宇宙食を製造する厳しい条件

米国の食品安全のスタートは、いわば宇宙開発の中から出てきたといってもよいでしょう。したがって、宇宙食の開発をのぞいてみると食品安全の基本が理解できるのではないでしょうか。そこで、これからあなたがその開発に関わると想像して、その作業をチェックしてみましょう。

軽く・臭わず・飛び散らず……

 もし、いま日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)から「貴社の工場で宇宙飛行士が宇宙空間で口にする食料品を製造していただきたい」という手紙を受け取ったとしたら、さああなたならどうするでしょうか? いろいろと考えることがたくさんありますね?

 有人宇宙船や宇宙ステーション内部は無重力状態で空間も狭いため、食事に必要な設備などに制約が生じます。そのため簡単に食べられるような食品の開発が不可欠になってきます。その要素は次のように考えられます。

  1. 長期保存が必要:地球上から宇宙船に頻繁には届けることができない。
  2. できるだけ軽量である:宇宙船に載せることのできる重量に制限がある。
  3. 強い臭いがない:船内は密閉されており地上の施設のような換気はない。また脱臭装置には限界がある。
  4. 飛び散らない:船内には重要な機器があり、それらを汚したり機器を破損したりしないようなものでなければならない。
  5. 栄養価が優れている:栄養バランスを宇宙食だけでまかなわなければならない。
  6. 温度変化や衝撃に耐える:宇宙空間に出るまでに熱や衝撃がある。
  7. 特別な調理器具が不要:簡単に調理またはそのまま食べられるもの。

 これらの条件を満たして宇宙空間に食品を送るのですが、その運賃はいくらであるか知っていますか? 1kgの重量を送るのに日本円で約90万円もかかるのです(2016年現在)。そのため、フリーズドライされた軽量な食品が好まれています。また、臭いについては、魚などのように強い臭気を出すものは使用可能なもののリストから外されています。

 調理の温度もやけどなどの危険を避けるために、シャトル内部で70℃、ステーション内部で80℃までという決まりがあるのです。ですから、インスタント食品でもこの条件でのお湯で戻るものが必須となります。

 水分の多い食品に関しては粘度を上げて宇宙空間で飛び散らない工夫がなされています。スープやジュースなどの液体はパックからストローで直接飲むことができるようになっています。調理器具としては、電子レンジは使用できませんが、電気オーブンレンジが使用できるようになりました。

段階を踏んで進歩してきた宇宙食

 ではこれまでにどのようなものが宇宙空間に送られたかちょっとのぞいてみましょう。これらについては、宇宙航空研究開発機構(2007)「宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター」各国の宇宙食(http://iss.jaxa.jp/spacefood/overview/countries/)に写真と解説があります。

ロシアのチューブ入り宇宙食のボルシチ(米国国立航空宇宙博物館の展示、Aliazimi撮影)
ロシアのチューブ入り宇宙食のボルシチ(米国国立航空宇宙博物館の展示、Aliazimi撮影)

マーキュリーの宇宙食(1962年~1963年)
一口サイズの固形食や、歯磨きチューブ状の容器に入れたクリーム状、ゼリー状の食品をストローで食べていました。しかし、栄養を摂るだけの味気ないものだったので評判はよくなかったといいます。
ジェミニの宇宙食(1963年~1968年)
3種類の食品(ひと口サイズ、中程度の水分を含んだもの、水で戻す乾燥食品)が使われ、以前より進歩しました。
アポロの宇宙食(1969年~1972年)
お湯が使えるようになり、食品を水で戻して通常のスプーンで食べられるようになりました。
スカイラブの宇宙食(1973年~1974年)
ここでは医学実験が主要目的のため食事内容が綿密にコントロールされました。半数が加水方式で、残りが地球上の食事に近いものになりました。
スペースシャトル・国際宇宙ステーションの宇宙食(1981年~現在)
より地上の食事に近くなり、レトルト、加水、半乾燥、自然形態、新鮮食品など、かなり改善されました。容器はプラスチックです。
ロシアの宇宙食
スタート当初は、やはり一口サイズの固形やチューブ状のものでした。それらも改善がなされて、宇宙ステーション時代には新鮮な野菜や果物などの供給も実施されました。また、ロシアの宇宙食は伝統的に缶入りのものが多いのが特徴です。
調味料
その他調味料としては、塩、こしょう、ケチャップ、マスタード、マヨネーズ、チリソース、タバスコ、野菜ソースなどが使われるようになりました。塩、こしょうはもちろん飛び散らないように液状になっています。

