おばあちゃんは何でサイダーくれるのか何でイモが嫌いなのか

ジャガイモ
戦後はジャガイモやサツマイモなどの栽培が奨励された

異性化糖の話から前回は砂糖不足の話になり、今回は戦後食糧難の話に。

「全部砂糖」だから「全糖」

リョウ 「来たか。ごくろう」

タクヤ 「こんなとこ来て異性化糖の話なんかしてないで、田舎帰りたいです」

リョウ 「仕事やめるのか?」

タクヤ 「夏休みで!」

リョウ 「そうか。お前にも田舎というものがあったか」

タクヤ 「田舎者でけっこう」

リョウ 「そうは言っとらんだろう。ま、サイダーでも飲みなさい」

タクヤ 「サイダー! 隊長、おばあちゃんみたい」

リョウ 「あ?」

タクヤ 「田舎帰って、おばあちゃんち遊びに行くと、必ずサイダーが出たんですよ」

リョウ 「ああ、そいうことあるな」

タクヤ 「田舎のおばあちゃんて、何でサイダー出してくれるんですかね? 何でいつもサイダーがあるんですかね?」

リョウ 「知らん。あと、カルピスっていうのもあるぞ。田舎で昔話を聞いて回るフィールドワークして、引き上げる前にお礼に行くときは、カルピスを手土産にっていうのが相場だった」

タクヤ 「ああ、隊長そういうことを昔……。で、なんでカルピスなんですか」

リョウ 「さあね。ああいうのは、まず値の張るものではいけない。お印程度でね。で、甘いものだし」

タクヤ 「やっぱり甘さが大事と」

リョウ 「そう言えば、そういう田舎で話聞いてるとね、昔は香典返しは砂糖か角砂糖と相場が決まっていたなんて聞いたものだな。砂糖は甘いだけじゃなく、白いだろ。あの色が大事だったらしい」

タクヤ 「ははあ。なるほど。砂糖の歴史についての本とか読むと、世界的にも、砂糖は白くて神秘的だったことも珍重された理由だったんじゃないかっていいう話が書かれてますね」

リョウ 「ま、カルピスも白いわな。あの商品が成功した秘密の一つかもしれんな」

タクヤ 「でもサイダーは透き通ってますよ」

リョウ 「まあ、やっぱり甘いんだし、子供に出せば喜ぶってわかってるんだし、あと昔なら酒屋との付き合いでいつも1ケース置いて行かれるっていうのもあったんじゃないか」

タクヤ 「ああ、そういう。ビールとサイダーは常備で、月末に集金と」

リョウ 「今そういう昔のことを思い浮かべたんだけど、サイダー瓶に『全糖』って書いてたことがあった気がする」

タクヤ 「ありました、『全糖』。しかし、これは我々の年がばれますね」

リョウ 「ありゃなんだ、『全糖』っていうのは。全部糖だったら飲めんじゃないか」

タクヤ 「甘味は全部砂糖由来だ、っていうことでしょうね。1950年代に出て来たようです」

リョウ 「何でわざわざそんな表示したんだ?」

タクヤ 「砂糖じゃない甘味があったからですよ」

リョウ 「おお。そうか、甘味料か」

タクヤ 「前回、戦後は砂糖がなくてたいへんだったっていう話をしましたよね。それでまず使われたのがサッカリンですよ。次いでチクロとかズルチンとか」

リョウ 「つまり『全糖』とはサッカリンとかチクロとかズルチンとかじゃねーぞと。贅沢な砂糖様であるぞよと」

タクヤ 「CMで『砂糖不使用!』が出て来る今では考えられないですが、それだけ砂糖は偉かったわけでしょうね」

おじいちゃんおばあちゃんはイモが嫌い

ジャガイモ
戦後はジャガイモやサツマイモなどの栽培が奨励された

リョウ 「あとなー、おじいちゃんおばあちゃんはイモを嫌うものだな」

タクヤ 「好きな人もいますよ。女子と言えば『いも・たこ・なんきん』とか」

リョウ 「いや、イモ嫌いなおじいちゃんおばあちゃん多いぞ。なんきんてカボチャだろ。カボチャ嫌いだっていうおじいちゃんおばあちゃんも多いぞ。ありゃ何だろう?」

タクヤ 「昔食わされ過ぎたんでしょう」

リョウ 「ほう」

タクヤ 「明治以降人口が増えた一方、列島の耕地面積はあんまり増えなかったくせに、それで戦争なんか始めて国内の労働力は殺がれるわ、兵隊さんに米を送らなくちゃいけないわでしょう。で、戦争終わってみたら、それこそ国土はめためた、復員さんが戻って来て食い扶持は増えて、どうすんだヲイ、と」

リョウ 「米が足りなかった」

タクヤ 「国が食糧増産に乗り出して、今のような稲作の機械化とかV字稲作とか出来たのは戦後のことですからね。それが軌道に乗る前は米がなくてたいへんだったようです」

リョウ 「ああ。それで配給制遵守、ヤミ米拒否って意地張ってた裁判官さんとか栄養失調で死んじゃったなんてこともあったらしいな」

タクヤ 「意地というのか体を張った立法批判なのか。とにかくそんな時代で、イモとかカボチャとか、あとデンプンで作るくず湯とか、すいとんとか」

リョウ 「すいとんていうのは、小麦粉で作る団子汁だな。ダンプリング」

タクヤ 「そういう代用食ばっかりで飽きちゃったし、その頃のつらいこと思い出しちゃったりで、イモとかカボチャとかメリケン粉のすいとんとかはもう勘弁ていう人は多かったわけですよね。今70代以上の人でしょうけど」

リョウ 「メリケン粉っていうのも不思議な言葉だな。メリケンて、アメリカンのことだろ?」

タクヤ 「国産ではないアメリカ産の小麦粉ってことでしょう。うどん粉は薄力粉とか、パンには強力粉とか区別がありますが、アメリカの市販の小麦粉はオールパーパス1本みたいですね。そういう使い勝手が違うものとしてメリケン粉って呼ぶようになったんじゃないですか。で、そういうのが戦後ララ物資とかで送ってもらえたわけでしょう」

リョウ 「『LaLa』はよく読んだぞ。『花とゆめ』もな」

タクヤ 「『LaLa』じゃありません。『LARA』です。”Licensed Agencies for Relief in Asia”って、アメリカの慈善団体のおかげで送ってもらえた援助物資があったわけですよ。戦後の学校給食はこれがきっかけで始まったとか」

リョウ 「なんか『現代素材探検隊』なのに歴史の話ばっかな、オレたち。全然異性化糖の話になってないし」

タクヤ 「現代史なので、ご容赦を」

リョウ 「ほんじゃ、ララで給食がどうとかの話の続きはまた来週な」

タクヤ 「でははいちゃいでござる」

リョウ 「そのセリフ、昔の漫画みたい」

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もの書き稼業 きた・はるか 理科好きの理科オンチ。