2013年輸入エビ調達難・バナメイエビ時代は終わるのか?

バナメイエビ
国内で市販されているバナメイエビ(マレーシア産)

2013年の輸入エビ調達難は、苦しかったと言われる一昨年(※)以上に深刻だ。タイ産についてはバーツ高の影響も大きいが、それ以上に原料生産量の減少の影響が大きい。


バナメイエビ
国内で市販されているバナメイエビ(マレーシア産)

「2011年タイ産バナメイエビ供給激減について」参照。

6月タイ産は前年比3割まで落ち込む

 タイ産バナメイエビの総生産量は、2013年1~3月で前年比半減、6月現在では前年比30%程度まで落ち込み、コストアップはもとより「製品自体があるだけまし」という有様である。

●1~3月の生産量(有頭ベース)
生産量
2013年 57,000t
2012年 105,000t
2011年 97,000t

 主な原因はEMS(Early Mortality Syndrome)だ。EMSは稚エビ投入後35日~40日で発症し、池全体のエビがほとんど死んでしまう原因不明の病気である。2012年末にタイ東部養殖場に発生したEMSは中部南部にも広がり、かなりの養殖池がこの被害を受けている。

 EMSの原因は解明されていないが、以下が疑われている。

(1)親エビ:品種改良の弊害か

(2)連作障害:古い池ほど被害が大きい傾向あり

(3)過密養殖

 上記に対して打てる対策は打ちながら4月から稚エビを投入した結果、6月時点では一部の池にEMSが発生しているに留まっているため、今後はかなりの池に稚エビが投入されていくものと見られている。

 ただし、1月~6月まで収穫量減少の影響で、稚エビ投入量自体は昨年の50%程度で、8月以降の池揚げ時期を迎えても大幅な改善は見られそうもない状況であることは否めない。前期の総生産数の約50万tに対して2013年は30万tを下回るという見方が大半だ。

 また、6月はエビの原料が前年の30%程度まで落ち込んだことから、工場可動率も30%程度になってしまっている。午前2時のHAT YAI市場には例年200台位のトラックの搬入はあるのだが、今年は40台程度と覇気がない。しかも、原料不作の時はトラック1台当たりの積載効率も悪い。EMSが発生しそうになると、全滅を恐れて養殖池から早揚げしてしまうため、エビ自体が大きくなる前に取ってしまうことも全体数量減少に拍車をかけている。

東南アジア各国に広がるEMS禍

 EMS禍はタイだけのものではない。一昨年中国で発生したEMSは東南アジア各国に広がりを見せ始めている。

 マレーシアでも北西部=タイ隣接地域ではEMSの影響があり、生産量が激減している。一方南東部はまだEMSの発生は見られないが、元々大型のエビが多かったエリアが小型化している。

 他の東南アジア諸国でも、似たようなEMS発生状況があると言われている。先月末に聞いた話だが、太平洋を越えてメキシコのエビ養殖池でもEMSが発生したという噂が耳に入ってきた。もしもこの話が本当であれば、アメリカがメキシコからエビが買えなくなることとなり、世界相場上昇に大きく影響しそうだ。

 現在、最も安定的にエビを供給できそうな国は、実は中国ではないかと見ている。中国は2011年にEMSが最初に発生した国ではあるが、思った以上にその広がりを小さく抑えられており、沿岸部の養殖バナメイエビの生産量は比較的安定している。

 それと、この時期もう一つ注意が必要なのは、不作の原因が本当にEMSかどうかということだ。最近はエビが死んでしまうとなんでもEMSと片付けてしまう傾向があるが、実際の要因はいろいろあると思われるので、注意が必要だ。

 私見ではあるが、今回のEMS禍は生き物、品種自体のサイクルを思わせる。古くは20年前、タイショウエビが獲れなくなってブラックタイガーに移行した時期があった。また10年少し前にブラックタイガーからバナメイエビに移行した。この時はブラックタイガーが病気に弱く死にやすくなってきて、耐病性に優れたバナメイエビ養殖がメインになった。

 あれから10年余り、品種改良や過密養殖の影響から、バナメイエビにも品種としての限界が来ているのでは? とも考えてしまう。

 いずれにせよエビの調達にはしばらく苦労しそうである。バナメイエビの次の品種を見つけられれば商売のチャンスがありそうだ。

※このコラムに当初使用していたバナメイエビ産地で撮影したエビの写真は別種のエビの可能性があるため写真を差し替えさせていただきました(2013年10月27日)。

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About 今井久 13 Articles
FFSチェーン マーケティング本部長 某ファストフードチェーンのマーケティング本部長。コンビニエンスストアチェーン、サンドイッチファストフードチェーン、ハンバーガーファストフードチェーンの商品開発に携わってきたこの道30年の現役マーチャンダイザー。仕入れのために日本中、世界中の産地と工場を訪ね、新商品の設計から物流までに知恵を絞る毎日。