで腸管出血性大腸菌O157に感染したもので、とりわけ5歳の女児が亡くなるという悲しい事件となりました。ポテトサラダなどサラダ類が汚染されていたらしいのですが、詳しく原因が究明される前にこのチェーンが全店閉店となってしまいました。

 ところが、このほど前橋市保健所が興味深い発表を行いました。産経ニュース(2017年10月26日)によれば、食中毒を起こした店舗の一つ、前橋市の「でりしゃす六供店」を利用して感染した計11人中10人から、「関東信越や西日本の広域にわたって確認されているO157と同一の遺伝子型が検出されたと明らかにした」ということです。

 事件発生当初から、店で使われていたトングなどの食器が菌を媒介させた疑いが指摘されていたのですが、この発表は、断定できるものではありませんが、その可能性の強さを印象づけるものです。

ハザードはもちろん販売段階にもある

 さて、この報道に先立つ10月20日、群馬県健康福祉部食品・生活衛生課は、「『そうざい販売店(露出陳列)の衛生管理指針』の策定について」というドキュメントを公開しています(http://www.pref.gunma.jp/05/by01_00030.html)。「平成29年8月に県内で発生したそうざい店におけるO157食中毒の事例に鑑み、その再発防止対策として、そうざい等を露出陳列して販売する場合の衛生管理のポイントを衛生管理指針にまとめ、食品営業者に示すこととした」というのが狙いです。

 実は国の「弁当及びそうざいの衛生規範」には「製造(調理)の衛生管理方法を重点に示されている一方、販売時の衛生管理方法については、具体的に示されていない」という問題があります。HACCPで考えるならば、原材料の生産から喫食までのすべての段階で危害要因を洗い出すべきで、当然販売段階もこれに含まれるはずなのですが、そこが抜けているわけです。

 それに対して、今回群馬県では、販売段階、とくに露出陳列(食品そのものを無包装で陳列して客に盛り付け・包装をさせる)の場合の危害要因を分析して指摘しています。それはこのようです。

(1)利用客による二次汚染

  • 利用客の手指による汚染
  • 利用客が利用するトング等の器具からの汚染
  • 持ち帰り容器からの汚染

(2)陳列場所の不適切な温度管理による微生物の増殖

  • 陳列場所の室温の不適切な管理
  • 食品の不適切な温度管理

(3)長時間の陳列による微生物の増殖

  • 食品の長時間室温放置
  • 継ぎ足しによる製造(調理)時間の異なるものの混在

 食品に携わる仕事をしている人であれば、これらは容易に理解できるでしょう。なにしろ、食品工場や厨房では、働く人に手洗い、マスク着用を義務づけているのに、手を洗っているかどうかもわからない、マスク着用も求めていない、しかもどこの誰であるかもわからない人に盛り付けをさせるというのは、異常というほかないでしょう。

 また、上記にはありませんが、露出陳列には故意・悪意による汚染・異物混入を許すリスクも抱えています。

 そして、これは意地悪で言うのではないのですが、プロであればこのように発表される以前から、このようなハザードがあることに気づいていたはずです。今回の発表は、そのことに目をつぶってきたことを、もうやめようではないかという呼びかけと受け止めるべきではないでしょうか。

外食も農業もハザードの管理が必要に

 また、総菜販売ではなく店内で飲食をさせる外食店の人は、「買って帰るのではなく、店内ですぐに食べるものであれば大丈夫」と考えるかもしれません。しかし、O157やノロウイルスなどは、食中毒を起こし得る菌/ウイルスの数がとても少ないことを思い出すべきです。つまり、「菌が付着しても増殖しなければ食中毒には至らない」といった感覚は通用しないのです。

 冒頭の鴨川シーワールドホテルの食中毒事故は、感染経路の詳細まではわかっていないのでこれも何か断定できる話ではないのですが、気になることは、問題となった食事がバイキング形式で提供されていたことと、フライドポテトという高温調理されたものからもウイルスが検出されていることです。検食からも検出しているということなので、提供前にすでに汚染されていたと考えるべきでしょうが、バイキング(ブッフェ)やサラダバーといった提供方法は総菜販売の露出陳列と同じハザードを抱えていると言えます。

 総菜店も外食店も、提供法を抜本的に考え直すべき時期がきているようです。

 そして、これは農業生産者のみなさんにも注意してほしいことです。たとえば、O157などが野菜や果実に付着して工場や店舗に持ち込まれたという事例は少なくありません。また、大量供食で特有に発生する食中毒であるために「給食病」とも言われる事故の原因となるウェルシュ菌や、ボツリヌス菌といった嫌気性で高温でも死滅しにくい食中毒原因菌は土壌に棲んでいるものです。

 繰り返しますが、HACCPで考えるならば、原材料の生産から喫食までのすべての段階で危害要因を洗い出すべきなのです。農業生産者も、これに同調してくれないところとはお付き合いできないというのが、これからの、いいえ現在の食品産業です。

※このコラムは日本食農連携機構のメールマガジンで公開したものを改題し、一部修正したものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →