中国旅行では、さまざまな種類の店でも日本で見たことのないものをよく見かける。とくに、筆者はもともと岩石や化石が好きなため、とくにそうしたものに目が行く。やはり、日本ではなかなか見かけない珍しい岩石が多い。
本連載第35回で桂林旅行のことを記したが、そこでも露店ではいろいろなものが売られていたが、地質学的にも注目を集める土地柄だけあって、興味を引く岩石も多く並んでいた。
値段を聞くと電卓で示してくれる。もちろん、そこから値引き交渉開始である。筆者は翻訳器を使うので、観光客でしかも日本人とわかるのだろう。だから、価格は高目に示してきているに違いない。そこで、筆者は思い切って半値にならないかと電卓を叩いて返してみるのだが、ダメモトのつもりが思いがけず「よし売った」と返されれば、もう買わざるを得ない。
どれもこれも欲しくなり、しかもこのようなやり取りになり、結局ずい分買い込んでしまった。しかし幸い、日本でこの種の土産物に付く値段に比べると割安に感じる。
天然の食品サンプル
そうして買ったものの一つを紹介しよう。豚肉石である。写真のとおり白色と赤色の層が交互に重なって、豚のバラ肉そっくりである。とくに白色部分は、半透明と不透明が混じり合う加減によって脂身そのものに見える。また、赤色部分にも微妙に白色層が混じっていて、リアルさを引き立てている。日本土産の名物ともなっている、合羽橋道具街で売られる食品サンプルとしても通じるほど、と言えばいい過ぎだろうか。
帰国後に調べてみたところ、このような豚肉石は中国東北部や広西チワン族自治区に産するものという。鉱物としては、霰石(あれれいし。アラゴナイト)と方解石(カルサイト)が層状になったものだ。霰石と方解石はともに炭酸カルシウムが主成分だが、結晶構造が異なる。このように、成分が同じでありながら複数の結晶構造を持つものを多形(同質異像)という。
ただし、霰石と方解石のどちらも、その標準サンプルは色も形も豚肉石とは似ていない。豚肉石の赤味の部分は鉄分を含んでいるための色に違いない。また、炭酸カルシウムを主成分とする鉱物には、生物起源と非生物起源があるという。桂林のカルスト地形は生物起源の石灰岩が形成したものだが、実際この豚肉石はどちらなのだろう。
豚肉石と記したが、中国語で猪肉石(チューローシー)、英語ではPork Stoneという。中国において、豚は富と子孫繁栄に通じるとして縁起のよい動物であり、その点からも豚肉石は人気があるという。なお、食品としても、中国人の豚肉好きは半端ではない。中国の人口は世界の17%ほどだが、豚肉消費量は世界の4割以上を占めている。
筆者が求めた豚肉石は、端に穴が開けてある。家のどこかに吊るしておくものなのかもしれない。重さは680g。相場は120元(約2,400円)/kgくらいと聞くので、筆者はそれに比べてやや高く買ってしまったようだ。しかし、それでも日本国内で買うよりは安かったようだ。
木が石になった珪化木
中国で買った石でもう一つご紹介したいのは、珪化木である。
写真のように、木のようであるが石である。磨かれていて美しい光沢をがある。圧倒的な存在感に引き込まれてしまった。それなりの価格だったのだが、衝動的に購入した。
樹木が何かの事情で土砂に埋もれた場合、そこにケイ酸を含む水分があってしかも圧力がかかると、反応の詳細は不明ではあるが樹木組織にしみ込んだ成分によって樹木がその形のまま二酸化ケイ素に置き換わってしまうことがある。これが桂化木である。多く、石炭といっしょに産出し、一部が石炭になっているものもある。
珪化木は外見が樹木のままというだけでなく、内部の維管束組織はもちろん、細胞構造まで残っている。化石の一種であり、こうなるには膨大な年月がかかるだろうと想像されるが、何と、条件がよければわずか数十年という短時間で形成されることもあるという。
珪化木も縁起物として扱われているケースがある。試しに調べてみたところ、「大自然の力を持ち、自分がすべき事を教えてくれる石です。固い意志と決断力を与え、自分で決めた道を迷わず進めるようにサポートしてくれます」とあった(「パワーストーン意味事典」http://www.ishi-imi.com/2011/07/petrifiedwood.html)。この種の話に科学的根拠を求めるのはナンセンスである。都合のよい占いは信じればよい。そのようなわけで、筆者も何か判断に迷った場合など、この石を観て自分を鼓舞するようにしている。