「ドランクモンキー 酔拳」の酒と食べ物

さる8月17日(木)~21日(月)に香港で第28回フード・エキスポが開催されたが、映画でも香港関連の話題がある。香港映画界の大スター、ジャッキー・チェン主演の映画「スキップ・トレース」が来る9月1日(金)に公開される。

 今回はそれにちなみ、今年63歳になったジャッキー・チェンが、1978年、24歳の時に出演した「ドランクモンキー 酔拳」に登場した酒と食べ物を取り上げる。

食い逃げから始まった師弟関係

 酔拳(酔八仙拳)とは、あたかも酔ったかのようなトリッキーな動きで相手を幻惑する中国拳法の一種であり、実際には酒を飲んで行うものではない。酔えば酔うほど強くなるというのは映画ならではのフィクションである。

 舞台は清朝末期の広東。「広東十傑」の1人と称される洪家拳の武術家、ウォン・ケイイン(ラム・カウ)の息子フェイフォン(ジャッキー)は、若さゆえのエネルギーを持て余し、喧嘩三昧の日々を送っていた。

 そのあまりの無軌道ぶりに父ケイインは酔八仙拳の達人、ソウ・ハッイー(ユアン・シァオ・ティエン)にフェイフォンを預けて鍛えてもらおうとする。ところが、ソウの弟子虐待の噂を聞いたフェイフォンは着の身着のままで逃走。食堂に入ってさんざん飲み食いした挙句、食い逃げで捕まりそうになったところを酔っ払いの老人に救われる。この老人こそソウその人であった。

 食堂でフェイフォンが頼んだメニューは、燒鵝腿(鴨のもも肉のロースト)、油鸡鹵味(豚の角煮)、蒸条老石斑(魚の蒸し焼き)、一大椀虾球面(湯麺)、紅燒鮑魚(アワビ)、半片花雕(酒)等々。相席の男(実は食堂の店主)に、「全部食べんですか?」と驚かれるほどの量を一人で平らげ、終いにはぽっこり膨らんだお腹を見せるというコミカルなシーンになっている。

三鞭酒は“ポパイのホウレンソウ”

 ソウに弟子入りしたフェイフォンは、厳しい指導に早々に音を上げて逃げ出そうとするが、途中で出会った殺し屋のイン・ティッサム(ウォン・チェンリー)に心身共に徹底的に叩きのめされ、その屈辱を晴らすためにソウの下に戻り、酔八仙拳の奥義を習得すべく修行に励むことになる。

 酔八仙拳は、その名の示す通り中国の有名な八人の仙人の酔う姿を模したものである。

呂洞賓 酒壺を指だけで持ち上げる

鉄拐李 右脚だけながら驚異の蹴り

漢鍾離 酔うと大力、酒瓶を抱えて歩く

藍采和 突如として敵の下腹部を襲う

張果老 高速の連続蹴り

曹国舅 強力な手で敵の喉を突く

韓湘子 笛の名手で鉄の手首

何仙姑 色仕掛けで男を誘う

酒壺を抱えながら酔八仙拳の型を決めるフェイフォン(ジャッキー・チェン)
酒壺を抱えながら酔八仙拳の型を決めるフェイフォン(ジャッキー・チェン)

 このうち、仙女である何仙姑の技だけは女を知らないフェイフォンには理解できず、これが後のティッサムとの再戦における勝敗のカギを握ることになる。

 映画の中でソウやフェイフォンが飲んでいる酒はとくに何であるかの描写はないが、中国には黄酒、白酒、果酒、薬酒、啤酒、外来酒といった種類の酒があるとされる。ただ、一般には広東地方ではあまり酒は飲まれず、とくに強い蒸留酒は苦手という文化があるようだ。

 そんな中、ティッサムとフェイフォンの再戦に駆け付けたソウが劣勢のフェイフォンに飲ませたのは薬酒の一つの三鞭酒。鹿、オットセイ、狼の陰茎のエキスを高粱酒に配合して作られたアルコール40度の強壮酒で、飲むとまるでポパイのホウレンソウのように作用して力がみなぎり、形成が逆転するのがまるで漫画のようで楽しい。

黄飛鴻(1847―1924)
黄飛鴻(1847―1924)

 ブルース・リーが「燃えよドラゴン」(1973)等の作品で見せた剃刀の刃のような鋭い切れ味のアクションでカリスマ的な魅力を放ち、世界的なカンフー・ブームを築いたのに対し、ジャッキーは「キートンの大列車追跡」(1927)のバスター・キートンや、「プロジェクトA」(1983)で時計台のシーンを引用した「ロイドの要心無用」(1923)のハロルド・ロイドのようなコメディの要素を取り入れたアクロバティックなアクションで、親しみの持てるカンフー・ヒーローとして不動の地位を確立した。その後、香港のみならずハリウッドにも進出し、2016年にはアカデミー名誉賞を受賞している。本作はそうしたコメディ・アクション・スターとしてのジャッキーの方向性を決定付けた初期の作品の1本と言える。

最も映画化された主人公

 ところで、ジャッキーが演じたフェイフォンのモデルとなった黄飛鴻は、清朝末期から中華民国初期にかけて活躍した実在の武術家である。ツィ・ハーク監督、ジェット・リー主演の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズ(1991~1997)で描かれたように、欧米列強の侵略に立ち向かった国民的英雄として人気が高く、史上最も多くの映画で主人公になった人物としてギネスブックに登録されている。


【ドランクモンキー 酔拳】

「ドランクモンキー 酔拳」(1978)
作品基本データ
原題:酔拳
製作国:香港
製作年:1978年
公開年月日:1979年7月21日
上映時間:111分
製作会社:シースナル・フィルムズ
配給:東映
カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
スタッフ
監督:ユアン・ウー・ピン
製作:ウン・シー・ユアン
撮影:チャン・ハイ
武術指導:ユアン・ウー・ピン
キャスト
ウォン・フェイフォン:ジャッキー・チェン
ソウ・ハッイー:ユアン・シァオ・ティエン
イン・ティッサム:ウォン・チェンリー
若先生:ワン・チェン
ウォン・ケイイン:ラム・カウ
師範代:ディーン・セキ

(参考文献:KINENOTE)

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映画ウォッチャー 埼玉県出身。子供のころからSF映画が好きで、高校時代にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を観たところ、モノリスに遭遇したサルの如く芸術映画に目覚め、国・ジャンルを問わない“雑食系映画ファン”となる。20~30代の一般に“青春”と呼ばれる貴重な時をTV・映画撮影現場の小道具係として捧げるが、「映画は見ているうちが天国、作るのは地獄」という現実を嫌というほど思い知らされ、食関連分野の月刊誌の編集者に転向。現在は各種出版物やITメディアを制作する会社で働きながら年間鑑賞本数1,000本以上という“映画中毒生活”を続ける“ダメ中年”である。第5回・第7回・第8回の計3回、キネマ旬報社主催の映画検定1級試験に合格。第5回・第6回の田辺・弁慶映画祭の映画検定審査員も務めた。