消費期限当日の食品を料理する

[233]映画「もったいないキッチン」から

現在公開中の「もったいないキッチン」を紹介して、「もったいない」について考えたい。本作は、「0円キッチン」(2015)でヨーロッパ5カ国をキッチンカーで巡りながら捨てられる運命の食材を美しい料理に変身してみせたオーストリア出身の「食材救出人」(フード・アクティビスト)ダーヴィド・グロス監督の新作である。舞台を日本に移し、旅のパートナーで通訳のニキと共にフードトラックで北は福島から南は鹿児島まで4週間をかけて1600kmを走破し、廃棄食材だけで料理を作りながら食品ロス問題の解決法を追求していくドキュメンタリーである。

1億2600万個のおにぎり

 もったいない(勿体無い)とは、元は仏教思想に由来し、無駄をなくすだけでなく命あるものへの畏敬の念を込めた、日本人が大切にしてきた言葉である。

「0円キッチン」のプロモーションで日本を訪れたダーヴィドはこのもったいない精神に魅せられるが、同時に日本の食品ロスが世界トップクラスであることを知る。その量643万t/年。国民一人当たりにすると139g/日で、これはおにぎり1個分に当たる。つまり毎日1億2600万個のおにぎり分の重さの食品が捨てられている計算になる。

 食に対する情熱が強い国なのになぜこんなことが起きるのか。この思いが今回の「もったいないキッチン」の冒険のきっかけになった。

コンビニ廃棄食材の豆腐ハンバーグ

コンビニから調達した廃棄食材で作った豆腐ハンバーグ。
コンビニから調達した廃棄食材で作った豆腐ハンバーグ。

 まずダーヴィドとニキ、食品ロス問題専門家の井出留美さんが訪れた日本フードエコロジーセンターには、食品工場や農場で作り過ぎた廃棄食材が35t/日運び込まれる。ここでは廃棄食材を養豚用の飼料に再生しているが、3Rの原則からするとリサイクル(再資源化)よりもリユース(再利用)、リユースよりもリデュース(減量)が優先されるべきで、問題の本質的な解決法とは言えない。

 コンビニエンスストアの発注システムが食品工場のロスの一因であると聞いたダーヴィドたちは、某大手コンビニの店舗へ。そこでは店内キッチンなどでリデュースの工夫を凝らしているが、消費期限が来た食品はやはり廃棄になってしまう。

 ダーヴィドはコンビニ本社の担当者に消費期限が切れていてもまだ食べられるのではないかと掛け合うが、担当者は確かにそういうものもあるかもしれないが、全部ではないので保証できないと言う。消費期限とは、袋や容器を開けず表示された保存方法を守った場合に安全に食べられる期限のことで、担当者の言い分は正しい。しかし、製造日から賞味期限(賞味期限はおいしく食べられる期限のこと)までの3分の1を納品期限とし、3分の2までを販売期限とする「3分の1ルール」といった商習慣などが食品ロスにつながっていることも事実である。

 ここでダーヴィドは、担当者が止めているのに消費期限切れの食品を食べて見せるという過激なアプローチをとる。大事に至らなかったのは彼のあっけらかんとしたキャラクターのせいだろう。そして交渉の結果、消費期限当日の食材を自己責任でその日のうちに食べるという条件で廃棄食材を分けてもらうことに成功する。入手した豆腐、きのこ、野菜、しょうが、ごま油はニキのアイデアで豆腐ハンバーグに調理され、ダーヴィドたちの舌を楽しませることになる。

食の「もったいない」をなくすために

 本作ではこの他にも農場での規格外品や、家庭内の廃棄食材など様々な「もったいない」事例が多数紹介されている。チャプター1に登場した井出さんが「食のもったいないをなくす5つのコト」をまとめられているので、最後に紹介しておこう。

  1. 買ったら使い切る。
  2. 上手に保存! 冷蔵庫はスッキリ、冷凍庫はギッシリで。
  3. 腹ペコで買い物に行かない。
  4. 衝動買いは厳禁! 割引商品に飛びつかないで。
  5. 信じるべきは自分の感覚! 賞味期限に惑わされない。

【もったいないキッチン】

公式サイト
https://www.mottainai-kitchen.net/
作品基本データ
ジャンル:ドキュメンタリー
製作国:日本
製作年:2020年
公開年月日:2020年8月8日
上映時間:95分
製作会社:ユナイテッドピープル
配給:ユナイテッドピープル
カラー/サイズ:カラー/16:9
スタッフ
監督・脚本:ダーヴィド・グロス
エグゼクティブ・プロデューサー:松嶋啓介
企画:ダーヴィド・グロス、関根健次
プロデューサー:関根健次
撮影:ダニエル・サメール
追加撮影:久保田徹
音楽:高橋英明
主題歌:OMG
録音:小川武
編集:神保慶政
アシスタントプロデューサー:井上緑、岩切智実
技術アシスタント:木津剛
キャスト
ダーヴィド・グロス
塚本ニキ
井出留美
髙橋巧一
高橋健太
涌井和広
青江覚峰
ダーヴィドの声(日本語吹き替え版):斎藤工

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。