ブランド創造で留意すべきポイント 10(1)

ブランド創造で留意すべき10のポイント
ブランド創造で留意すべき10のポイント

ブランド創造で留意すべき10のポイント
ブランド創造で留意すべき10のポイント

ブランド創造のプロセスで繰り返し考え実践するべき10のポイントを指摘していく。まず大切なのは、ブランドの理念と世界観だ。

ブレないブランドの基礎は理念の明確化

 新しい、あるいは未確立のブランドを作り上げる、すなわち“価値創造”に当たってのポイントを、私のブランド経営の経験から整理する。

 まずはブランドに関する(1)理念の明確化が重要である。理念とは、会社あるいは商品の社会的な存在理由、存在価値(レゾン・デートル/raison d’être)である。それは、こうあるべきという根本の考え方であり、企業が目指す経営の目的や、社会的な使命であると言うこともできる。これを実現する具体的な行動に結び付く事柄がミッション(mission)である。

 単に名を上げ、有名になり、流行を巻き起こし、手っ取り早く商品が売れればよいという発想からは、価値あるブランドの創造は難しい。そうした考え方は往々にして社会的な流れや低価格によって消費者の行動を強制しようとするものであり、戦術も短期的なものの連続になりやすい。つまり「ブレる」のであり、そこからは長くともに歩もうと思わせる絆もストーリーも生まれない。それでも組織は往々にしてそうした近視眼的なやり方に流れがちな性質を持っているから、理念を明確にすることによってブレがないようにする必要がある。

ブランドの世界観をわかりやすくして共有する

 次に、(2)ブランドが想定する世界観が必要になる。

 ブランドは、ブランド・ホルダーが考えることが消費者に伝わり共有されて初めて成立する。ところが、このブランド・ホルダーと消費者との間には距離があることを押さえてかなければならない。ブランドを創造しようとする主体者は、最初一人かごく少数のグループである。だが、これを商品化して販売するには、実際の商品を作る役割、流通させる役割、宣伝する役割など、より多くの人が携わることになる。しかも、チェーン・ビジネスとくにフランチャイズ・チェーンや特約店方式の販売の仕方であれば、最終的に消費者に商品を渡すのは他人資本の組織の人々となる。そのように、商品が消費者に渡るまでに介在する人々がそのブランドの意義や価値を理解していなければ、消費者にそれを伝え共有してもらうことは困難だ。

 それに対して、自社内外の関係者そして消費者にわかりやすくブランドの意義と価値を理解してもらうためには、ブランドが想定する世界をさまざまな形で表現し、伝えていく必要がある。これがあいまいであったり統一性を欠いていると、あるブランドの元に製造され供給された商品・サービス群であっても、やがてブランドにまつわるイメージはばらばらになり、ブランドとして破綻を来すことになる。人々の頭の中に共通で鮮明な記憶を残すには、ある程度具体的な世界のイメージが必要になる。

 それを策定し伝えることを容易にするのはストーリーだ。ブランドの歴史、ブランドが築いていこうとする文化はストーリーになっていればわかりやすく、伝わりやすい。それは、抽象的な観念ではなく、より具体的な世界観を提供するものであり、世界観の具象化は必要な努力と言える。

コミュニケーションは体験として記憶されるように

 (3)ブランドの呼称、ロゴ、カラーなど、そして商品・サービスそのものは、これらと呼応し合うものとなる。たとえ小さな何かであっても、いつまでも感動を思い起こさせるきっかけとなるビジュアル、音声、手に取ることができる品物は、心動かされた記憶を繰り返し呼び戻し、愛着を深めさせることになる。

 それらを用意した上で、ブランドに対する情緒的な価値を感じさせるための(4)コミュニケーションが必要だ。これは広告とは限らず、販売時点の表示や接客、パブリック・リレーションも含まれる。

 この活動は、ときには抽象的に、ときには具体的に、消費者の共感を呼び起こすことができる形で、消費者の脳内でのイメージや経験の蓄積になるように周到に準備し、実践できるようにしなければならない。それにはもちろん、理念に基づく準備、訓練、実践を重ねることが必要である。

 このとき重要なのは、自社に対する、また取り扱う商品・サービスに対する消費者の愛着を重視する考え方に基づくマーケティングの展開である。個々の消費者の愛着やこだわりを大切にしなければならない。その活動によって、提供される商品・サービスすなわち財に対する消費者の満足度を高め、理解度を深め、記憶に残るようにして、心理的価値を構築していくわけである。しかも、それは企業が物量を投じて強引に仕向けるものではなく、消費者の間で自然な広がりを見せていくようなものでなければ、結局のところ効果が薄い。

 そこで問われるのは、夢を持って理念を語ることができるか、企業や商品・サービスの存在意義や価値を伝えられるか、消費者にわかっていただけるかだ。

 また、その伝え方としては、ただ言ったり見せたりするだけでなく、実際に体験・経験をしてもらい、感動を提供できる機会を持つことだ。消費者の実感に基づく感性的な経験は、見たり聞いたりだけの場合よりも強い記憶となり、よりゆるぎない価値となる。見方を変えれば、商品というモノは見たり聞いたりしている間はモノでしかないが、それに触れる、使うといった体験が伴えば、そのモノにコトがまつわることになるということだ。したがって、商品を売るにも、単に物体として販売・提供するのではなく、それに関する消費者の体験にフォーカスし、コトとして販売・提供することが極めて重要である。

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About 奥井俊史 106 Articles
アンクル・アウル コンサルティング主宰 おくい・としふみ 1942年大阪府生まれ。65年大阪外国語大学中国語科卒業。同年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。中国、中近東、アフリカ諸国への輸出に携わる。80年初代北京事務所所長。90年ハーレーダビッドソンジャパン入社。91年~2008年同社社長。2009年アンクルアウルコンサルティングを立ち上げ、経営実績と経験を生かしたコンサルティング活動を展開中。著書に「アメリカ車はなぜ日本で売れないのか」(光文社)、「巨象に勝ったハーレーダビッドソンジャパンの信念」(丸善)、「ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新」「日本発ハーレダビッドソンがめざした顧客との『絆』づくり」(ともにファーストプレス)などがある。 ●アンクル・アウル コンサルティング http://uncle-owl.jp/