 宇宙食がこのように段階を踏んで進歩してきた様子を見ると、宇宙船や宇宙ステーションで食べる食品というのは簡単に出来るものではなく、いろいろと考えてクリアしなければならないことが多かったことが理解できるでしょう。

 今日の宇宙食製造にはどのようなことが求められているでしょうか。JAXAは、宇宙食の条件を次のようにまとめています(宇宙航空研究開発機構(2007)「宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター」宇宙食の条件http://iss.jaxa.jp/spacefood/overview/condition/からのまとめ)。

  1. 安全である
  2. 容器や包装が燃えにくい。もし燃えた場合でも有害ガスが発生しない
  3. 長期保存
  4. 常温で1年6カ月の賞味期限を持っている。
  5. 衛生度が高い
  6. 宇宙飛行士の食中毒などを予防するうえで、食品内の細菌の種類や数値を基準以下にする。
  7. 食べるときに危険要素が発生しない
  8. 電気系統への障害防止:液体を含む食品は飛散しないものにする
  9. 空気清浄機への障害防止:特異な臭気を出さず、微粉を出さない

 地上で食べる食品の製造は、これらと比較するともっと楽に製造ができそうですね。しかし、地上で食べる食品にも共通の条件が含まれていることに注意してください。

 さて、JAXAに提供する宇宙食を実際に製造する場合には、これらの基本条項を満たす上に、さらに所定の基準をクリアして認証を受ける必要があります。その基準はどのようなものでしょうか?

 JAXAは、2006年に「宇宙日本食」の認証基準というものを発表しました。宇宙日本食とは、食品メーカが提案する食品をJAXAが評価し、宇宙食としての基準を満足している場合に宇宙日本食として認証するものです。これをチェックしましょう。

宇宙日本食認証基準概要

  1. 製造設備は日本国内にあること。
  2. 製造設備はHACCP、またはそれに準じた管理がなされること。
  3. 食品の衛生度を確保するため、微生物検査と減圧試験等を実施する。
  4. 所定の栄養分析を行う。
  5. 9カ月間の軌道上運用に足りるだけの保存性があることを確認するため、22℃±2℃で、18カ月の保存試験を実施する。
  6. 保存試験後に、品質確認のため官能検査(風味の確認)を行って所定の基準があること。
  7. ゲル状食品(とろみ食品)については粘度基準を満たすこと。
  8. 容器包装が輸送に耐えられることを確認するため、450mmHgでの減圧検査、±50℃の温度、1000mmHgの環境にさらして問題ないことを確認する。
  9. 認証期限は5年間。

 これらを全部満たさなければ、JAXA向けの宇宙食を製造する工場とは認められないわけです。かなりの高度な基準をクリアしなければ製造ができないわけですね。

 どうでしょう? あなたの工場では宇宙食を製造できるでしょうか。いいえ、どうすれば、宇宙食を造る工場にできるでしょうか。続いて、そこを探ってみたいと思います。

ジーン・中園
About ジーン・中園 6 Articles
Happiness Success コンサルタント じーん・なかぞの 1949年大阪市生まれ。食品マネジメントの専門家として食品製造と飲食店運営に関する指導・助言を行う一方、成功のための著述・講演活動を行っている。1973年日本マクドナルド入社。国内と米国での店舗運営を経て、ハンバーガー大学プロフェッサー、購買本部QA(品質保証)マネジャーを歴任。1990年退職し、オーストラリア・ゴールドコーストの新規開店日本レストランの支配人として移住し繁盛店をつくり上げる。その後シドニーに移り、米国系大手野菜製造加工工場QA部マネジャーおよび食品コンサルタントとして活躍。2009年より6年間日本に“単身赴任”し、取締役工場長として世界基準の食品工場をつくり上げた。著書に、「小さな飲食店をつくって成功する法」(日本実業出版社刊)、「日本品質の食品工場はこうつくれ!」「なぜあの人は5時帰りで年収が10倍になったのか?」「Samurai Quality Assurance On Foods, 2,000 Hits In Japan」「Gene' s Upside Down method of ENRICHING YOUR LIFE!」「藤田田の頭の中」(各・香雪社刊)などがある。※ジーン・中園公式ページ →