水墨画に入り込んだ桂林旅行

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桂林(けいりん)は中華人民共和国広西チワン族自治区に位置する街である。漓江(りこう)という川に沿って広がる有名なカルスト地形であり、巨大な柱状のタワーカルストが林立する。中国の多くの水墨画に描かれたように、絵のように美しい風景に恵まれた世界的な観光地である。

雨水が生んだ芸術的な景色

林立するカルストタワー。このツアーは雨模様であったのがありがたい。
林立するカルストタワー。このツアーは雨模様であったのがありがたい。

 恐竜が繁栄する中生代の前である古生代の終わりをペルム紀(Permian period)という。それは今から約2億9900万年前〜約2億5100万年前までを指す地質時代である。ペルム紀にはさまざまな植物、巨大な両生類や爬虫類が生息していた。陸上にも豊かな生態系が構築されていたが、この時期の浅い海には多様な軟体動物、棘皮動物、腕足動物、三葉虫が生育していた。そして、これらの生物の死骸に由来する炭酸カルシウムが海底に降り積もり、石灰岩となった。これが隆起して石灰岩の大地となった。

 その大地を素材にして彫刻家が腕をふるった。その彫刻家とは、空中の炭酸ガスを含んだ微酸性の雨水である。これが石灰岩を浸食し、深い谷を形成したり、突出部を残すなどして芸術的な景色を生み出した。その技は地表面に留まらず地下にも及び、神秘的な鍾乳洞を穿った。カルスト地形はこのようにして誕生したのである。

 カルスト地形は世界各地にあり、日本では山口県の秋吉台がよく知られている。カルスト地形という名は、スロベニアのクラス地方に由来するとされるが、著名な英国のカルスト地形学者マージョリー・スウィーティング(Marjorie Sweeting)が桂林を訪れた際、ここの石灰岩地形が最初に研究されていたなら、「カルスト」に代わって「桂林」(グイリン)という言葉がこの地形を指す言葉とされていたに違いないと語ったという。

あっという間の4時間

鍾乳洞の中の鍾乳石。炭酸カルシウムを含んだ水滴が滴りながら、上部からはストロー状に結晶する鍾乳管を、下部には柱状に成長する石筍を形成し、やがて上下がくっついて石柱となる。
鍾乳洞の中の鍾乳石。炭酸カルシウムを含んだ水滴が滴りながら、上部からはストロー状に結晶する鍾乳管を、下部には柱状に成長する石筍を形成し、やがて上下がくっついて石柱となる。

 筆者は以前から是非この地を訪問したいと願っていた。ある出張で中国を訪ねた折、時間が出来たので思い切って行ってきた。3泊4日のパックツアーで、現地の友人と一緒である。3泊4日は現地で2泊だが、その1日目は市内観光で、2日目がメインイベントの漓江下りだった。

 まずバスで川上まで移動して船に乗り込む。この漓江下りは圧巻だった。宮城県松島の島巡りとちょっと似ていると感じたが、島巡りでは外海側に見所が多いのだが、漓江下りでは前後左右の全方向に目を向けなくてはならないのが大きな違いである。

 当日は雨模様だったが、それがかえってよかった。幻想的な水墨画そのままの景色を堪能することができたのだ。カルストタワーの樹木のない部分は赤色や黒色の模様をまとっていた。鉄分など成分によるのだろう。

 鍾乳洞は3カ所見ることができた。大規模なところは見学時間が長くなる。肌寒く感じるほどだったが、魅力的な形状の鍾乳石、石筍、石柱が次々と目前に現れた。動物などに見えるものには、名札が付いている。LEDを点滅させている場所も多かった。また、賽銭箱が置いてあったり、金魚を飼っているところもあったのだが、これらは現地の人たちの趣向かもしれないが、やや興醒めであった。

 我々の船には果物などを売るボートが近づいてきたりもした。また、鵜飼を行っているところも見ることができた。全工程は4時間だったのだが、瞬く間のうちに過ぎ去ったのである。

 桂林には、漢族以外にもチワン族、ミャオ族、ヤオ族などの少数民族が暮らしている。彼らの村を見学することができた。民家の様子等を見た後、劇場に案内された。言葉はわからないが、ダンスと寸劇があった。ハレの日の伝統衣装なのだろう、一般の中国服とは異なるが、カラフルで美しいものだった。

 食事は広東料理なのだろう、好みの味で堪能した。当地のビール(啤酒)は水っぽくて不満だったが、「郷に入れば、郷に従え」である。日本のそれと異なり、安価なのはとてもうれしい。

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About 横山勉 99 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。